プロローグ4
◆
「────女の子がそんな物騒な言葉言っちゃ駄目だぜ」
空の隙間。
ひび割れた空間の向こう側から、その様な言葉が届いた。
低いとも高いとも言えない青年の声。
「貴様は何だ?」
「何だねぇ……何だかぁ……いいねぇ僕の本質を理解してるみたいだねぇ」
幼女の神楽舞台に赤い何かが流れてくる。
歌を中断されたからか、幼女は決して軽くはない殺気を未だ姿を見せない青年に向ける。
大の大人でも震え上がり失神してしまう程の殺気。
「まぁ僕から言わしてもらえば君こそ何者だ?何だけどね」
だが当の本人は飄々とし、気にした様子はない。
徐々に気配が近付いてくる。
同時に流れて続けている赤、それはまるで染みか影の様。
まるで神楽舞台を侵食するかのように拡がっていく。
チラリと視線を赤い何かに向けるが、すぐに青年が居るらしき向こう側に戻す。
「まぁいいや僕は紳士って奴だからね」
「はっ、とんだ紳士だことだ。乙女の歌を中断させといてよくほざくものだ」
「いやぁ止めなきゃ君は僕を殺そうとしていただろ?」
「ただの乙女の戯れさ、むきになる程じゃないだろ?それとも何か?貴様はこんないたいけな幼女にビビっているのかい?」
互いに声が弾んでいる。
幼女の口角は、大きく三日月型に歪んでいく。
まだ見えないが恐らく青年の口角も同じようになっているであろう。
声音からそう感じる程愉しそうだ。
「クックックックッッハッハ!」
「フン────♪!」
そして完全に神楽舞台は侵食された。
内側と外側が切り離されている。
それと同時に、青年の姿が顕になっていく。
「では改めて自己紹介を、僕はメイ──────この赤い世界の管理をする、ただの人さ」
やはり青年の口は愉しげに湾曲していた。
◆
暗く深い水の底に沈んでいく。
俺は死んだのだろうか。
何もわからない。
果たして此処は何処なのだろうか。
何も感じない。
────────主。
死んだのなら、天国へ向かっているのだろうか。
いや俺が天国に行ける筈がないか。
俺は地獄に堕ちているのだろう。
───────届いてくれ主。
誰かの声が聞こえる。
聞いたことの無い、ハスキーな男声。
君は誰と問いたいが、声が出せない。
─────生きるのを諦めないでくれ。
何を言っているのか。
生きていても何も無いと言うのに。
─────私は諦めない。
陽菜姉がいない世界なんて───。
陽菜姉を殺した世界など生きる意味など無い。
ただ生きろとそう言われたから生きていただけ。
────何処まででも食らい憑こう。
諦めの悪い奴だ。
もう遅いよ……………だって僕には聞こえる。
死んだ筈のあの人の声が。
陽菜姉の歌声が…………ってことはもう死後の世界と言うことだろ。
────主は私が護る。
ほら視界が白けてきた。
やっと僕は死──────。
◆