電源にご注意
「由利、先生に言い過ぎだよ。それじゃあ、これから帰るから。」
宗久は由利にそう言って電話切った。
「それにしても、あのスタイルが良くて綺麗なくびれの女の子が由利だとは思いませんでした。僕と知り合った頃はもうちょっとお肉がついてたからちょっと悔しいです。」
「間違っても由利ちゃんの前では言わないようにね。」
「もちろんです。でもなんだか嬉しい。」
修一郎と宗久は男同士の会話を続けている。
「ところで先生は芸能人って苦手な方なんですか。」
「いやそんなことはないよ。でも、お付き合いするのは一般人がいいな。」
「じゃあ、さっきみたいに芸能界にいて一般人になった女性というのはもうダメなんですか。」
「ダメという訳じゃないけど 距離を置いてしまうな。」
「そうなんですか。由利も同じことを言います。由来は学生時代、よく街でスカウトされて数ヶ月事務所にいたみたいですけど結局は水が合わずに辞めましたからね。」
「とにかく由利ちゃんはよく声を掛けられたよ。」
「由利は弥生さんの方が凄かったって言ってます。」
「遠目に見た時は確かにそうだろうね。小柄だしモデルというよりはアイドルという感じだ。でも近寄ると若くはないと分かってしまう。」
「でも若い頃はすごかったって話ですよ。」
「そうらしいね。それが嫌で結構近づき難いオーラを出していたみたいだ。それでも声を掛けられると〈わたし事務所に所属してます。〉と父親の事務所の名刺を渡していた。」
「それが一番すごいかもしれない。当時の弥生さんのお父さんって言ったら総理大臣でしょ。」
「確かにそうだ。」
修一郎と宗久は弥生と由利の話題で盛り上がった。
「モーターショーですけど、観客が弥生さんと由利の撮影を始めた時に弥生さんが由利の横で両膝付いての由利の腰に手を回したじゃないですか。その後、掌で由利のお腹をさすっていたのがまだ生々しく記憶に残ってるんですよ。あれって撮影しているのは絶対弥生さんの顔と由利のお腹ですよね。画像や動画があれば観てみたい。」
「帰ってから見せてもらえばいい。弥生の役は宗久君がやればいいじゃないか。僕としては由利ちゃんが弥生と交代して同じことをやって欲しかったけどな。」
修一郎は笑いながらも宗久に言った。
「でもあの時の由利のお腹、今よりスベスベしていた。」
突然、由利の声がした 。
「ババアで悪かったな。一体誰のせいでお腹の肉が弛んだと思ってるの。子供二人を産ませたのはあなたじゃない。でもね、大ちゃんと知り合った時だって学生時代と比べてそんなに太ってないからね。私が聞いてないと思って好き勝手に喋べんな。」
電話が切れた。
「やっば。先生、コンビニ寄ってスイーツを多めに買います。」
宗久は携帯を三台持っている。仕事用、プライベート用、そして由利専用だ。その中で由利専用の携帯だけがカーナビのBluetoothと連動していない。切ったつもりの電源が切れていなかった。
電話を切った由利は弥生の事を考えていた。とにかく宗久は後でたっぷりと懲らしめてやればいい。〈先生と弥生さんは恋人以上の友人で、何もなかったから私が「弥生さん、時には課長にサービスしたらどうですか。」ってシャツ捲っちゃえばかった。〉
由利は人生の先輩だからと遠慮したのを後悔した。




