戦闘
魔術攻撃【暗黒魔弾】
ミーユの手にあった弾丸が放たれる。一瞬にして複数個に分裂し、私の方へ襲いかかって来た。目で追える速度。これなら回避スキルを使う必要もない。
少量の天力を全身に巡らせる。空吸を駆使し、ドームの天頂ギリギリまで跳躍すると、魔弾が壁になっている鏡に直撃した。
あの辺りなら、人の映る鏡は無かった筈だ。
爆音を響かせて、魔弾は破裂した。
――そう思われたのだけど。
私の元に、再び速度を落として魔弾が飛んで来た。その数、倍以上に増加している。
「うそぉぉ!?」
なんとも間抜けな声を上げる私。空中で戸惑いながらも、考える事は止めない。
もしかすると、魔弾が鏡に衝突したと見せかけて、実際は鏡が魔弾を跳ね返しているという事なのだろうか。
それが本当なら、避けていてはキリがない。分裂を繰り返せば威力が下がっていくとはいえ、だ。
木杖攻撃――
「【小枝斬り】!」
ステッキを掲げてすぐ、勢いよく魔弾の方向へ振り下ろす。瞬間、注ぎ込んだ天力が先端まで到達し、翡翠色の光を放った。それと同時に、私の周囲に数十本の枝が出現した。
これらは天力で編まれた紛い物だが、一本一本が1メートル以上の長さを誇り、鋭く尖った槍である。魔弾を破壊するに足る威力が出せるだろう。たぶん。
もう一度ステッキを振る。これが攻撃の合図となった。呼応するように、枝の群れが魔弾へと一直線に向かっていく。枝が無音で突き刺さると、全ての魔弾が破裂した。枝も諸共消滅してしまったけれど、そこまでは想定範囲内だ。
空吸を行使し続けると体に負担がかかるので、一旦地上に戻った。ゆっくり着地して顔を上げる。ミーユと目が合った。
「相殺……分かってはいたけど、一筋縄ではいかないね」
不服げに言いつつも、ミーユは余裕の笑みを浮かべている。
「次の攻撃で潰してあげる」
魔術攻撃【鏡光】
何の詠唱もなく、ドームを形作る全ての鏡が激光を放つ。それは私のステッキの光とは比べものにならない程に眩しく、直視できない程に輝いていた。
「う……っ!」
俯いて片腕で目元を隠すことで、少しでも視界を確保しようと試みたが無駄だった。目も開けていられない。最早、直視どころの話ではなかったのだ。
此処は魔術領域。仕掛けた悪魔が思うままに操る居城のようなものなので、こちらが不利になるのは当然だ。しかも相手は中級悪魔である。攻撃が単純な訳がなかった。
視覚妨害は残念ながら想定範囲外。対抗しようにも、目を閉じた状態では無闇に天術を発動できない。
もしも攻撃が水音たちの鏡に当たり、それによって彼女たちに危害を加えてしまったら……もう取り返しがつかなくなる。防御スキルも、360度完璧に防ぎ切れるものがない。使おうが護りの弱いところを狙撃されて終わるだろうし、結局は天力の無駄遣いだ。
今の今まで、敵を舐めていたのはミーユではなく、私の方だったらしい。悪魔という魔物の強さを、改めて思い知らされた気がする。
けれど、内心は「初戦から中級悪魔の討伐とか、ハードル高すぎじゃない?」なんて呑気に考えている。同期の白天士で一番のマイペースは彩奈と言われていたが、私も負けてはいないだろう。
「魔術攻撃【黒鏡閃光】」
今度はハッキリと詠唱が聞こえた。半ば無理矢理、ほんの一瞬だけ瞼を開く。すると偶然にも、私の目はそれを捉えたのである。軌道を変えず直進する、暗黒の閃光を。
木杖防御・【樹海防壁】
方向さえ分かれば話は早い。ステッキを一振りして、防御を張る。視界は真っ暗で状況は何とも言えないけれど、閃光が【樹海防壁】に激突する騒音は耳に届いていた。
今頃はきっと、前方に展開された樹海が魔術攻撃そのものを丸呑みしている事だろう。
――突然、音が鳴り止んだ。しかし【鏡光】は依然として発動されている。私は暫く身動きが取れないことを悟った。
「へー、驚いた。心臓を貫通させる気で撃ったのに防ぐなんてね。何か卑怯な手でも使ったの?」
ミーユはサラリと恐ろしいことを言う。
「それは、おねえちゃ……ミーユちゃんの方じゃない?」
「まさか。わたしは魔術、おねえちゃんは天術。それぞれの得意技で対等に勝負しているでしょう」
「本当に?」
強い口調で尋ねる。心当たりがあったのか、何も言い返してこないミーユ。
勝った、と思った。
「相手の動きを封じて、自分だけ一方的に攻撃する――それ、真剣勝負って言えるの?」
「………………」
ミーユは沈黙を貫く。言葉を失っているのか、或いは怒りに震えているのか。それは定かではない。
けれど、【鏡光】が徐々に消えつつあるのは確かだった。
「……うん。あなたの言う通り、わたしの戦い方は卑怯だったわ」
光が弱まり、漸くミーユの姿が見えた。宙に浮かぶ五つの円い鏡に囲まれている。あれが彼女の持つ武器なのだろう。
「どう、辺りはよく見えるかしら?」
「え? うん」
わざわざ確認するんだ、と思いつつも周囲の様子を窺う。真剣勝負には必要ないという彼女の独断によるものか、あの鏡のドームが跡形もなく消え去っていた。
あまりの変容に驚きが隠せない私を放っておいて、ミーユが口を開いた。
「口喧嘩はおねえちゃんの勝ちだけど、今度はどうかしらね。もう一度あなたが勝利したその時には、人質全員の解放を約束するわ。逆にわたしが勝ったら皆殺し、もしくは悪魔に仕立てあげる……どう?」
提示された条件。聞くまでもない。私の答えは最初から決まっている。
「もちろん、受けて立つ! 本当の真剣勝負を教えてあげる!」
私は堂々と宣戦布告する。すると、ミーユが心から楽しそうに笑った。
「ふふっ、言うようになったじゃない。こうなったら、わたしの本気を見せてあげる!」
両者一歩も譲らない激闘が今、幕を開けた。




