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被害者Xの献身〔7〕

 聡美はデビューが決まり、打ち合わせの日とレッスンで一日が終わることが多くなった。

 二週間程経った頃、プロデューサーの永沢は聡美に信じられないことを言ってきた。

「君のことをSNSに頻繁にアップしている鈴木蓮と言う熱烈なファンがいるね。彼とは合法的に別れてもらう。それから聡美がその男に好意を持っていることも否定しなければならない。だから警察にストーカーの被害届を出すんだ。」

 デビュー前には公認のファンクラブを作ると聞かされていた聡美は蓮が会長か幹部になるとばかり思っていたので、真逆の事を言われて戸惑った。とは言え永沢には逆らえない。聡美は〈そこまでするの。〉と言った感は拭えないのだが、目の前に迫っているデビューを考えると承諾せざるを得ない。


 永沢が聡美に

「怯えた表情をしろ。」

と指示を出した。

 聡美は

「一日に何回も来て下さる大切なお客様だから笑顔で接客しました。」

と永沢に言われた通りの怯えた表情で言って見せた。迫真の演技だった。

 永沢は

「よぉし、それでいい。今のを警察官の前やるんだ。」

と不気味に笑った。


 聡美は心の中で〈蓮、ごめんね。蓮ならきっと許してくれるよね。私が有名になってはっきり意思表示できるようになったら「蓮、大好きだよ。」って言うからね。〉と呟いた。

 マネージャーの服部はあまりにも過激な永沢の広報戦略に言葉を無くし、笑顔で永沢に「はい。」と返事して綿密な計画に同意する聡美に恐怖心さえも抱いた。いずれは[くノ一]を映画でも売り出したいと考えたこともあった服部は〈今、聡美をホラー映画の主役にしたら凄い映画になるだろう。〉と震えた。

 目の前に〈悪魔聡美〉がいる。聡美は善意と好意で自分を応援してくれる鈴木蓮を、何の罪もない一人の青年を犯罪者にしようとしている。

 服部には永沢が悪魔のラスボス[サタン]か[ルシフェル]と同格に見えてきた。

〈俺は所詮下っ端の悪魔だが、聡美は悪魔の愛人だ。悪魔に魂を要り渡したんだ。〉

 服部はプロダクションをたたもうかと迷い、自分にはまだ良心が残っているのだとホッとした。

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