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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第二幕 呪われた街
33/60

刹那の黄昏時

PV1300、ユニーク600ありがとうございます!

まだまだですね(笑)

今回は舞花視点になっております。

意味が分からなかった。

なぜ前の私と交流があった斎藤一が、悪魔となって今の私の前に現れているのか。


「何が起きてるの、依雲」

日本刀を構えた状態で、私は腕時計に向かって小声で尋ねた。

「現状は何とも言えません。外見は確実に中級悪魔ですが、“悪魔の三原則”に一つしか当てはまらない……極めて異例です」



“悪魔の三原則”。

全ての悪魔に共通しているとされる三つのことの総称。テストにも必ず出題される。


一つ、悪魔は永遠に生きられない。

「悪魔になれば死なない」という誘い文句で人間を惑わせる悪魔だが、生き物である以上、いつかは死が訪れる。平均寿命は九十歳で、人間とも大差ない。


二つ、悪魔は老いない。

悪魔になると、どれだけ老けていても、寿命が来るまでは肉体の全盛期の姿でいられる。それより若い場合は人間と同じように成長し、全盛期まで来ると成長が止まると言われている。つまり、自分の死期が定かではないということだ。


三つ、悪魔は人間だった頃の記憶が無い。

悪魔の使う黒い絵の具を塗られると、人間の脳はそれに侵食され、記憶が潰される。その結果、理性をも失う場合がある。下級悪魔がそのパターンで、魔力を暴走させることでも理性が無くなるのだとか。


このうち斎藤が当てはまるのは二つ目のみ。それが何を意味するのか。テストで漢字ミスして平均点より少し上くらいだった私に分かるはずがなかった。


たしかなことは一つだけ。

何がなんでも、斎藤は私が倒さなければならないということ。



私は辺りの緊張感に息を呑み、気になっていたことを尋ねる。

「……まさか、桜咲家に悪魔を配置したのも、私の家の人たちを連れ去ったのも、貴方の仕業?」

斎藤は答えなかったが、面食らったような表情をした。その顔を見れば、正解を言っているも同然である。


桜咲家にいた時に、多少なりとも違和感はあった。私の家には家族以外にも、使用人が十数人、年中住み込みで働いている。それなのに、家中を回っている間は、人とすれ違ったり、人影を見たりといった事が一度もなかった。それが、あまりにも不自然だった。


「みんな今は何処に」

いるの。

そう話を続けようとしていたのに、斎藤はそれを制した。

手に握られた刀で。


チャキッ……


耳元で気味の悪い音がする。恐る恐る目を動かすと、左首に刃が当たりかけていた。それを認識するまでに、かなりの時間を要した。

解った瞬間に後退し、刀を構える。その近くには水音を抱えた沖田がいる。


「お怪我はありませんか、舞花様」

「ご心配なく。沖田さまは下がっていてください」

本当は沖田に助太刀を頼みたいのを、ぐっと堪えた。彼の役目は水音の護衛。これ以上、手を借りたくはない。

刀を握る手が震える。舞衣と斎藤の記憶を見た後だからか、刃向かうことすら躊躇う。目の前の敵と相争うのを、手足が、体が、脳が拒否する。


駄目でしょ、敵なんかに遠慮したら!

首を横に振り、気持ちを切り替える。斎藤は中級悪魔の中でも上位のような雰囲気で嫌な予感しかしないけど、楼門にいる美里はもう天力が限界みたいだし、水音はずっと眠っているから、残るのは自分だけ。

倒せ、私。人間としての死を素直に受け入れず、悪魔になったこの馬鹿に、痛い目みさせてやれ!


天力を一気に巡らせて、全力で踏み込み前進する。空吸を使って飛び上がり、斎藤に日本刀を振り翳した。


花刀攻撃・【麗蓮華(れいれんげ)


視界に収まらない程に大きな蓮の花が、斎藤の頭上に現れた。私が刀を振り下ろすと、それに連動して蓮の花が落下する。そう思われた、次の瞬間だった。

謎の突風で刀が押し返された。私も勢いで後方に飛ばされたが、着地して態勢を整える。あの大きな蓮の花は眼前でバラバラに刻まれて、斎藤の周りに散っていた。


なに、今の……?

一瞬で斬られた。五大魔術を超える威力。これまでの悪魔とは格が違う。

「舞花さん、先程の悪魔の攻撃は魔力を行使しているようですが、魔術ではありません!」

「魔術じゃないとか、どうなってんの!?」

依雲に反論しながらも考える。

悪魔は、武器に魔力を込めて戦っているのだろうか。もし、それが事実ならば、白天士と同じ戦い方をしている。私たちのやり方を盗むなんて、悪魔も侮れない。


「魔術もなしに戦う悪魔は、前例がないんです! 何があるか分かりません」

依雲の一言で、さらに緊張感が高まる。斎藤のような悪魔は本当に珍しく、能力は不明らしい。ならば、ひたすら技を放つしか術はないというもの。

次は連続攻撃で叩く!

もう一度、地面に体重をかけて飛び出す。さっきから突っ立っている斎藤に接近し、刀を振った。


花刀攻撃・【百花繚乱】


「はあっ!」


色鮮やかな花が、咲き乱れるように斎藤を囲う。私はその周りを旋回し、斎藤の至るところに攻撃を仕掛けた。

それがいけなかった。さすがに疲れが出て来て、ほんの少し攻撃を止めてしまったのだ。


シャキン!


鋏のような不気味な音が響き、辺りに咲いた花は斬り刻まれた。そして、私はまた突風に吹き飛ばされる。空に舞い上がった刹那、斎藤の睨んだ顔が見えた気がした。


目が回る……!

空吸によって足に負担をかけず着地し、何とか持ち直したけど、呆気なく振り出しに戻った。もう息が荒い。二回の攻撃で、天力も著しく減っている。

斎藤に目を向けると、あっちは無傷だった。流石は幕末の剣豪。沖田と並んだ剣士というだけはある。


「あれ、終わりですか?」

寡黙な性格と言われていた癖に、私を煽って来た。挑発に乗るのは得意だが、今は落ち着いて、睨むだけに留める。

「僕から一本取れるのならば、皆さんの居場所をお教えしたのですがね」

斎藤の口角が上がる。あの笑い方は嫌いだ。

私は私を褒めてあげたい。いつもなら、ここで怒り狂って暴れていただろうけど、今は違う。爆発しかけた気持ちも抑えられている。


花刀攻撃・【狂い咲き】


体をねじり、刀に回転をつけて威力を上げる。不規則に空中を動き回り、相手の目を眩ませ、胸へ一刺しする作戦だ。

「はああっ!」

大きく声をあげ、斎藤を狙って飛び込んだ。


バリンッ!

カラッ、ガシャン!


鈍い音に息が詰まる。下を見た瞬間、手の力が凄まじい速さで抜けた。

刀で刀を真っ二つに折られた。頑丈さが自慢だったはずの天界の武器が、こんなにあっさりと壊れた。

「舞花さん、避けて!」

依雲が声を荒らげると同時に、魔力の気配が私を包む。素早く身を躱し、つもりだったけど、コートの裾が斬られ、足にも複数の傷が出来た。

本当に危ない。依雲がいなければ死んでいた。


天力の消費の影響で、軽く眩暈がする。体がふらついた。咄嗟に建物の柱に手を伸ばし、凭れかかる。たった今、起こっている事態に理解が追いつかず、私は簡易武器を手に取ることも頭に浮かばなかった。

「舞花さん、次の攻撃が……舞花さん!」

聞こえる、聞こえている。依雲の呼ぶ声は、確かに私の耳に届いている。でも体が言うことを聞かない。久々に怪我をして、痛みに耐えるのも苦しい。


……死ぬのかな、ここで。



カキィン!


刀が打ち合う音がして、漸く現実に戻って来れたように思う。

斎藤と沖田が戦っていた。こんな場面、見たくなかった。


同じ新撰組だった二人。

世間話をしていた二人。

酒を呑み交わした二人。

前の私は、仲のいい二人を見るのが好きだったのだろう。だから、()()()。すぐに声をかけられずに、襖の裏で隠れて聞き耳を立てていた。


私一人で、この場を丸く収める予定だったのに、結局は加勢してもらって、守られてばかりだ。



後悔していようが何だろうが、時間は私を待ってくれない。無情にも、刀をぶつけ合う音は鐘のように、境内によく響く。

「私の愛弟子を傷つけたこと、斎藤さん相手でも許しませんよ!」

愛弟子。前の私のことだろうか。沖田に直接教えを受けた、あのーー。


そこで気付いた。沖田が戦っているのなら、水音を守る者がいない。美里の安全も、この目で確認したい。こうして、やっと足が動いた。カチャリ、と何かを蹴ったような音と感覚があり、目線を下に移す。

其処には、沖田が持っていたはずの【朧桜】が置かれていた。一切の迷いもなく、私は腰を屈めて、それを手に取る。いつも使う日本刀よりも、随分と重みがあった。


ドシャーン!


誰かが吹き飛ばされたのか何なのかは分からない。音のした方角から目を逸らし、私は楼門に向かって全速力で走った。


楼門の裏に駆け込むと、水音を膝に寝かせ、拝殿前の様子を窺う美里がいた。二人とも怪我はなく無事だったけど、美里の顔色が悪い。かなり青ざめている。

「美里……良かった、水音ちゃんも」

途切れ途切れに話す私を、美里は心配そうに見つめる。

「私の事はどうだっていいの。舞花は大丈夫なの? 酷い怪我してる」

美里が腰についたミニ救急箱に手を伸ばしたが、私は「絆創膏とかいらないから」と断った。優しい気遣いには感謝するが、生憎、簡易的な治療をする余裕もない。


「行くの?」

美里の問いかけを聞き、私は拝殿の方を見る。幽霊なのに、何故か人や物に触れられるせいで、沖田は血を流しながら懸命に戦っていた。斎藤にも怪我が見られる。あの状態ならば、勝ち目はある。

「……うん」

「それなら、ちょっとココ座って」

「え」

丈が短くなったコートを美里にグイッと引っ張られ、私は地面に尻餅をついた。


火回復・【命の(ともしび)


蝋燭の火のように、ほんのりと体が暖かくなる。軽い傷は癒え、力が漲ってくる。美里の持つ天力を肌で感じた。

「これで私は、もう戦えないから。後は頼むね、舞花」

大切な親友に託された想いと力を胸に、私は前を向く。

「任せて」

美里の方を振り返らず、私は楼門を抜けた。



斎藤と沖田、両者とも限界が見えてきた中、私は【朧桜】を鞘から取り出す。タイミングを見計らい、とどめを刺すためだ。


ここまでの戦い方からして、どうやら斎藤は、魔術が使えないらしい。そういうタイプの悪魔が他にもいるのかどうかはさて置き、これは好機だ。

魔術が使えない。それは回復、再生ができない。つまり、いずれは力尽きるということ。

必ず好機は訪れる。その時には全力を出せるよう、【朧桜】に天力を目一杯注いだ。


不思議なことに【朧桜】は、天界の武器と同様に悪魔への効果があることが、住宅街での戦いで判明していた。

桜舞の儀式専用の刀だが、仕方なく此処で使わせてもらう。


一瞬、沖田と目が合った。確信はないけど、きっと攻撃の合図だ。刀を握り締めて、二人の所へ飛び込んでいく。

私の動きは、すぐ斎藤に気付かれた。沖田の連撃を見事に躱し、私を狙ってくる。ここで技を放っても、刀で受け流される。美里の天術も、溜めた天力も、全てが水の泡になってしまう。心の底に大岩のような不安がのしかかった、その瞬間だった。


シュパッ! ガシャン!


斎藤の刀が、拝殿の屋根の上まで一直線に飛ばされた。刀には一本の矢が刺さっている。

「はい……?」

名乗って以降初めて、斎藤が動揺を見せた。彼の目線は、高い位置にある刀の反対側に移される。私も思わず見てしまった。

深い夢から目を覚まし、この場を繋ぎ止めた救世主を。

「今だよ、舞花ちゃん!」

水音に言われて、我に返った。この機を逃したら、私たちは負ける。

できるだけ多く酸素を取り込んで、ありったけの力を籠める。


花刀攻撃……


「【朧桜】‼︎」


叫んだ刀の名が、私を後押ししてくれる。

ちょうど日が沈む刹那の黄昏時、私が斎藤の胸を刀で突いて、戦いは幕を閉じた。


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