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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第二幕 呪われた街
23/60

初仕事

お久しぶりです!

かなり間が空いてしまいましたが、この度、連載を再開いたします。

また楽しんでいただけますように。

舞花の失踪から一晩。未だに音信不通の状態で、行方知れずである。


そんな中、私の部屋は緊張感で満ちていた。食堂で朝ご飯を食べてすぐ、美里が私を訪ねてきた。昨日と変わらず沈んだ表情だったため、部屋に招き入れた。

そして紅茶を淹れたはいいものの、美里は一口も飲んでいない。机に突っ伏して、何やら考え事をしているらしかった。それを間近で見ていても、落ち込んでいるのが分かる。


「ねー、水音ちゃん」

美里が口を開いた。部屋に来てからと言うもの、一度も言葉を交わしていなかったのだ。私は驚きながらも「どうしたの?」と尋ねた。


「今まで口封じされていたけど、話そうと思う。水音ちゃんなら、他の人に黙っていてくれるよね?」

「もちろん」

友達の秘密は守る。必ず墓まで持ち帰る。それは当たり前のことだと、幼少期に叩き込まれた私だ。


「舞花の居場所は、桜咲家だよ」

推測の言葉は付け加えず、美里はそう断言した。真っ直ぐな瞳に嘘はない。私は彼女を信じて訊いた。

「桜咲家は舞花ちゃんの……」


「そう。舞花の家はちょっと特殊でね、家の人はみんな年中着物を纏っているの。家も大きくてお金持ちで、私たちからしたら羨ましいけど、舞花としては彼処を出たいと思ってる。あの家が嫌いなんだって」


現代において、着物を着て生活している人は早々いない。舞花の実家は一般家庭とは訳が違うようだ。

「それから……」

美里が口を開いた瞬間、腕時計から通知音が鳴った。依雲からの緊急連絡だった。


内容は、会議が一旦終了したこと。それから美里の呼び出しだった。

心細いのか、美里は「水音ちゃん、付き添いで来てくれない?」とお願いされた。頼まれたら放っておけないのが私である。「いいよ」と快く引き受けた。

結局、嫌いな理由は聞けずじまいになってしまったけれど、そのうち分かる筈だ。



会議室では、当主である二人がパイプ椅子に腰掛けていた。一礼して部屋に入り、二人の傍に寄る。織火が早速、口を開いた。

「突然呼び出してごめんな。少し早いが、二人に共同の仕事を任せたい」

私と美里は顔を見合わせて頷いた。


初仕事、ドンと来い!


「君たちには桜咲家で舞花の捜索を頼む。念の為に正装で行ってもらうが、あの家は手厳しいから、正面突破できないと判断したら内部侵入を図って欲しい」

「分かりました!」


美里が即座に返事をした。家に忍び込むのは、立派な犯罪である。それでも躊躇うことなく引き受けるとは、さすが美里。

正直なところ、迷っているのは私だ。立ち入り禁止区域に踏み込むような感覚を味わいたくはない。そして、舞花を捜すためだけに二人動員し、それを仕事だと表現しているのが引っかかる。目的が他にもあるのだろうか。


「水音ちゃん、無理して受けなくてもいいんだよ。まだ準備段階でもあるし……」

木織の優しい言葉には、時々甘えたくなってしまう。でも、それに惑わされはしない。

私は少し考えてから、現時点までの話の中で気になったことを尋ねた。

「織火さん。桜咲家の周辺で、悪魔の襲撃情報があるんですか」

織火が目を見開いた。私と視線を合わせて微笑する。


「その通りだよ。舞花の捜索、及び悪魔の討伐。この二つが君たちに与える仕事。本当は別の白天士を動員する予定だったが、舞花と連絡が取れなくなって状況も変わったんだ」

白天士の中で最も舞花を知る人物は美里しかいない。だから呼ばれた。


私が動員された理由は謎だけど。


「こういう事もあろうかと、武器は作っておいた。遠慮なく使ってくれ」

木織が高級そうな布で包まれた何かを二つ取り出した。両方とも結び目を解いて、中身を見せてくれる。

水色の弓と数本の矢。薄紅色の柄の刀。これが私たちの武器だ。新品は表面が艶々でかっこいい。


試しに手に取ってみた。

「うわあ、軽い……!」

美里が感嘆の声を漏らすのも無理はない。これは金属にしては軽すぎる。子供でも楽に持ち上げられて扱いやすい。

「早めに天力登録をしておくこと。手順は覚えているな?」

私たちは共に頷く。これは悪魔討伐シュミレーションの際に勉強した。武器に天力を流し込むことで、使用権を独占できる。本人が許可すれば、一時的に使うことも可能らしい。


「その他の説明は依雲に任せる。何か困ったら、随時連絡してくれ。場合によっては緊急派遣白天士をそちらに送るよ。後は着替えを忘れないようにな」

「分かりました」

桜咲家に向かうための用意が始まった。



服装よし。武器よし。その他も大体よし。二人とも準備は整った。ここからが、いよいよ仕事本番である。


依雲の案内で森を抜ける。眩い光に照らされたと思ったら、目の前には樹海が広がっていた。数え切れない程の広葉樹が青々と茂っている。その光景は【白天】と酷似していた。また戻って来てしまったのだろうか。


「大丈夫です。無事到着しましたよ」

腕時計から依雲の声が聞こえる。移動は成功したようだ。胸を撫で下ろして、辺りを見回す。どこもかしこも木々で埋め尽くされている。抜け道が見つからない。


風が颯爽と靡き、枝や葉が揺れる。足元に生えた草もサラサラと音を立てる。美里は懐かしそうに森の様子を眺めて微笑んだ。

「水音ちゃん、依雲ちゃんの言うことは本当だよ。此処は京都の外れにある森。私と舞花がよく遊んだ所なの」

どうやら私が依雲を疑っていると思われたらしい。事実ではあるのだが、ここはあえて黙っておくことにする。


私たちは依雲のナビに従って、森の抜け道を歩き出した。木と木の間から栄えた街の様子が見える。この都会に和風の豪邸が堂々と佇んでいる。それが桜咲家なのだと、美里が教えてくれた。

さらに依雲によれば、桜咲家の門に直接来ると怪しまれるので、人目につかない森に移動したという。さすがは人工知能である。


訓練のお蔭もあってか、数分で街に出ることができた。ここらは疎らだが住宅が建っている。車通りも少ない。桜咲家のある繁華街には、まだ遠いようだ。

「美里さん。此処からの道は任せてもいいでしょうか?」


美里の腕時計の依雲が問いかけた。それに対して「もちろんだよ〜」と答え、美里は私の一歩前に出た。

お互いに着てきた正装に汚れは無い。スカートに付いてしまった雑草を簡単に手で払って、また歩き始める。体力温存のために走ることはせず、ただ足を前に出す。後ろを追う私には、美里の背中が以前とは比べ物にならない程まで逞しく見えた。



暫く歩いていると、車や人の数が段々と増えてきた。建物も高層ビルなどが目立つ。漸く繁華街に来れた。平安時代あたりに古都があったとされる京都にも、現代的な街がある事は正直、信じられない。


交差点では人で溢れていた。歩道信号の色が青に変わると、多くの人が流されるように横断歩道を渡っていく。私の住む、いや住んでいた街も栄えてはいたけれど、これ程まではいかない。首都の東京がこれ以上なのだと思うと、気を失いそうだった。


そんな不安を拭ってくれたのは美里である。

「付いてきて。私よりずっと賢い水音ちゃんでも、この人混みの中では、はぐれるかもしれないから」

そう言って手を握り、引っ張ってくれた。思い出すのは姉の花彩の手だった。

「ごめん……ありがとう」


年下の子に頼るのは、上の立場の私にとっては情けないこと。だから、ごめん。

こればかりは仕方ない。気を遣ってくれた美里に感謝しよう。だから、ありがとう。


「気にしないで。もうすぐ着くよ」

美里の言葉は本当だった。



交差点を過ぎて数分で、木造の豪邸は見えてきた。金具で堅く門が閉ざされている。あれはもう確実に、私たちが目指していた桜咲家だろう。

念の為に表札を確認する。間違いなく『桜咲』と書かれていた。目的地に到着できた。


「ピンポーン」

美里が鳴らしたインターホンの音が響いた。緊張で顔が強張る。まずは織火の指示通り、正面突破からの挑戦。上手くいく気はしていない。それには理由があった。



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