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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第二幕 呪われた街
39/60

討伐報告

こんにちは、久方振りの更新です。

今回は水音視点。

よろしくお願いします!

斎藤との激闘の末、織火のスキルによる案内で、私、舞花、美里、楓季は、無事【白天】に帰還した。門の前には当然、織火が待っている。腕を組んで俯き、何やら考え事をしている様子だ。

声をかけにくいな、と思った私とは裏腹に、楓季は「織火くーん」と既に大声で呼びかけていた。此方に気付いて顔を上げた織火は、安心したように微笑む。私たちを心配してくれていたのだろう。ゆっくりと此方に歩み寄って来た。


「おかえり、四人とも無事だな。……舞花と美里は寝てるのか?」

「うん。たぶん天力不足かと」

楓季と言葉を交わす織火が、舞花と美里の額に触れて容体を確認する。私が舞花を背負っている感覚からして、二人とも熱はない。

「水音は大丈夫か? 依雲がやらかして、天力不足に陥った話は聞いたけど」

揺らめく赤い瞳が問いかけてくる。相変わらず整った顔立ちの人だな、と現状は不必要な事を思いつつ、今日の出来事を回想した。


移送による身体への負担は、確かに大きいものだった。蓄積していた天力を丸ごと引き抜かれたような感覚が今も忘れられない。

ただ、それによって私は長時間に渡る眠りにつき、夢の中で斎藤の人生の旅路を巡り、彼の救済に成功した。あの夢を見て、あの時に目覚めて、あの瞬間に矢を放って、本当に良かったと思う。

攻撃スキルの行使から時間も経っているので、健康状態に問題は無いだろう。今の私の天力は容量の半分以下だが、この後すぐ戦闘になる訳でもあるまい。大した怪我もなく、至って普通と言えた。


私はこくりと頷き、返答する。

「はい。回復スキルを使える程度にはなりましたし、この通り元気です」

「そうか、良かった。まぁ、他にも聞きたい事は山程あるけど……取り敢えず、舞花と美里を治療所に運ぶのを手伝って欲しい。私はまだ仕事もあるし、そうだな……向日にでも伝言しておく」

さすが、当主は一日中多忙なようだ。さっきから数歩ずつ門へと近付いている。彼女に合わせ、私と楓季も前進していた。残りの仕事に手を付けるため、内心急いでいるのは本当らしい。


そして向日と言えば、治療所で少々お世話になった看護師である。組織のトップが名を出すくらいだ、相当優秀なのか、代表者の一人なのかもしれない。

思う所は色々あるけれど、「分かりました」と端的に返事をした。


「そうだ、水音。一段落したら屋敷まで来てくれ」

「……今日の討伐の件ですか?」

元から分かりきった事だったが、念の為に尋ねる。案の定、織火が首肯した。

「依雲からの情報は大体聞いたが、全貌が分かった訳じゃない。やっぱり当人達の事情聴取は避けられないんだ。今回は特に異例で、前代未聞の出来事が多過ぎるからな」

彼女の言う事は最もだが、少し憂鬱でもあった。

……だって、つまり今夜は、一通り話すまで寮に帰れない、という事だ。事情聴取が報告書の代わりになると言ってもいい。

織火の事だし、念入りに録音とかするんだろうな、なんて考えたら現実になりそうだ。


そんな気持ちが、つい表情に出ていたのかもしれない。

織火が口を開いた。

「大丈夫。事情聴取と言っても、堅苦しい事は無い。できる限り記憶が鮮明な内に聞いておきたいってだけだから。……あ、好きなお菓子とかある? 折角だし、用意するよ」

「……え」

予想外の質問が飛んできた。好きなお菓子。訊かれても咄嗟には浮かばない。


正直、お菓子は何であれ好きだ。嫌いなものも特別好きなものも無い。だからと言って「何でもいいです」なんて、ありふれた一番困る返しは駄目、絶対。却下である。

失礼に当たらない範囲で、それなりに名が知れ渡っていて、かつ自分の好みのお菓子。三つの条件に該当する答えを数秒で何とか導き出し、結果的に口にしたのは。


「み……水羊羹、です」

季節外れの、ちょっと渋い和菓子だった。

「なるほど……意外と甘党なんだな。美味しいよな、水羊羹。季節的に今は無い気がするけど、まあ似たようなのを準備しよう」

「ですよね、すみません……」

「いいよ。最初に訊いたのは私なんだ。それじゃあ、また後で」

手短に挨拶を済ませ、織火は門を抜けて仕事に向かって行く。その場には立つ人ふたり、その背で眠る人ふたりが残された。



ひたすらに沈黙が流れる。それも、楓季の呟きによって断ち切られる。

「……珍しいなぁ」

門の前で立ち尽くしたまま、彼はそう言った。治療所に向かおうと踏み出した足を止める。楓季の視線を追うも、その先に人の姿はない。織火の事だろうか、という思考が頭を過る。

「織火君さ、割と気難しいんだよね。他人と一定の距離を保つために、口調をキツくしてるんだ」

「……そうなの?」

やり取りしていて、そんな風には感じなかった。確かに口調も多少はキツいかもしれないが、彼女よりも流文の方が刺々しい印象がある。


楓季は私の問いに「そう」と返して、また話し始める。

「だから、自分の部屋に他人を招くこと自体が稀なんだよ。僕も入った事が無い。大体、織火君は何十回、何百回、下手すれば何千回と事情聴取をしていると思うけど、その場所はいつも訓練所や寮の空き部屋だった筈だ。少なくとも、自室なんて一度もない」

「えっと……つまり……?」

「織火君が水音君に心を許している。或いは、誰にも聞かれたくない話がある。そのどちらか、かな」


私の中の緊張感が高まる。前者なら構わないけれど、後者だった場合は、予測できない分ソワソワしてしまう。

第一、私と織火は殆ど関わっていない。命を助けてくれた恩人であり、何度かすれ違って挨拶もした。本当にそれだけだった。何なら私よりかは依雲の方が交流が多いと思う。


「ま、どっちにしろ覚悟は必要ないよ。水音君はもっと肩の力を抜いて、リラックスした方がいい」

明るく振る舞ってるけど疲れてるんだろう、と言いつつ、楓季が私の頭を撫でた。そういえば、小学校の頃からよく撫でられていた。中学校でも、ほんの数回くらい。何を理由に撫でる行為をしているのか知らないけれど。もう耐性があってもおかしくないのに、何故か胸が跳ね上がる。

……慣れない事はされるもんじゃない。


「……楓季君って、偶に理解できない事するよね」

「あー、ごめん。嫌だった?」

頭から手の載った感覚が離れていく。その代わりとでも言うように、横から楓季が顔を覗き込んできた。近い。とても近い。

「そうじゃないけど……何と言うか、その、単純に恥ずかしい」

正直に口にすると、それこそ恥ずかしさ倍増だ。普段より顔が熱い。そんな私を見た楓季は一瞬、目を丸くすると、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「はは、年頃だね」

「……揶揄ってる?」

「逆に聞くけど、それ以外にあると思う?」

「…………」

意地悪。それも言葉にならないまま、静かに時が過ぎていく。楓季の性格は、以前からこんな感じだっただろうか。

「ほら、行くよ水音君」

何事も無かったかのように、楓季が颯爽と前に歩み出る。私は返事もなく、無言で彼の背中を追いかけた。今は少し話す気が起きない。どんな文句をつけようと、彼相手では言い負かされる自信があった。



……未だ序盤でありながら、こんな私情を挟んで舞花と美里に話せる訳もなく、殆どを抜粋しておいた。

【白天】に帰還して直ぐ、織火に会ったこと。舞花と美里を、木織と一緒に治療所まで運んだこと。織火の屋敷にお邪魔して、今回の悪魔討伐について報告したこと(木織の話を聞いて少し身構えていたが、羊羹を食べつつ報告を済ませただけで、特に何も無かった。この一連の流れは舞花と美里には内緒である)。その後は寮に戻って、美煉たちに事情を説明したこと。そして翌日、寮に出向いた向日から、重度の天力不足により、舞花と美里が数日ほど目覚めない可能性があると話を聞いたこと。

具体的に言うと、二人に伝えたのはこの程度だ。


治療所のベッドの上で黙々とうどんを啜っていた二人は、私の話が終わった途端に口を開いた。

「重度の天力不足って……そんな重症だったんだ。ぜんっぜん実感湧かないけど」

舞花の呟きに美里が頷く。


天力は生命力とイコールの関係にあり、生きる活力とも言える重要なものだ。枯渇すれば当然死に至る。回復方法は体力とも共通していて、睡眠が最も有効だという。だから不足すると、初期症状として眠気が襲いかかる。不足量に関わらず眠ることは必要なので、重度と診断された二人は特に睡眠時間が長引いたのだろう。


「重症と言っても、こうして目が覚めた訳だから、私たちも織火さんに報告しないといけないってこと……だよね」

美里が言うと、舞花が如何にも憂鬱そうな表情を浮かべる。

「うーん……何を話せばいいんだろ。沖田様と斎藤様の事は内密にしたいんだけど……。水音ちゃんはどう報告したの?」

唐突に質問が投げかけられる。私は織火に報告した時の事を思い出した。


「私は……桜咲家にいた通信を阻害した悪魔の事と移送の件、それから夢の話かな」

「……夢?」

「そう。実は、寝ている間に斎藤さんの夢を見たの」

「どんな内容だった?」

「簡単に言うと、斎藤さんが生まれてから悪魔になる過程……だと思う」

「その夢には舞衣も出てきたの?」

「えっ……と」


ほんの一瞬、言葉に詰まる。舞花の質問攻めが止まらない。気になるのは分かるが、すごい勢いで攻めてくるので動揺してしまう。途中で美里が「舞花ストップ」と抑えてくれて助かった。

何とか落ち着きを取り戻した舞花は、私に一言「ごめん」と告げると、手に握られていた箸をお盆に載せた。形の整った唇がゆっくりと動き出す。


「最後に一つだけ、聞いてもいいかな」

「うん」

「水音ちゃんが見た夢の内容は、神社に遺されていた巻物にもあった、斎藤様の生涯だけじゃないんだよね」

そうだね、と答えればいいものを上手く言葉に出来ず、首を縦に振るだけに留めた。あの時、夢を通して届けられた斎藤のSOSに関して、伝えるべきか迷ったのだ。

美里はお盆に箸を置き、黙って舞花の話の続きを待っている。私も同様に。それに気付いたのか、ふう、と静かな呼吸の後、舞花は言い淀みながらではあるが、きちんと話してくれた。


「戦っていた時、斎藤様は私を挑発したり睨みつけたり、悪魔としての側面が表立って見えてたんだ。斎藤様らしくない、というか。だから、悪魔に体を乗っ取られてるんじゃないかとか、自分の意識の一部を何処か違う場所に飛ばして何かしてるんじゃないか、とか思ってたんだけど……」


舞花の視線が私に向けられる。斎藤の本当の意思は分からないが、後者が正解だろう。

「たぶん意識を飛ばしていたっていう考察が正しいと思うよ」

「……そっか。きっと、水音ちゃんにしか伝えられない事だったんだね」

悔しさ混じりな声音で舞花が言った。自分を頼って欲しかったのだと、そう彼女は発してもいないのに表情から伝わってくる。

「教えてくれてありがとう、水音ちゃん。美里と一緒に報告頑張るよ」

気持ちを切り替えて笑顔を見せた舞花に、私は「どういたしまして」と返事をする。美里も後ろでペコペコと頭を下げていた。


随分と長く立ち話をしてしまったので、私はこの辺りで部屋を出ることにする。お盆と空になった食器を受け取り、二人に一言「そろそろ行くね」と告げた。「うん」という反応を聞いてから、扉に手を掛けた瞬間だった。

ガラリと扉が開かれ、廊下にいたらしい織火の姿が現れた。私もそうだが、彼女も目を丸くして驚いているのが分かる。


「……おはよう、水音。今から食堂に戻るところか?」

私は頷き、手に持ったお盆に目配せする。

「そうか。私は奥にいる二人に事情聴取をしに来たんだけど、調子は良さそうかな?」

「はい、すごく元気ですよ」

「なら良かった。それじゃ、水音は無理せず頑張ってくれ」

お辞儀をして、チラリと背後を見る。舞花と美里の表情は堅く、分かりやすく緊張していた。頑張れ、と視線で応援を送り、私は病室を後にした。


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