特訓と
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読んでくださる皆様のおかげです。
ありがとうございます!
今回はいつもより長めに書きました。
楽しんでいただければ幸いです。
「はあ」
「はああ」
「はあああああ」
第二試験の練習を終えた私たちは、夕食を食べてひと息ついて、密かに『誰が一番大きなため息を出せるか大会』を開催していた。今日は私、美煉、舞花、美里のいつものメンバーに加えて、麦と彩奈も同じテーブルを囲んでいる。
「今のは私の勝ちでしょ」
「いや〜、私だよ」
「そんな事はどうでも良くて!」
舞花と美里の言い合いに、彩奈が口を挟む。
「試験、合格できる気がしない」
「まさか悪魔の一匹も倒せないなんて……」
麦も彩奈に続いて呟く。
練習では全員が悪魔を一匹も倒せず、ゲームオーバーしてしまった。私のように、ひたすら逃げた人もいれば、そもそも悪魔を見つけられなかった人もいたらしい。
「それなら心配しないで」
「お姉ちゃん!」
姉の花彩が私たちのテーブルの傍に来ていた。いつから居たんだろう。足音すら聞こえなかったのに。
「明日からは講義なしで、第二試験に向けた特訓が始まるの。楽しみにしててね」
それだけ言い残して、花彩は去ろうとする。私はすかさず「ちょっと待って!」と彼女を止めた。
「教えて欲しいことがあるの」
花彩の顔から笑顔が消える。きっと察したのだろう。彼女は躊躇いもなく空いている椅子に座って、聴く体勢を整えた。周りに座るみんなも、自然と姿勢を正す。
「お姉ちゃんは、いつから此処にいたの?」
「……三年前よ」
「三年?」
驚くあまり、私は花彩の言葉を繰り返す。三年前は私が小五で、花彩は小六。まだ中学に上がっていない。
「進級してすぐ、お父さんに誘われてね。水音にはまだ早いからって、内緒で通ってたの。黙っててごめんなさい」
うん、と返すつもりだったが、声が出ない。どうして父が【白天】の存在を知っているのか。そして何故、花彩を誘ったのか。謎はどんどん深まるばかりだ。
「本当は白天士になったキッカケも、行方不明扱いにしてた理由も全部話してあげたいけれど、緊急派遣白天士になってからは、そう暇じゃないの。また今度でもいいかしら?」
「うん」
やっと返事できた。花彩は微笑み、席を立つ。食堂を出て行った。
暫くの沈黙が続いていた頃。
「白天士の階級って覚えてる?」
麦が突然問い出す。全員が頷いた。
「最白天士、緊急派遣白天士、一般白天士の三段階だよね」
私がより詳しく答えた。
講義で依雲に聞いた話だと、最白天士は織火と木織の二人だけ。【白天】のトップのみが手に入れられる称号。白天士の中で一番強いとされる。
緊急派遣白天士は夜星、花彩を含めた五人。その名の通り、緊急時に一般白天士の応援へ向かう人たちで、白天士の中でも強さはトップレベル。次期最白天士候補の集まりだ。
一般白天士は、最白天士と緊急派遣白天士以外の白天士全員を指す。一人一人の強さに関わらず、みんな同じ扱いである。
「三年も経たずに緊急派遣白天士まで上り詰めた花彩さんは凄いよね。私たちも、あんな風になれるのかな」
麦が本音を溢す。私も同じ思いだった。
花彩はずっと前から、私の先を進んでいる。先導してくれる訳でもなく、いつも一人で、ゴールの見えない階段を上がる。いつも私を置いて行ってしまう。いつも追いつけずに、距離が開いていく。それが偶に怖くなる。
「なろうよ」
彩奈の声で、現実に引き戻された。
「なれるかどうか分からないなら、なるんだよ。試験みんなで頑張ろう」
みんなの表情が明るくなった。私もまだまだ頑張れそうだ。
ーー翌日。今日から第二試験に向けた特訓の幕開けである。武器毎に分かれて、それぞれの集合場所へ向かう。私は弓矢なので、訓練所一階の射場だ。麦も一緒で心強い。
射場では、何人もが並んで矢を射っていた。白天士の先輩達だろうか。相当練習しているのだろう。射法バッチリ。動きも洗練されていて美しい。
特に夜星は、いい意味でよく目立つ。弓道着が似合う美少女。かつ放った矢も的のど真ん中に刺さり、完璧さを見せつけている。私より上手いんじゃないか?
ああ、弓道だ!早くやりたい!元弓道部の私は久々の空気感に興奮してしまう。
気分の高揚を抑えきれない私と呆然としている麦に、夜星が気が付いた。
「水音さん、麦さん、お待ちしておりました。弓矢の特訓を始めましょう!」
「私たちだけですか?」
「白天士候補者はお二人だけです。人が少ない分、じっくり練習できますよ」
夜星が柔らかく微笑む。射法の一連動作をする時の真剣な表情とは大違いだ。
「水音さんは経験者ですから、麦さんにも色々教えてあげてくださいね」
「はいっ」
「よろしくお願いします」
弓道着に着替えたら、基本を覚える。心構えから姿勢、射法八節まで。夜星が細かい所を指摘してくれるのでやりやすい。おかげで私の出番はこれっぽちもなかった。
私は当時の稽古を思い出して、懐かしい気分になる。麦にとっては全部が初めてのことで、覚えるのに必死みたいだ。
覚えたらゴム弓を使う。これは射る感覚を掴むための物。ゴムだから簡単に引けるけど、本物の弓はもっと硬くて力がいる。
次は巻藁。これは経験者の私だけ行う。矢が突き抜けない長さに合わせた藁を束ねたものに矢を放つ。2m程度しか離れていないので、真ん中に射るのは楽勝だ。段々とあの時の感覚が戻ってきた。楽しい!
日が暮れてきた頃。特訓が終わった。
「今日はここまでです。お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
しっかり挨拶をして射場を出る。明日は夜星が仕事でいないので、先輩達に教わることになった。
こんなに明日が楽しみになるとは。弓道部を退部するんじゃなかったと、今更ながら後悔した。
寮への帰り道。麦は何も喋らない。私もその空気に流されて、無言で歩き続けた。
「佐倉さんは、弓道楽しい?」
「え?うん。すごく」
さっきまで沈黙してたのに、急に話しかけられる。無意識に聞き返してしまった。
「そっか」
それっきり、また黙ってしまう。今日の麦は変だ。ずっと下を向いて、暗い顔をしている。なんだか顔色も青白いような……。
青白い?
「麦ちゃん!ちょっと失礼します!」
「えっ」
一言断って、麦の額に手を当てる。熱い。
「麦ちゃん」
「大丈夫だから」
「駄目だよ」
麦の手を握る。こちらも熱かった。
いつから熱があった?我慢してた?
どうして気付かなかった?
それよりも今は。
「背負うから、治療所行こう」
「でも」
「第二試験、控えてるんだよ。体は大事にしなきゃ」
無理矢理でも麦を説得させ、治療所に連れて行った。
治療所に到着した。内装は病院に近く、消毒液の臭いが漂っている。此処に来るのは初めてだから、受付の仕方も曖昧だ。
「佐倉さんよね?」
背後から声をかけられる。受付の所に立っていた女性スタッフさんだ。『向日』と書かれた名札を付けている。
「はい。麦の診察をお願いしたいんです」
麦へ視線を向ける。さっきより苦しそうだ。
「まあ、何を背負ってるのかと思ったら。すぐ先生に診てもらいましょ」
向日に診察室へ案内してもらった。スライド式の扉をノックして開けてくれる。
「こんにちは」
「あ、いらっしゃい」
出迎えてくれたのは白衣を着た医者。これまた女性だ。胸元には『双ヶ丘』と書かれた名札がある。銀縁の丸眼鏡が目を引く。
そういえば最近、俊佑が黒縁の眼鏡をかけるようになって、雰囲気変わったんだよね。この人は眼鏡取ってみたらどうなるんだろう。とか何も関係ないことを考えてしまう。
「その子えらい顔色悪いな。早く診ようか」
私には慣れない関西弁で話す双ヶ丘に違和感を感じつつ、背負っていた麦を下ろして椅子に座らせた。
双ヶ丘は聴診器や名前の知らない器具を使って、麦を診察する。偶に「うーん」とか「あー」とか、いい意味にも悪い意味にも捉えられる独り言を呟いているので、不安になる。
「そうやなあ」
優しい表情が一変、真面目な顔になる。重い病気だったのだろうか。覚悟を決めて、ごくり、と唾を飲む。
「ただの風邪や」
ズコーッ!ギャグ漫画のようにずっこけたのは私でも麦でもなく、向日だ。「なんで向日がこけてるの」とボケた張本人につっこまれている。
深刻な状態なのかと思ったけど、違ったみたいで安心した。麦も顔を綻ばせる。
「薬処方するから、治療所の横の薬局寄って行き」
処方箋を渡されて、診察は終了した。
「ありがとうございました」
「お大事にな」
双ヶ丘は、また笑顔に戻っていた。
薬局で幾つか薬を受け取り、麦を背負って寮に戻った。まだ熱は引いていないから、薬を飲んで早く寝てもらおう。
帰り道を歩いていると、彩奈に会った。私の背負うものに気が付いて、真っ青になる。
「みーちゃん、どうしたの?」
「風邪だって。早く寝かせてあげたいんだけど、麦ちゃんの部屋どこだっけ」
「それなら……」
風邪と聞いた彩奈は安堵し、部屋まで一緒に来てくれた。途中で麦と部屋が近い舞花と美里にも会って、めちゃくちゃ心配された。やっぱり麦はみんなに愛されている。
部屋の前に来ると、麦は自分で私の背中から下りた。私は忘れずに薬を渡す。
「今日はありがとう」
「お大事にね」
風邪とはいえ辛いだろうに、麦は微笑んで部屋に入っていった。
弓道について書くにあたり、こちらのサイトを参考にさせていただきました。
全日本弓道連盟 https://www.kyudo.jp/




