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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第二幕 呪われた街
38/60

二晩を越えて

お久しぶりです。

多忙であまり書いていないので短いです。

舞花視点になっております。

よろしくお願いします!


むかしむかし。

この街は、呪われていました。


はじめは、病に侵されたひとたち。

続いて、神社の神職たちが、何の予兆もなく亡くなってしまったのです。


人々は、それを呪いだといいました。

このまま放置しておけば、またひとが死んでいってしまいます。


その呪いを鎮めるために、桜咲という家が、神社で桜舞の儀式をはじめました。

かつて京都の街を護った剣士、沖田総司さまの遺した刀を手に、彼の昇った天へと舞を捧げるのです。



桜の花びら舞うように


淡く光るは【朧桜】


太陽の下に舞うように


煌めく刀は【朧桜】


三段にもなる突き技は


桜咲の家に受け継がれ


永遠となるであろう



(うた)を口ずさんで舞踊れば、たちまち呪いは消えていきました。


これもきっと、沖田さまのお蔭でしょう。

あの強きお方が、私たちに力を分けてくれたのです。


だからこそ、沖田さまに感謝して。

今後とも、舞を捧げようではありませんか。


この舞も、刀もすべて。

後世へと引き継がれていきますよう。




これが桜咲家に伝わる昔話。

物心ついた頃から全文を暗記していたが、今思えば随分と誇張されていた。桜舞の儀式で生贄を捧げる、という後暗い事の供述は一切無く、沖田の偉大さを讃えるだけのもの。

この空想じみた話を誰が作ったのかは知らない。けれど、前の私――舞衣の努力も、呪いの真実までも覆い隠されてしまっているのは気に食わない。


支えてくれた周囲の人間が居なくなろうとも【朧桜】を振り続けた彼女。己の意思に背いて、街の呪いを祓う為に数多の命を儀式という名目で葬った彼女。

桜咲家を変えた彼女は、前の私だ。だからこそ、今の私はもう一度、桜咲家を変えなければならない。元から無意識に、そういう風に動いていた。


元々は、あの座敷牢みたいな部屋で生活するのが嫌で、悪魔に遭遇して【白天】に行くのをいいことに家を飛び出した。その後、地獄のような座敷牢生活が自分の子孫にまで引き継がれていったら.......と考えたら、私が何とかしなければ、と思い至ったのだ。

織火に学校に行くよう言われた時に、これが最後の好機だと思った。家には帰りたくなかったけれど、“変えたい”という気持ちの方が強い。とりあえず学校に行って【白天】に戻り、「忘れ物をしたから」と美里に嘘をついて家へ帰った。


家族は、私が黙って家出したのを怒らず喜んだ。けれど「おかえり」と迎えてくれた訳ではない。やっと帰って来てくれたんだね、なんて言いながら、平気で私を座敷牢みたいな部屋に入れた。帰宅早々に自由を奪われて、この地獄を抹消する為の話し合いも何も出来なくなった。


その翌日、美里と水音が私の元にやって来てから、あれやこれやと事が進み、気付いたら今に至っている。

どういう訳か、【白天】に通じる森の中で眠りに落ちても、夢は見なかった。光の無い常闇に揺蕩い、瞼に浮かんだのは上辺だけの昔話。最悪である。


そういえば、桜咲家を変える、という本来の目的を果たさず【白天】に帰って来てしまった。悪魔を倒し、家族を助けられたのは良かったけれど、たぶん儀式は継続される。今後の跡継ぎの子供も座敷牢に入れられる。……となれば、根本的解決には至っていない。

また家に帰ったところで、その場で考えて行動するタイプの私はノープランだ。無策で突っ込んでも意味が無い。


.......どうすればいいんだろう。


面白みもない無音の闇の中で思考するが、案の定、何も閃かず終わる。暫くぼんやりとしていると、何処からか陽が差し込んだ、と思いきや激光に呑まれた。

突然のことに目を瞑る。それから、どれ程の時間が経過したのか、ゆっくりと開いた時には、目線の先に見知らぬ天井があった。




「おはようございます、桜咲さん」

自分を呼ぶ声がして、上半身を勢いよく起こした。薄い布団が体にかかっている。私はベッドに寝かされていたらしい。視線を右側に移すと、書類の束を挟んだファイルを抱えた看護師の女性が立っていた。名札の『向日』という名字を確認し、何処かで聞いた事があるな、と思った。


「体調はどうでしょう?」

「えっと……傷は痛みますけど、元気です」

「分かりました。先生には、概ね良好と報告しましょう。後は、そうですね……何か食べたい物はありますか?」

食べたい物。特に無いです、と口にしかけて、結局は夢の流れで思い出したアレを頼むことにする。

「きつねうどんが食べたいです」

鰹だしのきいた、沖田のお気に入りのそれ。あの食べっぷりが脳裏に蘇った途端、無性に食べたくなってしまったのだ。


「あの〜、私も同じのお願いします」

聞き覚えのある声音が背後から聞こえてくる。思わず振り向くと、私の左のベッドに横たわる美里がいた。

「美里、いたの!?」

「それはこっちの台詞。森で寝落ちして今起きたら、舞花と一緒に知らない部屋にいたんだから」

ふわぁ、と欠伸をしながら話す美里。そう言う割には驚いている様子はない。私だけが大袈裟に反応したみたいな雰囲気にするのは勘弁して欲しい。恥ずかしくなる。


「では、きつねうどんを二つ、ですね。すぐご用意しますので、少々お待ちください」

私たちの言い合いの一部始終を見ていた向日が、クスクスと笑いながら部屋を出て行く。スライド式の扉が閉められ、室内が静寂に包まれたのは、ほんの一時だった。


「ね〜、舞花。ここどこ?」

唐突に美里が尋ねてきた。辺りを見回してみたものの、この部屋の家具はベッドと棚が二つずつのみ。こんな簡素な部屋は寮に無いだろう。

「たぶん治療所の病室、じゃない? ほら、訓練所の近くにある……」

「あっ、病院みたいな見た目の!」

「それそれ」

治療所はその名の通り、負傷した白天士が治療を受ける病院のような施設である。一度、麦が風邪をひいた時にお世話になったと聞いた。なんでも、関西弁で話す医者がいるのだとか。


「結構体に傷つくっちゃったもんね〜、私たち。念の為ここに運ばれたって事かな」

美里の推測には納得がいった。確かに傷は多いし痛みは引かないし、快調とは言い難い状態だ。けれど骨折などは無く、この怪我もそう重大ではない。かすり傷や切り傷、打撲が少々といった程度なので、一週間も経過すれば完治するだろう。唯一、いつも通りに一晩寝たのに、二日分ほど眠っていたような感覚が残っている事が気掛かりだった。

それも相俟って、私は「実は重傷だったのかもね」と不本意にも口にした。どうせ軽傷だと、頭の中では思っていたのに。その癖、もし自分が重傷だったことが事実として有った場合、それを聞かされたら間違いなく怖気が止まらなかっただろうに。

結果、私の発言に対する美里の反応は、「それは無いよ〜」という冗談めいた否定で。これこそ私が求めていた答えだった。


暫く雑談で盛り上がっていると、二度のノック音の後に扉が開かれた。中に入って来たのは向日ではなく、制服の上に羽織を纏った水音であった。彼女が手に持ったお盆には、大振りの器が二つ載っている。立ち上る湯気が見えて、きつねうどんと確信した。

「失礼しまーす……あっ、二人共ほんとに起きてる」

まるで先程まで信じられなかった、というような言い様と驚いた顔をする水音に、私と美里は顔を見合わせて首を傾げる。私たちの睡眠時間は通常通りの筈だ。窓の外の様子を見てみると、太陽の位置は未だ東側。昇り切ってはいないので、昼まで寝過ごしたという可能性は無い。


「あれ、もしかして向日さんから聞いてない?」

私たちの反応を察した水音が、きつねうどんの入った深皿と箸を私に手渡しながら訊いてきた。出汁の香りが室内に漂う。今にも腹の虫が鳴きそうなのを抑えて、私は「何の話?」と聞き返す。

「実は、あの戦い……桜咲家での討伐から帰還して、もう二日経ってるんだ」


「それって、つまり……」

水音の言葉に、ふと呟いた美里の血の気が引いたのが見て取れた。

「……えっ、なに、どうしたの美里」

「いやいや、舞花こそ、今の話の流れで分からないの?」

わなわなと震える美里を、察しの悪い私は他人事のように見ているしかなかった。熟睡した筈が疲れは溜まっているようで、妙に頭が冴えない。美里は困ったような表情で溜め息を吐いた直後、口にする。

「私たち、二晩も寝てたってことだよ」


人間という生き物は、他の動物とはまた違う生き方をしている。賢い頭を働かせて物作りが出来て、二足歩行は当たり前。冬眠をせずに暖かな春を迎えられる。

だからこそ、二晩も寝ていたと聞いて真っ先に思ったのは、「人間ってそんなに寝られるんだ」という事で。それが自分自身の事だと気付いて驚嘆したのは、十数秒ほど後の話であった。



息を吹きかけ少し冷ましてから、ズルズルと白い麺を啜る。美里の言った衝撃の事実に私が「はぁ!?」と叫び、現在その数分後。朝食のきつねうどんを堪能している間に、水音から帰還後の出来事を教えてもらう事になった。「二人が寝た後、色々あってね」という前置きから始まった話は、決して楽しいものではなかった。

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