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#001 コンダ

当作品はフィクションであり、登場する名称は全て架空のものです。

同姓同名の方がいらしたら筆者がエア土下座致します。

ただ、酷い目には遭わない(比率では)ので許して下さい。お願いします。


 自分の名前は渾田望一(こんだ ぼういち)と言う。


 どこにでもいる普通…ではないな多分。普通の男ならもっと世の中を上手く渡っていけるんだろう。自分は高校を卒業した後、家を飛び出した。理由は…自由に自分がやりたいことをやる為、いいや違うな。逃げたんだ。

 自分の家はそれなりに有名な刀鍛冶の家系らしくてな? 代々国から国宝人間だの大層な称号を貰っている。いずれは自分の親父がその名を冠することができるんだろうな。自分の父親は歴代の鍛冶職。母親は海外でも名を知られる家具職人…芸術家とも言われるが。祖父は武術家で幼い頃から自分も扱かれたもんだ。だが、自分はそんな家族達から離れた。家族は何を思ったのか、自分にそれらの才能が有ると見込まれていたようなのだ。だが、結局は自分は家を出て、親父の跡継ぎは歳の離れた自分の長兄が。母親の跡目は自分の姉が。そして、祖父の道場は自分の双子の弟の礼二が継いだ。結局は収まるところに収まったのだ。


 自分は家を出てからただがむしゃらに働いた。どんな仕事もそれほど長続きしなかったが、貯めた金で田舎に自分の工房を持つことが出来た。工房と言うにはお粗末なボロ小屋と自室代わりのコンテナハウスだ。だが、やっと自分だけの居場所が出来たのだ。

 自分も少しは親の血が流れているのか、ものづくりが好きだった。とにかく何にでも手を出した。アクセサリ作りから小物や家具や下手好きなグラス。この前は数本、近所の猟友会の依頼で山刀(マチェット)を数本仕上げた。誰かの為にものを造るのは楽しかった。自分が造った作品が何でも売れるわけではないし、年に2回くらい短期のバイトをして食いつないでいるが、この歳になってなんとかやっていけるようなったと自分は思う。


「お~い! コンボイ!ポン酢ってどこだっけ?」

「コンボイ、野菜切りたいんだけど。どっか場所借りていい?」

「やべえ!? コンボイ、頼まれた調味料買ってくんの忘れちまった!」


 車すら近くを通らない日すらある田舎にある自分のコンテナハウスも今日だけは騒がしかった。


 屈んで段ボールを漁るのがハル。野菜を抱えて台所に向かうのがチカ。パイプ椅子に座って自分に平謝りするのがケンヂ。皆、自分の幼馴染みだ。ちなみにハルとチカは夫婦だ。ケンヂも既婚なので独り身は自分だけだ。


 コンボイ。自分の呼び名だ。確かケンヂが最初にそう呼び始めたのか? コンダ・ボウイチだから略してコンボイ。それだけだったのだが、何故かもう20年以上それが定着している。


 年に一回、付き合いの良いコイツらは自分の誕生日を祝ってくれるのだ。わざわざ都心から離れたこんな場所まで。決まってメニューは鍋だ。持ち寄った材料、メインは近所の農家から貰った新鮮な野菜や運が良ければ近くの山で獲れたイノシシの肉も入る。クマ鍋になった時は凄かったな。


 飲み食いを始めて、酔いが回り始めたのか。チカが自分に絡んできた。コイツは昔からそうなんだ。


「あははははっ!ホントにコンボイはウチらと同じ30には見えないよねぇ~? というか何よその髭は!? その頭は!? ブフッ!どう見ても50くらいの頑固職人オヤジって感じだもん」

「おいおい…チカ」

「そうだよなあ。たしか小4くらいから髭が伸び始めてたよなあ? それに背も高校で190を超えてんのに6頭身ないし5頭身つーか。身体のパーツがひとつひとつがデカイっていうか。遠くから見ると距離感が分からなくなるっつーかさあ…皆からドワーフとか呼ばれてたよなあ~」

「いや、もう今のコンボイなら4頭身でしょ!いい加減髭剃りなさいよお~」


 相変わらず自分の外見を弄ってくるのはチカとケンヂ。だが流石に4頭身はないだろう…それどころかチカはハイ缶片手に自分にベッタリくっついてくる始末だ。はあ。


「ケンヂ、素直に自分の顔がデカイし手足が短いと言ったらどうだ? それとチカ? 自分にあまりくっ付くな…後、自分の頭をペタペタ触るな!」

「えぇ~いいじゃあない。それに誰がアンタを男にしてやったと思ってんのよぉ~?」


 全く…いつもコレだ。旦那のハルの前で止めて欲しいんだが? 自分は女性と縁がない。興味が無い訳ではないんだが、まあこんな見た目だからなあ。…頭頂部も20を超えてから急に薄くなってしまったし。高校生のときだったか、ある出来事が切っ掛けでチカと付き合うことになった。ほんの2週間の短い間だったがな。…つまらない思いをさせてしまってチカには悪いと自分は未だに思っている。その後、直ぐにハルとくっついて2年後には籍を入れたのには少し驚いたが…まあ、自分はハルの気持ちをずっと知ってたからなあ。見ろ。ハルですら苦笑いだろう。


「はあ。自分は少し外の空気を吸ってくる。いい加減に離れろ、チカ」

「あんっ」

「おっ。俺も煙草買いに行くわ。コンボイ、近くに自販あったっけ?」

「…歩いて10分くらいだな」

「ええ~。しゃあねえなあ、コンボイ頼む。場所教えてくれないかぁ」

「仕方ないな。悪いがハル、後を頼む」

「いいよ」


 自分はまだ付いてこようとするチカを捕まえてくれたハルに鍋の火の扱いを頼むと外へと出た。



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