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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第二幕 呪われた街
31/60

移送

剣を鞘に戻し、美里が床の方を見つめる。そこにあるのは男の遺体。着物を纏う彼は、恐らく桜咲家の人間だったのだろう。


「……手応えがない」

唐突に美里が呟く。私が首を傾げると、すぐに答えてくれた。

「う〜ん……斬った時の感覚が柔らかいというか……豆腐を刻むような……」

「試験の時の悪魔とは違うんだね」

第二試験はVRを使った最先端の疑似体験だが、斬った時の感覚は手に残る。弓矢を使う私と違い、剣を扱う美里だからこそ気付いた違和感なのだろう。


「それに……」

「皆さん、大丈夫ですか!?」

美里が何か言おうとした瞬間、腕時計から依雲の大声が響いた。タイミングが悪い。

「たった今、通信が回復したので、急遽接続したところなのですが……」

「なんで回復できたの?」

話の続きを言わぬまま、美里が尋ねる。それもそうだ。桜咲家の中は通信が遮断される。今の今まで、そうだったはずだ。


「先程、この通信障害を解析してみました。結果、悪魔による阻害……通信システムを狙った攻撃が起こしていた、とのことです。桜咲家に入ってから、悪魔は倒しましたか?」

私と美里は互いに目を合わせ、視線を下に移す。床に倒れた一人の遺体。

「この人が通信障害の原因……?」

「水音さん。状況を確認したいので、外カメラに切り替えてください」

腕時計のカメラを外側の方にして、遺体を映した。悪魔だった証拠は跡形もないが、見るだけで何か分かるのだろうか。


暫くして、依雲が口を開いた。

「外見では何とも言えませんね。こちらに移送してもらいましょう。お二人の中で……ああーっ!」

今度は叫び出した。忙しい子である。

「舞花さん! 舞花さんと連絡が取れないんでした忘れてました!」

「…………」

これには私も美里も苦笑い。中学一年生とはいえ、思っていた以上に彼女は抜けている。舞花に怒鳴られるフラグが立ってしまった依雲が気の毒だ。


「……とにかく、まずは移送からです。お二人の内、天力量が多いのはどちらですか?」

「水音ちゃんだよ〜」

気を取り直した依雲の質問に、美里が即答した。

入団式以降、天力測定はしていないけど、あの時よりは増えていると思う。元から多いとは言われていたし、何しろ私は美里より年上。下の子の手を煩わせる訳にはいかない。だからこそ否定できない。


「不安でしたら、念のため測定しておきましょうか?」

私は速攻で依雲の提案に乗った。腕時計に搭載されているセンサーに触れると、淡い水色に光った。結果が私の目には見えないこと以外は、入団式で使った水晶玉と同じだ。


「……嘘」

そう呟いたきり、画面に映る依雲が硬直してしまった。

「『150/200』……? この数値は……」

気付けば最大容量が二倍になっていたらしい。自分の成長には驚いたが、なぜ依雲がこんなにも震えているのか分からない。

「さすが水音ちゃんだね〜」

美里が私の肩をぽんぽんと叩く。

待って、何が起きてるの?

目の前の状況が、理解できない。


「水音さんの天力量は異常です。一年にも満たない間に、ここまでの成長を遂げたのは過去に一人しかいません……講義で習いませんでしたか?」

私は首を振ったが、美里は知っていたようで、その内容を話してくれた。

「私は図書室の本で読んだよ。前の孤児院長さんが、半年で天力量を倍増させたんだって。ずっと前から戦っていた海外の人の中にも、少なからずいるみたい」


前の孤児院長が残した伝説は多い。天力量の膨大さのみならず、数々の話が集まり本となったと言われている。

【白天】の創立者でありながら、悪魔討伐において日本で過去最強だった彼の功績は、現在もなお世界に名を轟かせている……それは講義で聞いた。

本で得る知識に関しては流文が一番詳しそうだし、今度いろいろ訊いてみよう。


「ああもう、また話が逸れました。水音さん、私の説明通りに動いてください」

「……はい」

話が進まないことに頭を抱えている依雲だが、その原因は彼女にあると思う。けれど言ったら何をされるか分からないので、しっかりと口を結んでおいた。



依雲の言う「移送」は「着衣変更」と同じ、天術の一つに数えられる。天力の消費量が多いのは圧倒的に前者。そのため使用頻度が低く、天力に余裕がある人しか知らない術なのだとか。


まずは天力を自分の利き手に集めて凝縮する。次は依雲から専用のペンを取り寄せ、その中に溜めていた天力をインクのように流し入れる。青く発光する不思議なペンができた。一般的なボールペンに比べて太く、天力を注ぎやすかった。

最後は床に二重丸と模様を書き込む。所謂、魔法陣と呼ばれるものだ。依雲にお手本の図を見せてもらいながら、少しずつ書いていく。位置が微妙に異なるだけでも、術が失敗して天力を無駄に消費してしまう恐れがあるそうだ。


「できた……!」

私の側で見ていた美里も、カメラ越しの依雲も、満足そうに頷いた。

「さすが、完璧ですね。あとは遺体を魔法陣のところまで運び、呪文を唱えて終わりになります」

呪文を聞くと、想像以上に複雑だった。しかも一発勝負らしいので、失敗なんてできない。プレッシャーに襲われながらも、遺体をそっと運んで、魔法陣に触れる。


「円陣に告げる この場より【白天】まで 悪に蝕まれた この者を送り届けよ」

魔法陣が外側から順に光を帯びる。あまりの輝きに目も開けられない。やがて、それは遺体までも覆い尽くし、気付けば遺体も魔法陣も消え去っていた。


「お疲れ様でした。体調はどうです?」

「……たぶん……」

私は床に座り込んだまま返事をした。魔法陣が光った後、天力が一気に抜けた感覚はあったが、体に異常はない。

なんか、すごい眠いけど……大丈夫だよね。


「……水音ちゃん? どうしたの水音ちゃん、しっかりして!」

体が揺さぶられる。たしかに天力はたくさん使ったけど平気なのに、美里は緊迫したような口調で呼びかけている。

「水音さんでもダメですか……それもそうですよね……私が馬鹿でした……」

依雲が反省している声も聞こえる。でも何故だろう。二人の姿がぼんやりとしていて、よく見えない。


眠気が酷くなってきた。こんな催眠術にかかったような感覚は初めてだった。そういえば、天力を大量消費した場合の症状に『異常な眠気』があったような気もするが、眠すぎて上手く思考が働かない。

これは、もう耐えられない。我慢なんて無理だ。私はあと五秒で寝れる。いや、寝る。何がなんでも絶対に寝ちゃう。その前に、一言だけ言っておかないと。


「あとは……よろしく……」

ああ、ちゃんと言えた。

安心して気が抜けたら、もう駄目だった。気付いた時には瞼が完全に閉じていて、私は人生で最も深い眠りに落ちた。


主人公が過剰消費でちゃっかり眠りました。

次は美里視点になる予定ですが、もしかすると舞花になるかもしれません。

一部分の中で視点を切り替えてたらゴチャゴチャになりそうなので(昔話は例外)、ここで区切りました。

短くてすみません。

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