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夢の人〔1〕

 由利が目を覚まし携帯をチェックすると興梠修一郎から連絡が来ていた。例によって例の如くこのまま短編小説が一つ書けそうな文章である。

昨夜(きのう)夢の中に紀枝(きえ)が出てきた。紀枝は延岡動の奥さんだった。それで弥生が僕の奥さん。動と紀枝は超高級マンションに住んでいるんだけど訳あり物件。弥生と僕がイルカ岬から日向灘を見ている場面で目が覚めた。〉

〈後で詳しく聞かせてください。〉

 由利はそう返信した。


 お昼前、修一郎は由利のマンションの前に車を停めた。携帯で連絡をすると由利はすぐに出て来て助手席のドアを開け乗り込んだ。

「とにかく先生、いるか岬に行ってそこで話を聞かせてくださいね。」

「内海港には寄らないのか。」

 由利の言葉に修一郎は問い掛けた。修一郎の口から内海と言う言葉が出たので由利は修一郎が東郷さつきを意識しているのだと察し、

「内海には帰りに寄りましょう。まずは

夢の話が聞きたいです。」

と答える。

 修一郎と由利はコンビニでペットボトルの飲み物を買うと国道220号を南下した。今日の修一郎は珍しく無言で運転していた。助手席の由利からは左手に日向灘が見える。由利には修一郎と弥生が海辺にいる光景が浮かんでこない。修一郎と弥生は海岸や防波堤より河川敷や川沿いの公園を好んで散歩した。


 いるか岬に着いた。修一郎は国道沿いの日向灘が展望できる小さな駐車場に車を停める。由利は待ち構えていたかのように修一郎に話しかけた。

「先生、夢に弥生さんと紀枝さんが出てきたのは解ります。でもなぜ延岡動さんが出てきたのかしら。」

「内広舞の代理人だろ。」

「そう来ましたか。それでどんな夢でした。」

 由利が修一郎に尋ねる。

 修一郎は夢の内容を朗読し始めた。今回は一人称だった。


   『夢の人』


 台風の大雨で裏山が少し崩れ土砂がすぐ手前まで流れてきたマンションがある。マンションの西側は山で東側は海が開けている。見晴らしはとても良いのだが、よくよく考えてみたら今回のような土砂崩れは想定できたのかもしれない。

 このマンションに妻の友人が住んでいるため私は妻と見舞いに行く事になったのだが、妻が浮かない顔をしているのが気になった。友人宅に行くと言うのに妻の弥生は心配もせず笑いもしない。それどころか口も聞いてくれない。

 友人宅に着いた私はその原因がすぐに理解できた。妻の友人と言うのは私が妻と付き合う前に付き合っていた本田紀枝だったのだ。それ以上に私を驚かせたのは紀枝の夫がラジオ・パーソナリティの延岡動だったからだ。

 紀枝は何も言わなかったが弥生が修一郎に説明を始めた。紀枝は前夫と死別してから延岡動と付き合い始めた。入籍したのは二ヶ月程前でそれを機会このマンションを購入したらしい。

 延岡動には妻と子供がいたはずだが修一郎は敢えてその件には触れなかった。



「続きは一息入れてから話すよ。」

 修一郎は一旦話を切るとペットボトルのジャスミン・ティー飲んだ。

 由利はおかしかった。藤川弥生と本田紀枝が修一郎の夢に同時に出て来た。それは由利の感覚で東と西の横綱が千秋楽に優勝争いをしてるようなものだ。

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