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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第四幕
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強化期間のはじまり

美煉がミーユを倒したことで、私たちは結界を脱出した。


次に目を覚ましたのは夜七時、治療所のベッドの上だった。起き上がると傍らに、椅子に座った凪がいた。彼は【白天】の事後処理班と共に、私たち白天士と魔術領域に閉じ込められていた子どもを治療所まで運んでくれたそうだ。美煉こそ重傷だったものの他に怪我人はなく、全員の無事が確認された、とも教えてくれた。

華煉の遺体については、研究所にて魔力の残滓の調査がなされた後、美煉の意向で火葬することに決まった。


かくして事は収まったが、美煉は最短でも一週間は治療所で入院、私と彩奈は訓練を受けながら討伐依頼を待つ、というのが現状だ。




……と、そんな訳で一日だけ治療所で休養し、一夜明けた今朝。朝食作りのため食堂にやって来た。結界内で過ごした時間が長かったからか、此処を訪れるのも久々な気がしている。

風邪で数日休んだ後の学校のような緊張感に、深呼吸で気持ちを落ち着かせる。身なりを整え、厨房に入った。


「水音ちゃん、おはよー」

「おはよう。……あれ、麦ちゃん?」

グッと親指を立てて此方に笑顔を見せる麦。胸元に小さなメロンパンの刺繍が施された白のエプロンは、実に彼女らしい。

「朝食担当になったの?」

「ううん、ひーちゃん……陽夏ちゃんの代理。緊急の任務みたいで」

「そうなんだ。なら、今日が初めて?」

「二回目だよ。昨日は水音ちゃんの代理で来たから」


それは初耳だ。

……昨日は任務後の診察があって、念のため治療所にいるよう向日さんに言われてたから、朝食作りはどうなったのか気になってはいたけれど。


「ごめんね、代わってもらっちゃって」

「謝らないで。結構楽しかったし」

麦は屈託なく笑った。

初めて会った頃と比べ物にならないくらい、表情が柔らかくなっているのに気付く。人見知りの彼女も【白天】に馴染めたのだと思うと、時の流れを感じてしまう。

けれど、

「あの、水音ちゃん。調理しながらお話とか……しない?」

自分から誘う時のよそよそしさは、あまり変わりないようだ。

「もちろん」



麦が今日ついに初仕事だと言うので、私はスープ用の野菜を包丁で刻みつつ、一昨日あったことを大まかに話した。魔術領域と魔術結界、その縛り。魔術の応用。私たち白天士の戦略などだ。

ミーユと美煉の関係、私が理想鏡界の中で見たものについては伏せておいた。


「そっか、如何に相手の戦闘スタイルに適応できるか……それが鍵になるんだね。やっぱり試験とは段違い」

「大丈夫だよ。ひとりじゃないでしょ?」

「……うん。美里と一緒だから心強いよ」


共闘した経験があるから分かる。新米白天士の中でも、美里は強い部類に入る。当の本人こそ舞花には劣ると言うが、あの無駄を削いだ俊敏な剣捌きは容易にできるものではない。


「なら安心だね。初仕事、頑張って!」

「ありがとう。水音ちゃん今日は休み?」

「うん。急な依頼が入らない限りは」


白天士は基本的に当主によるスカウト制だが、人手に不足はないそうだ。キンハ以外の単独任務禁止、回復スキルの技術進歩の関係で、年々死傷率が低下しているのが要因と聞く。

優秀な白天士は大勢いるのだ。まだ一日しか休んでいない私をわざわざ仕事に借り出すとすれば、余程のことだろう。

……そう思っていたのだけど。


「残念だけど、今まさに急な依頼とやらを伝えに来たよ」


ぽんと肩を叩かれて背後を振り返ると、【白天】の当主の一人が其処にいた。隣の麦も驚いた様子で口が開いたままである。

「木織さん、いつの間に……!?」

「ついさっき」

それは事実か否か。はっきりと告げず、木織は話を続けた。

「この時期の織火は多忙でね、仕事の依頼を始めとした【白天】内の業務は僕が受け持つんだ。まあ、忙しいのは当主だけじゃないけど」


左上の角をホチキスで止めた書類が差し出される。パッと目に入ったのは、太字で印刷された『緊急』の下にある『首都高速道路奇襲事件に関して』という見出し。


「水音ちゃんに緊急任務に任せたい。今日の昼食後、僕らの屋敷においで。それまでに、この資料に目を通しておくこと。急だけど時期が時期だから、よろしくね」

「了解です」


先程の書類を受け取り、連なる活字の羅列を眺める。織火の場合は口頭での説明が殆どだったからか、律儀に資料を作って渡す木織のやり方は新鮮な気分だ。後者の方が作成に時間を要するという点で効率が悪いけれども、自分のペースで情報を吸収できるので、こちらとしては有難い。


「じゃ、僕は行くよ。二人とも頑張って」

軽く手を振って厨房を出ていく木織に、麦と会釈を返した。


貰った資料は邪魔にならない場所に置き、手を洗って調理を再開する。切った野菜を鍋に入れ、コンロの火を点けた。後は煮込みと味付けだけである。

まな板と包丁を流しに持って行った麦は戻ってくるなり、私の仕事を話題に挙げた。


「さっきの資料、何が書いてあったの?」

「そうだね……まだ全部は読んでないけど、主に事件の概要かな。首都高で悪魔の奇襲が起きてるみたい」

しかも無差別。質の悪い悪魔だ。

「首都高を封鎖できないのかな」

「難しいと思う。流通が滞るし、仮に封鎖したら悪魔が別の場所を襲撃する可能性が高いから」

「あっ、確かに」

被害を最小限に抑えるには、首都高を封鎖しないことが一番の策なのだろう。私たち白天士も悪魔を探す手間が省ける。


「お互い大変だけど頑張ろうね、水音ちゃん」

「うん」

笑い合う私たち。湯気に包まれたコンソメの香りが鼻を擽る。スープの出来上がりはもうすぐだ。

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