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第一話

短編のつもりで書いたら、第五部までかかりました。すいません……。

一日で全部、アップ終わります!

 花々が咲き乱れる公園の噴水を前に仲睦まじいカップル達が逢瀬を重ねる。そんな公園を見ながらふと思い出がよぎる。あれはあたしが七つかそこらの頃だった。

 家族と一緒にこの公園にきたあたしは、花々に見とれ家族と離れ迷子になってしまった。そんな時、珍しい男の子に遭った気がする――詳細は思い出せないけど。


「シルヴィナ・ヴィ・ヴィルディー侯爵令嬢」


 名前を呼ばれデート中だったことを思い出しハッとして意識と視線をそちらに向ける。すると思いつめたような顔をした……えーっと、ナ、ナ……なんとか伯爵家の次男が「すまない、やはり私では君と結婚する未来が想像できない」とかいう訳の分からない事を言いながらあたしをフッタ。


「り、りゆうをお伺いしても?」


 朝早くからメイド総出で美しく磨かれた肌。ガチガチに絞られたコルセットは、あたしのお腹をきつく締めあげくびれを出し、淡いピンク色の派手さはないが可愛らしいワンピースドレス着こみ。派手過ぎず大人しすぎない化粧を三時間かけて施され、それなりに見えるよう気を付けた。

 口調だって出来る限り淑女らしく、姉貴の真似して優しく微笑むように努力した! なのに…………三度目のデートで、この何とか伯爵の三男はあたしをフッタ。

 大事な事なので二度言ってみたけど、ただただ虚しいだけじゃねーか!


 引き攣りそうな口角を必死に上げて笑顔を作ると理由を問いただす。すると彼は、今までの表情をスッと消し去り真顔になった途端。


「笑顔が嘘くさいんだ。それに俺が好きなのは君じゃない! ユリシナ嬢なんだ。たとえ彼女の妹でも笑顔が嘘くさいんだ。それを向けられると気持ち悪い……いや、すまない。つい本音が……今のは忘れて欲しい。じゃぁ……」


 はああ! ちょ、ちょっとまてやそこのボンクラボン! あたしが必死で作った笑顔が、嘘くさい? 姉貴に似てんのは同じ親から生まれたせいだろうが!! それを気持ちわりぃだと?!

 走り去ったボンクラボンの背中に毒を吐きつけ、心の底から怒りに震え拳を握りしめた。


「ふっ、ふざけんじゃーぞ。このボンクラボンがぁぁぁ! てめーなんざ馬にけられて死んじまえ!」


 怒りの余り声高に、口悪く叫んでしまうのも仕方ない。折角、淑女らしく大人しく姉貴のようにかわいい女のフリをしていたと言うのに……チクショウ。


 地球と言う星の日本に生まれのレディースのトップを覇って三年、巷では”紅の鬼女”と呼ばれるほどのヤンキーだった。日本名は、藤堂アサコ、享年十八。死んだ記憶はないけど気付いたらこちらの世界に生まれシルヴィナ・ヴィ・ヴィルディーなっていた。

 それから十五年、家族には愛されていると思うけど……如何せん男運がないようだ。この十五年で振られ続ける事十数回…………また今日も、夜会で自分から声をかけて来たボンクラボンにフラれた。


「はぁ~~~、やってらんね~~」


 結い上げていた髪を下ろし頭をガシガシ掻きながらぼやく。馬車止めに止められた侯爵家の馬車まで歩き乗り込み家路を進む。


 帰る早々玄関で母のカディアに捕まり、着替えをする時間すら与えてもらえず家族がくつろぐダイニングへと押し込まれた。

 既に結果は筒抜けのようで、肩を揺らしている長男ジグルドと次男シグナス。憐みの視線を向けつつ「ネェさん強く生きて」とガッツポーズをするドSな弟のジークベルト。そして、あたしをここへ連れ込んだ母のカディアに至っては「またなのね」とあきらめ顔でこちらを見ている。


「くそっ、笑いたければ声に出して笑えばいいだろ! あたしなりに頑張ったんだよ。けど、向こうが結婚する未来がどうのって言うんから仕方ねーじゃん!」


 投げやりにドスっとソファーに腰を下ろすと同時に叫ぶと二人の兄も弟もその場で爆笑し始め、母は大きなため息を零し現実逃避を始めてしまった。

 あぁ、やってらんね~チクショウ。別にもう結婚しなくてもよくね? 別に侯爵家継ぐわけでもないし、もう冒険者になって一生独身を貫こうかな……。


「あらあら、どうしたのシルヴィ。デートはどうだった? 上手くいったの?」


 穏やかな声が聞こえてリビングの入口へと視線を向ければ、そこには社交界に咲く一凛の薔薇とまで歌われている美しい姉のユリシナが居た。

 優しく微笑む姉貴は、母親と同じく小麦色の髪を美しく結わい、父親よりも濃い緑の瞳を輝かせて両手を胸の前で組んでいる。


 姉貴は淑女然としたご令嬢でナイスバディー、あたしとは似ても似つかない――主に性格がだけどね? 見た目はよく似てるんだよ。肉はあたしの方が多いけど……。

 そんな姉貴は、現在この国の王太子であるリュークハルト殿下と婚約中だ。


「はぁ、シーナ。シルヴィのデートが上手くいくことがあると考えるのはお前だけだぞ?」


 堂々と妹けなすこの声は、長男であり将来侯爵位を継ぐ予定の兄貴のジグルドだ。

 父親譲りの紫苑色の髪に母親よりも薄いブルーの瞳をしている。

 この長男は見た目と家柄だけは良いため非常にモテる。口を開いたらこの調子なにモテている。

 婚約者は、ヒースクリフ伯爵家のご令嬢であるアンジェリカ様。彼女は姉貴に劣らず美しいご令嬢だ。押しの強さに負けて婚約に持ち込まれたのはジグ兄のほうだけど。


「シーナは、優しいからこそ、シルヴィが結婚できると思っているんだよ……ね?」


 悲しそうな顔をする姉貴には甘い事を言うのはこの家の次男シグナスだ。この兄貴は兎に角、姉貴に甘いの一言に尽きる。ジグルドとは一卵性の双子で、全てが瓜二つだ。唯一の違いは髪型だろう。ジグルド兄が短髪で、シグナス兄は長髪。

 恋人、婚約者の有無は不明。聞いても教えてくれないのであたしの中でシナ兄は秘密主義者ってことになってる。


「もう、二人とも止めてあげなよ。こんな、こんな打ちひしがれて……もう、本当に……最高だよシル姉様」


 ちょっと鬼畜が過ぎるんじゃねーか? 弟よ。

 明るめの小麦色の髪にダークブルーの瞳をした女の子と見紛う程に可愛い顔をしている弟――ジークベルトは、真正のサドだ。こいつは兎に角、ヤバイ。あたしがフラれる度こうしてガッツポーズを決め、喜びを露わにする。

 そのくせ自分はちゃっかり、アカデミーで知り合ったルークス伯爵家の一人娘であるリルフェリア嬢を婚約者に据えている。


 ヴィルディー公爵家は三男二女の七人家族。双子の兄が今年十九、姉が十七、あたしが十五、弟が十三と本当に親父とお袋は頑張ったんだろう。

 そんなあたし達の両親は恋愛結婚と言うから驚きだ。この世界の貴族は基本政略結婚が多い。そんな中うちの両親は「自分の伴侶ぐらい自分で探せ」と言う家訓を立て、全員自力で伴侶を獲得するよう強制してくる。


「もう、三人とも酷いわ! シルヴィはこんなに可愛らしいじゃない。男性の方に見る目がなかったのよ! あぁ、可愛いわたくしのシルヴィ」


 美人の姉貴は異様にあたしを可愛いがる。家族愛故だからあたしだって姉貴にそう思って貰えるのは嬉しい。けど、正直もう勘弁してもらいたい!

 毎度、毎度、パーティーや夜会で「わたくしの妹のシルヴィは本当に可憐で可愛くて……」とか憂い顔で言われ度、姉貴を囲っている全ての人があたしを見てコレが? って顔をするんだ。

 そして、あたしの心はそんな周囲を見るたびにガツン、ガツン抉られる。


「はぁ~もう冒険者になるでいいじゃん。あたしに結婚は向いてないんだよ。夜会とかもめんどくせーし……冒険者登録しに行くことにするわ」


 本当に嫌気が刺して零した言葉に、何故か姉貴がうるうると瞳を潤ませあたしの両手をガシっと握る。その力は半端なく……振りほどけない。


「ちょ、姉貴痛い、手、手が砕ける!」


 ブンブン握られた手を振り、姉貴の手を振りほどこうともがけばもがくほどその手に力が篭る。助けを求めるよう周囲に視線を投げた。が、そこにいたのは実に楽しそうにニヤニヤ笑う兄貴達と恍惚とした笑顔を浮かべたドS様だけだった。


「シルヴィ。ダメよ。そんな投げやりになっちゃだめ! わたくしの可愛い可愛いシルヴィが冒険者だなんて絶対ダメ!」

「い、いや。ほら、あの……な? あたしの性格的に冒険者の方があってるのかなー? なんて思ってさ……つか、手離して……折れる」


 あまりの痛みにダラダラとあぶら汗が垂れる。それを画面しつつ、とぼけたふりをかましてみれば姉貴はあっさりウルウル顔を笑顔に変えて「なら五日後の夜会は一緒にいけるわね」と嬉しそうにする。

 こういう姉貴の顔見ると一緒に行かないとはいえねーな。

 

「はぁ~。とりあえず着替えに部屋に行くわ」


 どっとつかれた身体と痺れた両手を振りながらソファーから立ち上がり、ダイニングを後にした。


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