不動のセンター
由利は捲れ上がったTシャツを下げて正し宗久に話しかけた。
「内広さんの表情の変化が弥生さんに似てるの。」
「僕にはそう見える。でも弥生さんのように美しさのある表情の変化じゃない。」
「それってどういう意味。」
由利は宗久問い詰める。
「意図を感じるんだよ。何か目的があるみたいだ。不自然だし行動した後〈営業スマイルは疲れる。〉ぐらいならいいけど、水商売の女の子が〈嫌だけどお金のためだ。〉と割り切った感じがする。その微妙な表情の変化が弥生さんと違う。」
「要するに不自然な訳ね。」
「そう、ちょっと怖さを感じる気味悪さだ。それを可愛らしい声でごまかしている。」
宗久の話を聞いて由利は即座に納得した。宗久は弥生と内広舞の表情の変化を見て取った。二人は根本的に声の質が違うので由利はそっちに気を取られていた。弥生はアナウンサーのように知的な喋り方をする。舞は舌っ足らずな可愛らしいアイドルの喋り方をする。内広舞は元アイドルだ。トップ・グループのように一位は何万票も集めるわけではなく、二桁集めればセンターになれるような小さなグループだけどアイドルなのだ。投票させたければ自分の好みのタイプでないどころか嫌なタイプでもグッズ販売の時に手を握りしめるだろう。忍びの者みたいに後ろから近づいて〈私に投票してね。〉と耳元で囁くかもしれない。グループ名も[くノ一]と言うくらいだ。由利は思い浮かべたそのままを宗久に伝えた。
「アイドルグループの握手会とか、センター選挙の接触プレーみたいな感じなの。」
「そうそう、それだドンズバリ。握手ビジネス。」
「私は内広さんが悪い人だとは思わないし何を考えるか解からないけど、それなら先生の心から弥生さんを押し出してその中に入って欲しくない。」
「でも弥生さんが銀座の高級クラブのママなら内広さんは場末のキャバ嬢かな。良い悪いじゃなく好みだ。銀幕のヒロインが好きか、握手できるアイドルか。」
「弥生さんが先生の中で永遠のヒロインなのは間違いないけど、センターなら不動のセンターでいて欲しい。」
由利はそう言った後、しばらく黙っていたが再び宗久に問いかけた。
「それで大ちゃん、銀座の高級クラブとかキャバクラにはよく行ったの。」
由利の突っ込みに宗久は背を向け、
「やっぱそこか。もちろん接待だよ。学生時代から心に秘めていた由利がいたからね。」
「だ・か・ら、何言ってるの。気が付いたのは一昨日でしょ。」
「だけどモーターショーの日から由利は僕の中で不動のセンターだ。」
「適当なこと言うな。バカァ。」
宗久はこの〈バカァ〉にドキッとする。由利はこの言葉を使い始めていい女に化けた。弥生の影響を受けているのはよく解るのだが同時に弥生がどんな風に魅力的な女性になっていったのか知りたくなった。当然、由利には尋ねられない。修一郎に色々と聞いて自分なりに由利を魅力的な女にしたくなった。




