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9.孤独な執筆作業
なんて孤独な作業なんだ。
才介はルーズリーフに物語を書きながらそう思った。
サッカーをやっていた頃は、横を見ればいつも仲間がいた。自分と同じくらい苦しそうな表情をしているから、「おい、頑張れよ。あとすこしだろ!」と何度も励ましたのをよく覚えている。仲間がいると、それだけで勇気がもらえた。
それに比べて、執筆作業はほとんど地獄の沙汰である。
表現に詰まって周りを見渡してもだれもいない。自分ひとりでやるしかないのだ。
そこには永遠に終わらないんじゃないかという、恐怖と絶望が潜んでいた。
「疲れたー」
シャーペンを置いて手をブラブラさせる。電気スタンドがまばゆい光線を放っていた。
左手でマグカップをつかむ。ココアをすすると心が和らいだ。
「ふうー」
黙って読み返してみる。主観的な意見ではあるが、面白い!
これならいけるはずだ。才介はそう確信した。そして書き出す。こんこんと夜は更けていく。
明日はこれを完成させて、彼女に見せるつもりだ。彼女は喜んでくれるだろうか。