表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が綺麗ですね  作者: オリンポス
第7章 夢破れて山河あり
83/87

83.もう小説は書きたくない

「もう書かないってどうしたんですか?」

 通学路にあるファミリーレストランに立ち寄ると、吉川愛は開口一番にそう言った。

 メニュー表を開きつつ、才介は大儀そうに答える。

「やる気がなくなったからだよ。山盛りポテトフライと、ドリンクバーを頼んでおいて」

 そう席を立ってトイレへと向かう。


 彼女には叶わない夢を見せてしまった。

 それを申し訳なく思いつつも、執筆意欲が絶たれてしまったのだからどうしようもなかった。分相応という言葉があるように、最初から何物にもなれないと諦めていればよかったのだ。


 席に戻ると彼女は受け皿にマグカップをのせて待っていた。

 陶器の中には湯気の立つ飲み物が入っている。

 にこりともしないでほおづえを突いて、吉川愛はノートパソコンを取り出した。そしてテキストデータを開いて才介に見せる。恋愛小説とファンタジー小説だ。


「私も先輩に負けたくなくて、文芸甲子園をやってるときに、一緒に執筆してました。これらは新人賞に出します」

「ああ、そっか。まあほどほどに頑張れよ」

 才介は適当に受け流す。山盛りポテトフライが運ばれてきた。


「あのときの情熱はどこに消えたんですか? 私は小説を書いているときの先輩が大好きだったのに……」

「それなら瓜生と付き合えよ。俺は何物にもなれなかったんだから」

「先輩、楽しいですか?」

 ツインテールを揺らしながら、吉川愛は目を細める。


「そうやって言い訳をして、楽しいですか? 学園祭のときの先輩はすごく輝いていました」

「そうだな。今でもそれなりに楽しいんじゃないか」

「もし本当にそうだとしたら、なんでそんなに寂しそうな目をしているんですか?」

 え。と言って、自分が卑屈な顔をしていたことに気が付いた。

 近くのテーブル席からステーキのおいしい香りが漂ってくる。


 もう小説は書きたくない。

 月の化身のことを思い出すから。

 もう会えないのに、また会いたくなってしまうから。

 だからもうその話はしないでほしい。


「先輩、ご自分のブログってチェックしてますか?」

「いや、してないけど……」

「読者から反響がありますよ。また読みたいですって。それでも書かないんですか?」

「そっか。だったら閉鎖しないとだな。もう書かないから」

 才介はにべもなく一刀両断する。


 それでも吉川愛は食い下がった。

「先輩! 私も待ってますからね。ひとりの読者として、私も待ってますから」

 ふん、もう書かねえって言ってるだろ。

 苦々しい気持ちで口に放り込んだポテトフライは味が薄かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ