鏡の中の彼女
修一郎と由利は国道を南下した。目的地は 数日前に東郷さつきと会ったあの港だ。
「先生は、仮にですよ。内広さんとモーターショーに行ってもコンパニオンに目移りしますか。」
「そりゃあ、するだろうな。」
「先生その癖直した方がいいと思います。女の子は視線の先に何があるか確認しますから。」
「だな、アイドル歌手でもいたら〈私の方が全然可愛いけど。〉って言いそうだ。」
「内広さんはそんなこと言わないでしょ。誰かと違って。」
修一郎の話し声が弾んでいるのでその時の事を思い出しているんだと由利は察した。修一郎の横顔を見るととても楽しそうな表情をしている。やはり弥生を忘れていないのだ。 由利としてはできればこの笑顔を残したまま、舞に修一郎の心から弥生を押し出して欲しい。
由利が自分を見ているのに気付いた修一郎は
「由利ちゃん、絶対に後部座席は見るなよ。五月さんがルームミラーに映っている。あっ、由利の首に手を伸ばそうとしてる。」
と言った。
由利は驚いて体を少し前にずらしながら、首を右に捻り後部座席を見た。シートベルトをしているのですぐにガクンと身体は止まる。当たり前だが後部座席に五月はいなかった。由利は少しムッとして口を尖らせ、
「先生、冗談のタイミングが悪すぎです。」
と言う。修一郎は
「冗談なんかじゃないよ。ミラーには五月さんが写ってる。」
と言い返す。
「先生、嘘ついても駄目です。先生は五月さんがいると弥生さんに叱られた時のような表情をしてます。」
修一郎は無言のままだ。車は港に着いた。由利は驚いた。防波堤の先端には五月ではなくさつきがいた。こんな偶然ってあるの、弥生さんはやっぱり成仏してないんだろうか、由利はそんな事を考えた。




