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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第二幕 呪われた街
26/60

侵入

やっと書けたので、いつもと時間は違いますが投稿しました。

楽しんでいただけますように。

喫茶店で一息ついた所で、私たち三人はもう一度、桜咲家に向かう。内部に悪魔が潜んでいる事が判明した以上、被害が出る前に討伐しなければならない。


来た道を戻っている最中、依雲から「すみませんが、止まって右折してください」と指示が出た。私たちは依雲の言う通り右に曲がって路地に入る。建物の間にあるため薄暗く、視界も悪い。


「急にどうしたの、依雲ちゃん」

私が尋ねると、腕時計の画面から白天士用のコートやベルト、中学校の制服が飛び出してきた。地面に落とさないよう、両手でしっかり掴み取る。美里も同じだ。


「水音さんと美里さんは此処で着替えてください。正装では動きも鈍ります」

確かに、その通りだった。正装は硬い生地が使われていて、思うように動かない。

それを言うなら制服も動きにくいけれど、突然学校で襲撃された時のためだから仕方ない所もある。正直、正装よりかは動きやすく、慣れているから制服の方が助かる。


「それは良いけど、此処で脱ぐのは……」

美里が言葉を濁す。路地だからといって、人が通らないとは限らない。着替えの様子を目撃される可能性は大きいだろう。

「心配ありません。微量の天力を使用すれば、着替えなど容易いですよ」


手の平に込めた天力を少々取り出したら、それを今から着る服に纏わせ、「着衣変更」と唱えれば、勝手に着替えられる。先程まで着ていた服は畳んだ状態で手元に戻る、という仕組みだ。


依雲から一瞬で着替えられる便利な天術を伝授し、早速試してみた。「着衣変更」と唱えた瞬間に全身が白い光に包まれた。その刹那、光は一層輝きを増し、私は思わず瞼を閉じる。開いた時には既に着替えが終わっていて驚いた。


「すごい、魔法みたい!」

横で見ていた舞花が興奮した様子で言う。「私もやってみたい」という欲望が表情から漏れ出している。


この天術の最大のメリットは、小さじ一杯よりも少ない量の天力で済むことだ。あまり使うことは無いかもしれないけど、討伐に備えて天力を蓄えている白天士にとっては有難い。


「お二人共、できましたか?」

二人で顔を見合わせて頷く。思ったよりも簡単だったから、今後も使えそうだ。

気を取り直して、桜咲家へと歩みを進めた。



ーー路地での一件から約五分。桜咲家に到着した。何度来ても、この家の周辺は静寂に包まれており、沈んだような重たい空気が流れている。


「舞花ちゃん、何処から入るのが一番安全か分かる?」

善良の木陰路は舞花の部屋に通じる。数時間前に其処で舞花の母親と言い争ったので、危険と見ていいだろう。他の場所は舞花でなければ分からない。


「……裏口かな。善良の木陰路よりかはマシだと思う。正門は無理」

逆に正面強行が安全かとも考えたけど、やっぱり違った。


「それなら、裏口から行こう。先頭は頼むね、舞花」

「私からもお願い」

美里と私が一緒にねだると、舞花は「しょうがないなー」と呟いて、前を歩き出した。



作戦通り、裏口から桜咲家に入り込むことができた。まさか扉が施錠されていないとは思わなかったけど、結果オーライである。

舞花が周囲を確認して、こちらに親指を立てて見せる。辺りに人の姿はないようだ。


音に気を付けながら扉を閉め、その後は抜き足差し足忍び足を常に意識する。これも作戦のうちだ。

裏口から入ってすぐの場所は石造りだからいいけれど、この先は長い廊下で、床もごく普通の木。先頭の舞花は独断で仕方なく土足で入ることに決め、右脚をゆっくりと床に伸ばす。

あと数センチも降ろせば足が付く、という瞬間だった。


「あ、あの〜、二人とも。すごく言いづらいんだけど……」

美里が口を挟み、舞花は動きを止めた。足を再び石造りの地面に戻す。

「トイレ行きたい」

「えっ?」

掠れるような小声で舞花が聞き返した。眉間にしわを寄せている。


「どうしても?」

私が尋ねると、美里は何度も首を縦に振った。物凄くタイミングが悪いが、こればかりは致し方ない。

「舞花ちゃん、この家にトイレあるよね?」

「あるけど危険すぎるよ!」

この口調から、舞花が怒り気味なのが分かる。そこで私は一時撤退を提案し、何とかこの場を丸く収めることが出来た。



桜咲家周辺は住宅ばかりで店が無く、コンビニのトイレに行き着くまでに十分ほど要した。その道中、美里が「ごめんね」と涙声で謝っていた。対して舞花は「いいよ」と言いつつも、怒りが顔に出ていた。

私も「気にしないで」と声をかけたが、美里はずっと沈んだ表情でいる。


美里のトイレを待つ間、舞花と店を見て回った。ギクシャクした空気が嫌で、私は彼女に一つ聞いてみる。


「舞花ちゃんは美里ちゃんのこと、どう思ってるの?」

手に取って見ていた商品を棚に戻し、舞花は俯いてしまった。空気に重みが増したのを感じる。さすがに失礼だったかもしれない。

これだから私は、友達ができないんだ。


それでも舞花は答えてくれた。

「美里は良い意味で私の人生を変えてくれて、今も傍にいてくれる親友……かな」

途切れながらも紡がれた言葉に、悪口は一切なかった。口角も自然に緩んでいるのが見て取れる。


「いいね、そういうの」

あまりに語彙力がない私の一言に、舞花が首を傾げた。当たり前である。

「小さい時からこの瞬間まで、ずっと友達がいてくれるのは羨ましいなって」


友達と一緒にいる人たちは、私の目には輝いて見えた。遊んだり、笑い合ったり、そういう関係に憧れていたのだろう。

『家族が一番』という考えが自分の中で固執し、返って友達ができない状態を作り上げてしまった。それが私だった。


「水音ちゃんにもいるでしょ、友達」

私はすぐさま首を横に振る。すると舞花は「絶対嘘だ」と言い、更に続けた。


「これだけは断言できる。水音ちゃんにもいるよ。だって、一緒にいて楽しいから。それに【白天】で美煉や麦、シュンシュン君と仲良くしてたじゃん。あれが友達って言えないなら、水音ちゃんの中の友達の概念が間違ってると思う」


「……本当に?」

「うん」

舞花が大きく頷いた。認識していなかっただけで、本当は私にも友達がいる。話を聞いて自信が湧いてきた。

ただ、それは【白天】に限ることだ。彼処に行くまでの私は、いま思えば論外だった。


「私には友達ができない」と決めつけて、クラスメイトと距離を取り、単独行動をしていた。放課後の遊びに誘われた事も何度かあった気がするけど、家族が待ってるからという理由で全てを断っていた。

何故それを、忘れていたのだろう。

原因は、私にあったのに。


「……二人とも」

気付けば美里が戻って来ていた。心配そうに私の表情を窺っている。

「美里、もう大丈夫なの? お腹壊したりしてないよね」

「うん。ごめん、舞花」

また美里が謝った。真っ直ぐな彼女の瞳に見つめられて、舞花は戸惑いながらも「それは終わった事だからいい」と言う。


いつもの二人が帰ってきたな、と感じていた最中、腕時計の画面に依雲が出てきた。

「通信回復、完了。回線ともに正常です。皆さん、ご無事ですか」

「大丈夫……まだ何もしてないけど」

私が言うと、依雲の動きが止まる。通信が切れた間に悪魔を倒したものだと思っていたのだろう。

「…………ゴホン。失礼しました。ここまでの事情を説明していただけますか?」


桜咲家に裏口から侵入したけれど、てんやわんやで一時撤退することになった……というような出来事を舞花が説明してくれた。


「そうでしたか……」

私は舞花と共に頷いた。美里も私たちの後ろで小さく首を動かす。まだ申し訳ないと思う気持ちが拭えないらしい。

「聞いた話から思ったのですが、美里さんは本当にトイレに行きたかったのですか?」

「そ、それは……」

依雲が疑問を呟いた途端に、美里が口を開いた。


その発想はなかった。普通にトイレに行きたいものなのだと思っていた。きっと舞花も同じだろう。

でも、考えてみればそうかもしれない。美里は勘が鋭いから、その可能性もある。けれど、トイレに行きたいと言ったのは、舞花が床に足を付けようとした瞬間だった。タイミングを見計らっていてもおかしくない。


つまりは……。

「床に何かあるってこと?」

美里がビクッと肩を震わせた。私の推理は正解のようだ。

「どういうことなの、美里」

説明をするよう舞花が迫るが、美里は躊躇った様子で話そうとしない。


「美里さん。間もなく夕方になります。討伐のために役立つ情報であれば、今すぐ伝えてください。貴女の所為で被害が出てしまう事は、私も避けたいのです」

最後に依雲の説得があったことで、美里はやっと話してくれた。


「あの裏口から続く廊下は特殊なの。たしか、(うぐいす)()り。あの床を踏むと音が鳴って、私たちの居場所が把握される……」

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