弥生とやよい
「ただいま。」
と声がした。宗久が帰って来て、
「これ、お土産。」
とコンビニで買ったスイーツを差し出す。由利はジーンズに白いTシャツで、
「大ちゃんの大好きな女子大生の由利ちゃんですよ。」
と笑っていたが直ぐに真顔になり、
「テーブルの上に置いといて。先生に急ぎの用事がある。」
と携帯を手にして
「先生も家に着いてるよね。」
と言う。
数回の呼び出し音の後、修一郎は電話に出た。
「先生、突然だけど今知らせておきたいことがあります。」
「どうしたの急に。」
やや慌て気味の由利に修一郎は尋ねた。
「内広さんの件です。ゼミの友達の妹がそのグループにいたんです。グループ名は〈くノ一〉。これだけ覚えやすい名前なのに忘れるんだからそんなにメジャーではないはずです。」
「そうか、確かにそれは聞いたことがないな。」
「驚いたのはそのグループに東郷やよいと言う女の子がいたんです。」
「すごい偶然だな。」
修一郎は淡々と言う。
「ここから先が凄いんですよ。そのやよいちゃんって弥生さんのお兄さん娘さんだったんです。」
「そうか、あのやよいちゃんか。」
修一郎はあまり驚く様子もなくそう言った。
「先生知ってるんですか。」
「知ってるも何も、以前聞いたことがある。長男夫婦が〈弥生叔母ちゃんって綺麗だから『やよい』にしようか。〉って命名した。弥生は僕に〈私の方が全然綺麗だけど。〉って言ってたな。」
「すっごくよく解ります。って、その光景が目に浮かびます。それで調べたところグループの『くノ一』のメンバーは十人です。一人はセンターでバックが九人。でもセンターはやよいちゃんの独壇場だったとか。結局、やよいちゃんは芸能界に馴染めずにすぐ辞めてしまいました。センターのいなくなったグループは名前だけで間もなく解散して、内広さんは宮崎に戻って来た訳です。」
「でもどうして分かった。」
「友達が宮崎に旅行に来ました。妹も一緒で内広さんを見て〈なんで、こんな所にいるの。〉ですよ。」
「そういうことなのか。」
修一郎は相変わらず淡々と喋る。由利は
「先生、今日は随分冷めてますね。」
と突っ込んでみた。修一郎は
「さつきちゃんの肌の方が弥生よりスベスベしてたな。」
と言う。由利はクスッと笑い
「ここは〈バカですか。〉じゃなくて、〈バカァ。〉ですね。弥生さんとやよいちゃん、五月さんとさつきちゃん、偶然が揃い過ぎですよ。弥生さんがやっぱり何か伝えようとしているのか、内広さんから先生を遠ざけようとしている。」
「そうみたいだな。」
「先生、F2に通うの止めるんですか。」
「F2に通うのを辞めたら五月さんに会えなくなる。」
「では嫉妬心からストーカーにされない程度に程々で。」
「内広さんとはそんな関係じゃないだろ。」
「例え話ですよ。『くノ一』の女の子で相手がストーカー行為をするように仕向けて慰謝料を請求していた女の子がいるんです。活動資金集めのためです。その後、交通事故で亡くなったみたいですけど、それが訳ありみたいな。」
「そうか、気を付けるよ。ありがとう。」
修一郎と由利の通話が終わると宗久は由利に近付いた。
「今日は女子大生の由利ちゃんだ。」
由利はTシャツを捲りあげようとする宗久の手を払い退けた。
「私、若くないから。バカァ。」




