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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第二幕 呪われた街
34/60

夢、呪い、願い、嘘

PV1500突破ありがとうございます!

テスト終わったので半月ぶりの更新です。

水音視点。内容めっちゃ重いです。ごめんなさい。

長い長い夢を見た。




それは、ある男の生涯だった。

移り変わる季節と共に男は成長し、剣の才能を磨いていく。大人になり、ついに新撰組の斎藤一として活躍するようになった。


それから数年が経ち、彼は戦に向かう最中、体調を崩した沖田総司を背負い、桜咲医院を訪れる。沖田は此処の常連らしく、専用の部屋まで用意されていた。其処で繰り広げられる世間話からは、斎藤と沖田、二人の仲の良さが窺える。


それを沖田の部屋に入って聞いていたのは、桜咲家の一人娘、舞衣だった。外見は舞花と瓜二つだけど、雰囲気や口調は別人で常に冷静な、よく出来た子供という印象を持つ。


舞衣は以前から沖田と面識があり、日本刀の【朧桜】に興味津々だった。それに気付いた沖田が斎藤に、彼女に【朧桜】を見せてあげてほしいと頼んだ。斎藤は確認を取ってから【朧桜】を鞘から引き抜いた。その淡い桜色の刀身の美しさに見惚れ、彼女は子供らしく瞳を輝かせた。


その後、桜咲医院の医院長の妻が部屋に入って来た。付き添いで玄関まで来ていた剣士たちが、客間で静かに食事をしているらしい。

斎藤は夜食をご馳走になると決めた。沖田にお酒は程々にと言われ、戦の前に飲まないと否定し、斎藤は部屋を後にした。結局のところ、その言葉は全くの嘘で、お酒は一杯だけ飲んでいたのだが。


それからは戦いがあり、斎藤は療養を経て再び新撰組の任務に当たった。休暇をもらえたり、近くを通ることがあったりすれば、桜咲家に寄り道して沖田と会った。

彼は元気そうなフリをして、僅かに苦しげな顔を見せる。それが斎藤には気に食わないようで、眉間に皺を寄せていた。苦しいなら、しんどいなら、声に出して言えばいいのに、周りの人間に気を遣って隠す。幼い頃から体の弱い沖田は、それが大の得意だった。


更に数ヶ月の時を経て、沖田を江戸の診療所へ移すことが決まった。斎藤は沖田と親しい関係であると上司にも認識されていたので、桜咲医院への説明と、移動中の沖田の護衛を任された。これまでの戦や殺し等と違う、人を護る仕事は彼にとって初めての経験である。


桜咲家と話をつけて沖田を江戸に送り、彼が不在の日常が幕を開けた。時間というのは瞬く間に過ぎていく。私にとっても斎藤にとっても、そうだったのだろう。

沖田の訃報が伝えられた時の斎藤の顔といったら、傍観者の私も声が出なくて驚いた。心奥に消えない傷を負ったような、ぽっかりと空洞が空いてしまったような、その何とも言い難い感情。それが斎藤の唖然とした表情となって表れていた。


それから、また数年。舞衣が成人した年に、斎藤は桜咲家を訪れた。当時、舞衣は九歳の幼子だったが、今も斎藤のことを鮮明に憶えているらしい。

沖田の部屋は物を一つも動かさず、他の患者を入れず、あの時のまま残されていた。本当に何も変わらない。縁側に腰掛けて、温かいお茶を飲みながら、斎藤と舞衣は懐かしい話をする。


そこで聞いた、生贄を捧げる桜舞の儀式。ある噂によって広がった、一つの大きな呪い。私の生きる現代には有り得ないモノ。どうやら突然死が連続で起こったことが原因らしい。

その噂の内容も酷かった。桜咲医院への沖田の恨みが突然死を引き起こした、なんていう馬鹿げた話に、斎藤は当たり前のように怒りを膨張させた。舞衣を、桜咲医院の人々を、あんなにも慕って慕われていた沖田が恨む筈がない。まずは儀式に関して知ろうと、舞衣から日付を聞き出し、その日に改めて神社へ赴いた。


桜舞の儀式は残酷そのもの。生贄の首は舞衣が刎ねなければならない。大粒の汗が頬を伝い、息を荒らげながら、真っ青な顔をした舞衣は【朧桜】を振った。

その瞬間を見てはいけない。私の本能がそう警告する。咄嗟に目を塞いで、ゆっくりと瞼を開くと、斎藤は儀式を覗き見るのを止め、その場で崩れ落ちていた。それもそうだ。直視していない私でさえ、冷たい汗が吹き出ているのだから。それに彼は普段から殺しをしているので、私とは訳が違う。


けれど、彼が考えている事はそうではない。

あの頃の愛らしい少女が、今はもう大人の舞衣が、儀式を執り行っているのを見るのが苦しくて。両親も儀式で亡くしたと話していたのを思い出し、もしかしたらその時も舞衣が刀を振っていたのではと思考するだけで虚しくなって。入り混じる感情に耐え切れなくなって。


その結果、新撰組の最前線で活躍した剣士でも、大の大人の斎藤でも、両足で立つことすら不可能になってしまった。地面に零れ落ちた涙も、きっと十数年ぶりなのだろう。彼は沖田の訃報を聞いた時、一つも泣いていなかったから。



「哀しいか」

聞いたこともない女の人の声。斎藤の背後に、着物姿の見知らぬ女が立っていた。見た目は普通だが、この重圧感を私は知っている。間違いない。

彼女は悪魔だ。


「……どちら様ですか」

「悔しいか」

斎藤を無視して、女は続ける。

「救いたいか」

深く紅い唇から、淡々と紡がれる。

「守りたいか」

その言葉に、感情なんてものは一切ない。


「簡潔に答えろ、貴様の望みは何だ。それがどんなものであろうと、私の条件を呑むと約束するならば叶えてやろう」

光のない暗闇の瞳が斎藤を凝視する。私は怖くて今にも逃げ出したい気持ちを必死に抑えた。逃げない。逃げたくないんだ。


「……舞衣様を救えるのなら、僕はどうなってもいいんです。あの娘が人の命を手にかけるのは、あまりにも――」

腰を抜かしたまま、目を伏せて斎藤が願ったのは、舞衣のことだった。同僚であり友人のような存在であった沖田の愛弟子だから、という理由ではない。ただ純粋に舞衣を想って発した願望。


対して女は不気味な笑みを浮かべた。

「先程言ったな、自分の存在など、どうなってもいいと。いいだろう。貴様の命と引き換えに、その願いを聞き届けよう」



嘘だった。あれは汚い嘘だった。

騙された。あっさりと弱い心を掴まれた。


僕はただ、あの娘を守りたくて。

これ以上、あんな思いをさせたくなくて。


僕とあの娘は、それほど深い関係でも何でもなかったけれど。

女と対峙するのも願うのも、それほど怖くも恐ろしくもなかったけれど。


僕を欺いた事は許さない。

あの娘を独りにさせた事は許さない。


斎藤一という人間が死に、斎藤一という悪魔が生まれ、今も世に留まっている事が赦せない。


もう一度、あの娘に会って謝りたいなんて。

もう一度、沖田に会って話したいなんて。


叶う訳も無い願望だと分かっていて、体内の魔力の大半を延命に使っている。


どうせなら潔く死んで堕ちたい。

僕が天国に行ける筈ないし。

それくらい分かってる。


でも僕は死ねない。

地獄に堕ちる事も出来ない。


もしも願いが叶ったら、その時は死ねるかもしれないなと思う。

沖田と舞衣の三段突きで堕ちるのは、案外悪くないかもしれないなと思う。


そうすれば、この悪い夢から覚めるんだ。

だから、()()()に頼んだ。

ここまで付き合ってくれた、()()()

最期にお願いします。

どうか、僕を――





「――っ!!」

突発的に起き上がった。まだ意識は朦朧としており、視界が悪過ぎる。瞬きを繰り返して、移送の影響で天力不足に陥り、つい先程まで眠っていた事に漸く気付く。

震える足をなんとか地面に立たせて辺りを見回すと、私が寝ていた場所の傍で美里が仰向けに倒れていた。すぐに呼吸と心音を確認して、ほっと息を吐いた。たぶん私と同じ天力不足による睡眠だ。そこまで重症でもないし、時間経過で目が覚めるだろう。


あれ、舞花ちゃんは……?


考えるより先に体が動いた。寝起きで体中の筋肉が強ばって痛いとか、どうだっていい。今は、それどころじゃない。


即座に腕時計のポケットから弓矢を取り出し、楼門から顔を出す。舞花の首に刀を当てようとしているのは斎藤だ。さっき夢に出た、私に最期を託した、あの剣士と同一人物。不思議とそう確信していた。


どうか、僕を――その続きは聞けなかったけれど、何となく解る。

きっと彼は、斎藤一という人は。


弓に矢を番え、ある程度は回復した天力を必要な分だけ籠める。全力とまではいかないが、斎藤の手にある刀を弾き飛ばす位の威力は出せるはず。


攻撃・水【激流滝】


シュパッ! ガシャン!


放たれた矢は見事に斎藤の刀に命中した。「はい?」と呟き、明らかに動揺した素振りを見せる。矢は刀に貫通した状態で拝殿の屋根上まで飛んでいった。出来た。想像以上に上手くいった。

「今だよ、舞花ちゃん!」

私は大きな声で名前を呼んだ瞬間、此方を見た舞花の瞳に希望の光が宿った。即行で切り替えて斎藤を見据え、彼女は刀を振る。


「【朧桜】!!」

夢で何度も耳にした刀の名が、黄昏の空に響いた。


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