恋は温かいうちに
五月は修一郎に話しかけてきた。
「レジの彼女と少しは進展したの。」
「 今まで通り買い物をしてるだけですよ。」
修一郎は現在の状況をありのままに五月に伝える。
「電話番号は聞いたの。」
「いえ、まだ聞いてないんです。」
「呆れた。それじゃ気持ちの伝えようがないじゃないの。」
買い物を終えた由利もサッカー台にやってきてマイバッグに商品を詰め始めている。由利は修一郎と五月からは少し距離を置いているが会話はしっかり聞いていた。会話だけ聞いているとどうしても修一郎と弥生の会話に聞こえてしまう。
五月は相変わらず修一郎に向かって喋り続けている。
「あなたがはっきりしないと彼女はそのうち意地悪されているんだと思うわよ。女ってそう言うもの。あなただってそれが分からない 年齢じゃないでしょ。モデルさんみたいな相方に尋ねてみたら。」
五月はそう言って由利を見た。視線が合ったので由利は軽く会釈をする。五月の顔を見て由利はびっくりした。前回会った時より若くなっているように見える。サッカー台は窓際で光が差し込んでるから気のせいかなとも考え、もう一度五月を見たがやはり前よりは若く見える。〈五月さんはやっぱり幽霊かしら。〉と由利は半分冗談ぽい妄想をした。
修一郎は五月に
「歳が離れ過ぎているのが気になるんです。」
と言う。五月は
「あなた馬鹿じゃないの。あなた馬鹿正直なんだから、正直に自分の気持ちと年齢を伝えるべきよ。それじゃまたね。」
と言い、詰め終わったマイバッグを手に出口へと向かった。
二人の会話を聞いていた由利はどうしても 弥生を思い出してしまう。同時に源頼朝と北条政子を思い浮かべた。修一郎が書いている椎葉村の鶴富姫伝説『美しき入道の孫娘』に登場する頼朝と政子は修一郎と弥生そのものだ。
五月は修一郎に〈恋は温めるだけじゃダメよ。温めたら冷める前に食べなきゃ。〉と言いたいのだろう。由利も修一郎を見ているとイライラする時がある。弥生ならきっと内広舞のレジに行き〈あの人、あなたのことが好きよ。優しくしてあげてね。〉とズバッと言いそうだ。そして〈あなたがウダウダしてるから私が言ってあげたわよ。〉 と言い、一人になったらきっと泣くのだろう。
そんな妄想が修一郎と舞の仲介に入ろうとする由利を躊躇させる。




