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シロクロイロ  作者: 双葉ゆず
第一幕 はじまり
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帰還

花彩はゆっくりと地面に降りて、私を下ろした。みんなが私の周りに集まってくる。

「佐倉さん、ありがとうございます。あのままだったら私たちは、きっと死んでました」

「みんな無事で良かったよ」

麦が笑う。笑顔は初めて見たかもしれない。


『みんな、よく聞け』

腕時計から織火の声がする。

『侵入した悪魔は全て討伐された。全員の無事を確認するため【白天】へ帰還してくれ』

帰還命令だ。全員が目を見開く。

第一試験は中止なのだろうか。



「まだ動けそう?」

花彩が尋ねると、俊祐だけが首を振った。

「わ、私が悪いんです!」

美煉が間に割って入る。


「私が怪我したのを、佐々木君が天術で直してくれて、それで」

「安藤、いいから」

俊祐が宥めると、美煉は口を開きかけてやめた。申し訳なさそうな顔をする。


「僕は元々、天力量が少ないんです。だから安藤の回復スキルで大半を消費してしまって、移動スキルが使えません」

「あ、だから私たちが合流した時、移動スキルなしで走ってたんだ」

「そうだよ」


美里の言葉で納得する。あの時、俊佑は()()()移動スキルを使わなかった。天力量が少ないにもかかわらず美煉の怪我を治すなんて、優しいなと思った。それに回復スキルを私はまだ使えない。彼だから出来たことだ。


「そうね。俊佑君は水音の龍に乗せてもらって。水音は大丈夫?」

「いけます!」

天力量が多い私は、まだ余裕がある。

「じゃ、帰りましょうか」


龍に俊佑が乗ったことを確認して、合図を出す。花彩を先頭に、私たちは移動スキルで【白天】へ戻っていった。



数十分後、【白天】に到着した。

「みんなお帰り。花彩、全員いるかどうか確認をお願いできるか?」

「はい」

花彩は織火の指示で名簿にチェックを入れていく。その動作が随分と手慣れていることに驚いた。


その後も、受験者が続々と【白天】に戻って来た。夜星が一番最後。遺体を運ぶため、敷地内の治療所へ寄っていたらしい。

全員が揃うと、怪我人は治療所へ、他は寮の大広間に集められた。織火が話したいことがあるのだと、依雲は教えてくれる。



大広間。椅子を用意する暇はなかったらしく、中は空っぽだった。正座をして待っていると、織火がマイクを手に前へ立つ。


「今回の件だが、死者は出なかった。怪我人はいるものの、この程度で済んで良かったと思う。みんなのおかげだ」

彼女は言葉を濁す。さっきより強くマイクを握り締める。真剣な眼差しに変わった。


「ごめん」

ただ一言、そう告げる。


「もっと強い結界を張るべきだった。彼奴等に侵入されるなんて想定外だ。今回ばかりは私が悪い。だから、君たちは第一試験を免除とする。それから水音は、試験なしで白天士になることを認める」

「な、何故ですか⁉︎」

無意識に立ち上がって、声を荒らげる。私は何もしていない。それなのに、白天士になる資格があると言うのか。


「水音が簡易武器で悪魔を討伐したんだろう? そう花彩から報告を受けたが、違うのか?」

「確かにそうですけど……」

「悪魔を討伐できる実力があるのなら、十分戦えるよ」


織火の言う通りだ。でも私は()()()()()()()()であって、一人で倒した訳ではない。あくまで私の考えだけれど、それは、実力があるとは言えないと思う。


「実力で言うのであれば、白天士に相応しいのは、麦ちゃんと朝霞君だと思います」

「理由はあるのか」

織火の視線が鋭く尖る。そこで怯みかけて、何とか止まった。

「私が来るまで悪魔と対峙していたのは二人です。武器も使わずに技を繰り出していたそうで、相当体力を消費していました。その分悪魔も衰弱していたので、止めを刺せたんだと思います」

「水音は、止めを刺しただけだと?」

「その通りです」


私が話し終わっても、麦と流文は何も言わなかった。麦はまだしも、流文は何かしら発言すると思っていたから意外だった。

一方、織火は腕を組んで、瞼を閉じている。一分足らずで目を開き、此方へ向き直った。


「分かった。三人とも第二試験は必ず受けてくれ。その代わり、今度ご褒美をやろう」

返事は?私たち三人がそう問われる。それぞれ顔を見合わせて、はいっ、と慌てて応えた。

ご褒美なんだろう。ちょっと楽しみだ。



今日はゆっくり体を休めるよう言われ、私たちは寮へ戻って来た。本当は花彩と色々話がしたかったのだが、解散後、すぐに居なくなってしまった。花彩は夜星と同じ緊急派遣白天士で、いつも忙しいそうだ。


「第二試験どうなるのかな」

部屋へ行く最中、美煉がポツリと呟く。

「そういえば織火さん、何も言ってなかったよねえ」

「そうだね」

先程の話を思い出す。織火は第二試験に関して、殆ど言及していなかった。


「私たち第一試験免除だから、試験の難易度上がったりして」

美里の冗談に、みんなが笑う。でもそれは、冗談ではなく現実となる。




夜。悪魔国、魔王城内。集会が終わり、悪魔たちは帰っていく。幹部と女のみが残された。幹部はその場で跪く。女は立ったまま、それを見ている。幹部はずっと、ある言葉をかけられるのを待っていた。


(おもて)を上げろ、タルテー」

幹部の一人であるタルテーは顔を上げる。真っ黒な目で指示した女を見つめた。

「アルフィアはどうした?」

女がもう一人の幹部の名を口にする。


「【白天】の所有する孤島に部下を連れ襲撃に向かって以降、此方へは戻って来ておりません。彼以外は殺されてしまったと、つい先程連絡がありました」

「そうか」

女はそれだけ言うと、部屋の奥に置かれた椅子に座る。黒いドレスが擦れる音を立てて、膝を組んだ。さらに頬杖をつくと、イヤリングがチャリチャリと鳴った。


「はしたないですよ、コルス様。貴女はこの国の女王様なのですから、凛としたお姿でいていただかないと」

「いいだろう?集会が終わって疲れているんだ。それに今はタルテーしか見ていない」

「僕も見ていますが、良いのですか」

扉を開けて誰が入ってくる。もう一人の幹部であるアルフィアだ。こちらもタルテーと同じく真っ黒な瞳をしている。


「遅刻だぞ、アルフィア」

「申し訳ございません」

彼もまた、タルテーと並び跪く。

()()()は始末できたのか?」

「いいえ」

「まだなのか」

「申し訳ございません」

彼はまた謝る。さっきと同じトーンだ。


その態度に苛立ったのか、女は激怒した。

「あの娘は、水音は邪魔だから殺せと、何度も言ったが忘れたか?」

「……いいえ」

「だったら早くしろ」

「仰せのままに」

アルフィアは瞬間移動して消えた。


「タルテーも退がってよい。同胞を増やすことに専念しろ」

「かしこまりました」

タルテーも瞬間移動して消える。もう、部屋にいるのは女だけだ。


彼女はため息を吐く。右のテーブルに置かれた水晶玉を見つめ、ニヤリと笑う。

「早く死んでもらえないものかねえ」

水晶玉に映るのは、家族と共に笑い合う水音の姿だった。


コルス・ロナウィ。

悪魔を統べる、女王の名である。

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