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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第三幕 鏡に映る理想郷
52/60

【一番星】

更新です!!(遅)

リアルが忙しかったもので、すみません。

彩奈視点です。よろしくお願いします。

「……楽しかったよ。でもミーユ、あなたは絶対に許さない」


私の発したその言葉で、戦いの火蓋は切られた。



「そう、良かった。これで思う存分戦えるわ」

ミーユが口角を緩ませ、悪役の笑みを浮かべる。すぐさま彼女の掌から攻撃が繰り出された。


魔術攻撃【黒鏡閃光】


禍々しい黒の閃光が迫る。私は身を翻して難なく躱すと、ミーユの左側に回った。水音はその逆、右側へ駆ける。狙うは挟み撃ちである。

二人が位置についた途端、後方で爆発が起きたかのような音が響いた。どうやら先程の閃光が魔術結界の端に衝突したらしい。


爆音の直後、ミーユが私たちの作戦に勘づいた。腕を左右に伸ばし、掌を見せる。それは魔術が発動する前触れだ。

ミーユの動きに即座に反応した水音が弓矢を構えたと同時に、私もステッキに天力を溜め込む。


星杖攻撃……


「伏せて!」


考えるより先に体が動いてくれた。私は天術を取り止め、素早く身を屈める。


水弓攻撃・【海原一雫】


放たれた一矢は空気を切り、刹那の間に私の頭上を通過していく。途端、背後でガシャンと何かが割れた音がした。

振り向くと、目線斜め下に円い鏡が一つ。水音の攻撃によるものだろう、鏡面から額縁まで見事に粉砕されている。微量の魔力を帯びていたのは言うまでもない。


つまり、ミーユが掌を出すことで魔術を発動させるフリをし、隙があった私を攻撃した。その作戦に水音が気付き、すかさず反撃を仕掛けたという事だ。

一方で、私は鏡の気配すら感知できなかった。白天士の身でありながら面目ない。


一旦、ミーユから距離を取るため後退すると、水音が駆け寄って来た。

「彩奈ちゃん、怪我はない?」

こくりと頷く私。

「なら良かった……大丈夫、焦らないで。二人で確実に倒そう」

彼女の言葉は力強かった。戦闘中にも関わらず、笑顔を見せてくれる。


……似ている。

兄さま――哀川魁知も同じ水属性だったというのもあるだろうけど、その感覚は間違いないという自信があった。


「いい腕前ね、おねえちゃん。一度戦って怪我したなんて嘘みたい」

ミーユは水音の技量を素直に褒めた。相変わらずニコニコと笑っていて、余裕の様子だ。

「それはどうも」

これ以上、水音は何も口にしなかった。その言葉には普段の彼女とは違う、仄かな冷たさがあった。


正直、ミーユの言うことは否定できない。私を目で追って動きを合わせ、不意打ちの攻撃を見破り防ぎ切った。中級悪魔との戦闘後でこれである。

経験を積んでいない若手がここまで戦えるとなれば、キンハ最有力候補という肩書きも頷ける。


水音は天力量が多い上、実戦に向いている。これはある意味、天才だ。元から悪魔討伐の才能を持ち合わせた人なのだ。そうでもなければ、任命されて間もない白天士がキンハに匹敵する強さを見せる筈が無い。



私の兄さまも、白天士に向いている人だった。清瀬夜星、潮瀬凪も同様だが、三人は一年でキンハに上り詰めた。


兄さまの功績は、それだけに留まらない。今まで交戦して生きて帰った者は一人だけと言われる上級悪魔と対峙し、追い返したのだ。怪我も酷く、勝利こそしなかったが、これは【白天】の歴史を塗り替えた出来事だった。


そもそも上級悪魔に遭遇すること自体が稀である。低確率を引き当てて、更には互角に戦った――即ち【白天】に所属する人の中でも精鋭の白天士なのだ。



「彩奈ちゃん、私は援護に回るから、先導はお願い。一気に叩くよ」

弓矢は遠距離攻撃型の武器である。接近戦よりかは、後方支援が割に合っているという判断だろう。

「……了解」

考え事をしている暇はない。水音の指示通り、私はミーユに向かって駆け出した。彼女になら、安心して背中を預けられる。


魔術攻撃【闇濃霧】


此度もミーユが先攻した。辺りは突如として濃霧に包まれ、敵影すら捉えられない。恐らくは【闇靄】の応用だろうが、この程度、私でも切り抜けられる。


星杖攻撃・【綺羅星】


海を泳ぐ鰯のように群がる小さな星々が、私の周りで輪を作るように旋回している。空吸で地面を飛び立ち、円を描くようにスピンすると、その動きに呼応して星々がバラバラに飛び散った。それらは、まるで夜空に浮かぶ無数の星の如く――煌々と輝き、やがて濃霧を吸い込んだ。

視界は晴れた。ミーユの姿もはっきり見える。彼女はぽかんと口を開けて、そのまま突っ立っている。


「なに、それ……わたしの霧を吸収したって言うの?」

「そうだけど」

「おかしい……おかしい、おかしい! これは【闇靄】より強力で、そう簡単に消える筈が……」

明らかに動揺しているミーユ。これも作戦の内なのだろうか、なんて考えながら、私は彼女を見た。


どうにか隙を突きたい。着地の直前にステッキを振ると、先程の星々が静かに動き始めた。【綺羅星】はまだ、役目を終えた訳ではないのである。

「お願い!」

その言葉が届いたのか、もしくは天力に反応したのか。【綺羅星】は凄まじい速さでミーユを目がけて落ちていった。それも流星に勝る、思わず目を見張る程の速度だ。


【綺羅星】が消滅すると、敵の居所は白煙に満ちた。水音の力を借りず、悪魔を追い詰める事に成功したのだ。素直に嬉しいと同時に、油断ならないと思った。

確かにミーユを混乱に陥れたくらいには、私も天術で圧倒できた。しかし、相手を甘んじるのは危険が過ぎる。


この後すぐ攻撃されても対応できるよう、周りに注意を払っ――


気配は刹那の間にすぐ側まで来ていた。【綺羅星】の影響で敵を見失ったのが痛手だった。今の今まで感じていなかった殺気に首筋が凍る。

あの動揺は本気で作戦の一つだったらしく、視界の端でミーユが私を睨んでいる。獲物を捉えたかのような鋭い目つき。彼女の手に武器は無いが、何かしら仕掛けてくるに違いない。


どうしたら、この状況を打破できるのか。

死を覚悟した間際、そう迷う暇は一瞬すら無いと知っている癖に、すぐに行動に移せないのが私の悪い所だ。

だから私は、また彼女に助けられる。


水弓攻撃・【水龍の舞】


放たれた矢が瞬く間に水龍へと変化すると同時に速度を増し、ミーユとの距離を一気に縮めた。

「まどろっこしい……」

ミーユの呟きは空気に溶ける。跳躍で水龍を避けた直後、後方へ退いた。私を襲うよりも水龍から離れることを優先したようだ。それでもなお、水龍は速度を維持してミーユに向かって突き進む。これにはミーユも反撃せざるを得ない。


魔術攻撃・【雨鏡(あめかがみ)


水龍の真上に突如現れたのは、何十枚、何百枚、下手すると何千枚にも及ぶ鏡。初見の魔術だったが、嫌な予感がしたのは確かで。

「彩奈ちゃん、追撃お願い!」

そう言った水音の声にも、少なからず焦りがあった。


星杖攻撃・【彗星弾】


ステッキ内部の天力が放出され、彗星が大量の鏡に激突する。その寸前。

「降り注ぎなさい――【雨鏡】!」

ミーユの声と同時、現れた鏡の八割方が一斉に水龍の体を突き刺した。水龍は呻くことも無いままに消えていく。

残る二割は私たちに飛んで来た。【彗星弾】では全てを相殺することは叶わず、水音が防御スキルで守りに徹した。


水防御・【水車転】


巨大水車の高速回転と同じ要領で、襲い来る鏡を敵に吹き飛ばす。水音の動きが一秒でも遅ければ鏡に殺られていたかもしれない。そう思うと、水音には感謝してもし切れないというものだ。


防御スキルの効果が切れると、五メートルほど離れた所でミーユが平然とした表情で佇んでいた。スカートの埃を払う彼女に、やはり傷は見受けられない。

「まさか、もう終わり? あの星と龍の攻撃は結構楽しかったけど、まだ一年目の新人さんなら技量も半人前だもの。おねえちゃん達じゃ、わたしには勝てないよね」

私たちを試すような微笑み、舐めた口振り。でも言っていることは正論そのもの。だからこそ苛つくし、何より悔しい。美煉を傷つけた時点で、私はミーユを許さないと決まっていた。倒さなければならないのだ。

たとえミーユが、美煉と血縁関係にあったのだとしても。


「……まだ」

ミーユの瞳を見詰める。底が見えない暗闇の色をしたそれは、私を映した途端に歪む。

「私は、まだ終わらない!」

固く握り締めたステッキを構える。天力は既に装填済み。今度は絶対に先攻する。ミーユよりも速く、天術を撃ち込む――!


星杖攻撃……


「やる気を出せば動きが速まる、術の威力も向上する……そんなことが有り得るって、本気で思っていたの、おねえちゃん?」


魔術攻撃・【真円鏡(しんえんきょう)


足元に顕現するは真円の鏡。薄黒い光が徐々に色を濃く深くしていく。倒すと決意して、早くも詰んだ。もう逃げられない。私は死ぬ。死んでしまう。そう悟ってしまった――


瞬間だった。






「もし白天士になったら、彩はどの属性を選ぶんだ?」


そう尋ねられたのは、入団式の少し前。過去を夢に見て寝つけなかった私を、魁知が散歩に連れ出してくれた時のことだ。こっそり孤児院を抜け出して無言で【白天】の敷地内を歩いていたら、彼の方から話しかけてきたのである。

私は【白天】に来てから、魁知とその同期の鍛錬の様子を何度も見ていて、いつしか脳内で白天士になることが最終的な目標に設定されていた。


……だから、最初から答えは決定しているようなもので。

「水。兄さまと同じ、水属性がいい」と、当然の事のように返した。そうしたら魁知は足を止めて、私を見た。

「それは、()()に合わせてるのか」

その真摯な眼差しに、違うのだと、即座には否定できなかった。


兄さまのような白天士になりたい。その思いを元に属性を選択するのは悪いことなのだろうか。その辺りの知識は未知に等しく、聞くに聞けなかった。けれど魁知の反応を見るに、私の判断は正しくないのだ。


「えっと、ごめんなさい」

「何を謝ることがあるんだよ、バカ」

……バカって。そんな単純な悪口が彼の口から出るとは思わず、言葉を失った。

「別に、そういう選択も間違いじゃあない。けど、水を選んで彩が後悔するのは自分だって嫌なんだよ。属性は水だけじゃないし、独流になる選択肢もある」


実際、星属性に興味があるんだろ?


予想外にも、魁知の指摘は図星だった。

彼の同期である夜星の天術を目にしてからというもの、それが頭から離れなくて。私も、あんな風にできたらって。魁知の扱う水よりも何処か魅力的な、あの燦々と輝く星々の煌めきが、私の心を突き動かしたのだ。


「彩の望み通りにしろよ。少なくとも、自分は見てみたいけどな」

「……何を?」

「聞くまでもないだろ。闇夜を照らす一番星、白天士の彩奈に決まってる」

そんなの当たり前だ、と言うように笑っていた魁知の表情も。

「まあ、水でも何でもいいんだけどさ。彩の天術、白天士になったら一番に()に見せてくれ」

結局、その約束は叶わなかったけれど。

彼の頭上に広がる満天の星空も、私はきっと――いや、絶対に忘れない。






まだ死ねない。この戦いは私の手で終わらせる。何がなんでも、勝ち抜いてみせる。

いつか兄さまと再会する時には、誇れる自分でいられるように。かつて彼が望んだ、闇夜を照らす一番星になるために。


星杖攻撃・【一番星】―――!


星は速く、強く、輝き、瞬いて。

その刹那、真円をも破壊した。

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