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神木と獣たち  作者: 如月夜音
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プロローグ2






「……………………だるぅ」




ふと意識が浮上し、目をあける。

次いで首だけ動かし対面をみれば、あいつの姿はなかった。


(出掛けたのか?)


時計を見れば、もう18時を過ぎていた。



「もう、そんな時間か………んぁ」



欠伸と一緒に、躯を手を伸ばす────。

その瞬間─────右腕に焼けるような衝撃が走った。



「ッグハッ!」



熱い!


痛い!


(何が起きたっ?!)


目の前に何かが、ごろりと転がっている。

驚愕、恐怖、それ以上の激痛が身体中に走った。

床には、夜音の右腕が落ちていた。



「ぁ゛っあ゛ぁぁァっ~~~!!!」



あまりの激痛に、呻き声をあげる。

自分の右腕があった場所をみれば、肘から先が綺麗に失くなっていた。

断面から、赤い血が霧状に噴出している。


痛い!

熱いっ!

痛いっ!

痛い!

痛いっ!



(血がっ!血っ……ぁっあっ)


意識が()()しない。

溢れる血を止めようと左手を動かそうとした──その瞬間。

バチャっと音をたて、左手が落ちた。



「────えぁっ?!」



下を向けば、赤い水溜まりに左手が浸っている。

 

(………全部、俺の?!)


既に部屋は、真っ赤に染まっていた。

腕の断面からは、未だに血潮が吹き続いている。



(ああ、俺死ぬのか……。)



理解は一瞬だった。

理解してしまえば、あれほどの混乱も落ち着いていく。

心が凪いでいく。

何を怖がる必要があったのか、望んでいたではないか。

この日でやっと俺は終われるのだ、と。



「ははっ…………」



のたうちまわった程の激痛が薄れ、代わりに喪失感が夜音を支配していく。

それが、酷く嬉しく思えた。

自分はこのまま、なにもかも失い、やっと死ねるのだと。

だからこそ彼の意識は集中していく。


走馬灯とでも言うべきか。

世界が遅く……まるで停まったかのように目の前の光景が夜音の目に入る。

自身の血液の一滴が目の前で、宙に浮かび停まっている。

視界を広げれば無数の血飛沫が部屋中に浮かんでいた。

凄絶な光景に、思わず感嘆する。

命の散り様とは此処まで美しいのか。と。

何故か他人事の様に感じていた。



(陽菜姉、もういいよね?)


集中力も限界にきた。

明滅する視界のなか、ぼんやりと今は亡き姉に問う。

意識も段々と遠退いていく。

そして血溜まりに、顔ごと倒れていった。

赤い液面に、大きな波紋がひろがる。

その大きな波紋は、少し離れたところで何かにぶつかり、消え去った



(……脚?誰だ?)



黒い靴を履いた誰かの脚が、夜音の視界に映る。

脚しかみえない。

首や目すら、動かすことができず、全体を見ることができなかった。




「鳴神様!」



声は若い男性の様に聴こえる。

恐らくこの男?が、自分を殺したのだろう。

声が明らかに弾んでいた。



「あの邪魔な犬のせいで手間取りましたが、なんとか間に合った様です!」






(……犬?あいつの事か?)


最期に残っていた意識の欠片で、あいつの事を考えた。

一瞬脚に衝撃があったが、感覚も既に無いので気にすらしなかった。



「───もう少しで貴方の元にぃ!」



何やら喋っているが、夜音は全く聞いていなかった。

いや、既に聴覚も働いていないのだろう。

もう俺の死は決まっている。

それよりも……………。


(あいつ、俺がいなくなったら大丈夫なのか?)


意外にあいつの事を大切に想っていた自分に、軽く驚きつつあいつのこれからを想う。



「神託は─────────!」



(まあ、あいつならなんとかするか。今までありがとな…………。)



そして、夜音の意識は暗闇に堕ちていった。








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