魔女の造形
由利は背中を向けたまま宗久に話しかけた。
「モーターショーの日、みんなが弥生さんに注目してた。大ちゃんも弥生さんが綺麗だから見てたの。」
「そんなことないよ。由利だってちゃんと見ていた。」
「大ちゃんが見ていたのは私のくびれでしょ。褒めたつもりなの。同情してくれてるの。」
「そうじゃないって。順序良く話すから。弥生さんの表情の作り方にみんな惹かれたんだろうね。一流の女優さんなんかがそうじゃないかな。コンパニオンだったら髪型・メイク・コスチュームで十分だろ。チョロチョロ動くわけにはいかないし少し笑顔の澄まし顔、時々目線を配ってニッコリで充分。でも弥生さんは表情の作り方がすごく綺麗なんだよ。」
由利はあの日宗久がそこまで弥生を見ていたとは考えてもみなかった。僅か数分の弥生が宗久の目にどう映ったのか気になり尋ねた。
「それだけじゃ解かんないよ。もっとキチンと説明して。私より弥生さんの方が素敵なんでしょ。」
普通ならここで〈そんなことはないよ。お前の方が可愛い。〉で終わるのだろうけど、やはり宗久は馬鹿正直に説明を始めた。
「一番最初は弥生さんが〈あなた、この車買わないでよ。〉って笑ってただろ。その時の表情は〈車より私を見て。〉って感じだった。拗ねて甘えるような表情で先生を見た弥生さんはキャンギャルを見て〈あなたは枠の外よ。〉って表情に変わった。スポーツ選手ならの全国大会の決勝進出と地方の予選落ちぐらいの違いかな。その表情が変わる時の間の取り方がとても魅力的なんだ。速かったら豹変したって感じになるし、間が空くとごくごく普通の表情の変化。その絶妙さが弥生さんの先天的な魅力かな。それで由利を見る時の弥生さんは母親が娘を見るときの優しい表情だけど、由利を女としても魅力的に見せている。とにかく弥生さん表情の移り変わりがなんて言うのかな、綺麗に動く造形なんだ。魔法のオブジェって感じかな。」
由利は宗久が弥生の表情の変化を例えるのにこんな表現をするとは思わなかった。思わなかったと言うより、こんな表現をする才能は持ち合わせていないと思っていた。
「ねぇ、大ちゃん。弥生さんが世界トップクラスのアスリートなら私はどのレベル。」
宗久は嬉しそうに笑いながら答えた。
「トップアスリートの指導を受けてる将来有望なアスリート。」
由利は少し口を尖らせ笑いながら宗久に言う。
「あ、上手く逃げたな。」
「上手く逃げたのは由利の方だろ。」
と宗久は言い返して話を続けた。
「弥生さんはあの日、魔法を使ったのかな。由利と僕を引き合わせるためのね。」
由利は修一郎の言葉を思い出した。
「弥生は女の子がいないだろう。だから由利ちゃんみたいな娘が欲しかったんだ。」
そんな事を考えている時に宗久がぽつりと言った。
「内広さんが先生を見る時の表情の変化はどことなく弥生さんに似ている。」
その宗久の言葉を由利は素直に喜べない。




