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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第四幕
59/60

戦略

午前中の晴天は何処へやら、午後は天気が急転し生憎の雨だった。昼食の後すぐ、私は傘を差して屋敷へ向かった。玄関先の軒下で偶然にも、ちょうど扉に手をかけた流文と、黒い傘を片手に持った俊祐に会った。

 

「こんにちは俊祐君、流文君。もしかして二人とも首都高の件?」

私は二人の手元に目を移す。自分と同じく角をホチキスで留めた資料を持っていた。

「そうだよ」

「もしかしてって、師匠から聞いてなかったのか?」

「うん……特に」

 返事をしておいてなんだけれど、午前中の会話を思い出してみる。……木織から伝えられたのは、やはり私に討伐をお願いしたいという旨だけである。

 

「悪かったな。師匠、偶に抜けてるとこあるんだ。許してやってくれ」

私は面食らいつつ「もちろん」と頷いた。木織への信頼の厚さが起因しているのだろうか。やけに素直だ。

 

「佐倉、木織様の部屋は初めて?」

「そうだね。織火さんの部屋なら何度か行ってるけど」

「じゃあ尚更だ、一緒に行こう。流文が案内してくれるらしいからさ」

「任せとけ」

 

得意げな表情で流文は玄関に上がると、廊下をズンズンと前進していく。その自信満々の背中を見た私は俊祐と顔を見合せてクスッと笑い、後を追った。


 

木織の部屋は階段を上った先にある。洋風な一階に反して二階は和風で、扉も襖になっている。流文によると、二階はプライバシーの問題で男性専用のフロアなのだとか。

 

廊下の突き当たりの部屋に来ると、流文は襖の側にある柱を数回、軽くノックした。

「師匠、俺でs」

「いやいやいや待て流文、それ入り方違うだろ!」

俊祐は小声で叫びつつ、背後から流文の口を塞いだ。当然、流文は俊祐の手を剥がそうと暴れ出す。 

確かに俊祐の指摘は間違いではない。流文の行動は目上の人に対する敬意も和室に入る際のマナーも欠けている。けれど此処で騒いでしまうと、更に無礼が重なることになる。

 

「ちょっと落ち着いて……」

「はいはい。今そっち行くよ」

部屋の奥から声がしたと思うと、襖を開けた木織が出てきた。私たちを見るなり、柔らかく微笑む。

「こんにちは。随分と楽しそうだね」

「そう見えます……?」

懐疑的な目で木織を見る俊祐。それを気にする素振りもなく、木織は流文に目線を動かした。

 

「流文はそろそろ礼儀作法を覚えなさい。いつでも教えてあげるから。織火に扱かれるのは嫌だろう?」

「ぜってー嫌」

「なら頑張って。君は近いうちに孤児という扱いではなくなるんだからね」

流文は静かに頷いた。父親と子どもの姿を連想したのは、きっと私だけではないと思う。

「じゃ、任務について説明しないとだ。みんな中へどうぞ」


部屋の真ん中にお茶請けが載った長机が一つ、その周りに座布団が四つ。私たちは三人横並びで座布団に腰を下ろした。そして対面に木織が座り、予定時刻より数分遅れてミーティングが始まった。


「事件の内容は渡した資料と何ら変わりない。今から話すのは基本的な戦略かな」

木織の視線が俊祐に向けられる。

「今回は……俊祐くん。君を主軸に討伐してもらう」

「はい?」

「ま、当然だろ」

 そう言って流文は俊祐の肩をぽんと叩く。私にはその意味がてんで分からなかった。 

「三人それぞれの能力を鑑みるに、首都高にいる悪魔は俊祐くんにしか倒せない。何故かと言うと……水音ちゃん、悪魔についての情報は覚えてる?」

「えっと、動きが異常なまでに俊敏なんですよね」

 

「その通り。今回の悪魔はとにかく速い。一般人なんかは訳も分からぬまま首を掻き切られて死んでしまう。流文も水音ちゃんも、そして僕も、気を引き締めていなければ即死する。けど、俊祐くんはこの驚異的な速度に対応できる術を持っている。だから君たち二人の今回の仕事は討伐というより護衛になる。彼が怪我をすれば、みんなまとめてあの世行き───それくらいの心持ちでよろしくね」


私たちが此処を訪ねた時と同じように、木織は貼り付けたような笑顔を浮かべた。……色々と怖い。はい、と答えた私と違って、俊祐は怯えた様子で何度も首を縦に振り、流文は神妙な面持ちで一度だけ頷きを返した。

「覚悟はできたみたいだね。よし、出発しようか」

「「「えっ」」」

三人の声が揃う。ここまで脅されて簡単に覚悟が決まるものか。そんな気も知らずスタスタと部屋を出ていく木織の後ろ姿が廊下に消えても、私たちは暫く呆然と入口を見つめていた。



 

雨がいつの間にか止んでいたので、屋敷に持参した傘は一旦寮に置いて行った。いつも通り依雲に案内され、木織、流文、私、俊祐の順に一列で並んで歩き、【白天】を囲む森を抜ける。その先は緑豊かな公園だった。平日ではあるが、犬の散歩をしている人や、タコの遊具に登ったり周辺を走り回ったりする子どもたちが多く見受けられる。とても平和な光景だ。

 

「師匠。気になってたんですけど、どうして此処まで付き添いを?」

「ああ、ごめん。言ってなかったね」

木織は辺りをキョロキョロと見回して何かを見つけると、私たちに向き直る。

「事前に呼んでおいた君たちの助っ人を紹介するためだよ。近くのコンビニで待ってるらしいから、行こうか」

 

……助っ人、って誰だろう?

首を傾げて顔を見合わせるも、私たちは言われるがまま木織の背中を追うしかなかった。


 

数分でコンビニの駐車場に到着した。木織が言うには此処に助っ人が来ているらしい。それは誰なのか、聞くまでもなかった。

店を出入りする客に何やら奇怪な目で見られている若い男がいた。彼は黒いスーツを少し着崩しており、どういう訳かスマホを片手にグレーのセダンの周りをぐるぐると歩き回っている。恐らく助っ人はあの人だ、と私は直感した。

 

勘づいているのは私だけではなかったようで。

「なあ水音、あれが師匠の言う助っ人か?」

「多分そうじゃない?」

「明らかに変人じゃん……大丈夫かな、僕ら」

三人でこそこそと話し合っているうちに木織は若い男に近づき、声をかけていた。


瑜伊紀(ゆいき)、待たせて悪かったね」

「いえ。そう長い待機ではなかったので問題ありません。……木織様。彼らが、例の?」

「そ。今年から白天士に任命された、朝霞流文、佐倉水音、佐々木俊祐だよ」


木織に目線で合図されたような気がして、私たちは瑜伊紀と呼ばれた男に無言で会釈した。

「はじめまして、黒樹(くろき)瑜伊紀と申します。普段は海外を中心に活動している白天士ですが、強化期間に伴い一時帰国しております。皆さん、どうぞよろしくお願いします」

丁寧な挨拶、爽やかな笑顔。どちらも完璧な演技だと私は即座に見抜いた。楓季の取り繕った()と同じだからだ。


「瑜伊紀には、現場まで行くために自動車の運転を任せた。君たちの仕事には不測の事態が起きない限り一切手を出さないよう言ってあるから、頑張ってね」

 言い終えて、さながら風のように去っていく木織。どうやら彼の付き添いは、ここまでのようだ。

 

「では早速、事件現場に向かいましょうか。皆様は後部座席にどうぞ」

奥に流文が座り、私も続いて乗ろうとした瞬間だった。

「水音ちゃん」

振り返ると、もう帰った筈の木織が立っていた。

「織火から伝言を預かっていたのをすっかり忘れてた。一回しか言わないから、よく聞いて」

耳打ちされて少し驚いたが、聞こえてきたのは動揺する程の内容でもなかった。


「分かったかな」

「はい。大丈夫です」

「なら良かった。それじゃ、気を付けて」

「木織さんも、ですよ」

 

嬉しそうに笑った木織は今度こそ【白天】に戻って行った。その背中を、俊祐が静かに睨んでいる。

「俊祐君?」

「え……あ、ああ。大丈夫、何でもないよ」

まだ何一つ訊いていないのに。俊祐はそう言って、誤魔化すように「ほら佐倉、早く乗って」と私を急かした。

遅くなってしまい申し訳ありません。

暫くはこんな感じで不定期投稿が続くと思いますが、よろしくお願いします。

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