82.壇上の鈴木翔太
「うはは、高いところから失礼します」
鈴木翔太はステージ上でもいつもの笑顔を見せていた。
あそこに立つ資格のある者は、やはり『何者』かになった者たちだけなのだろう。
寸暇を惜しまずに努力したつもりだったが、それでも届かなかった夢の舞台に、彼らはいた。
「瓜生くんと同時期に開催された『全国オール学生将棋選手権戦』に参加してきました。結果は準優勝で、ライバルの渡辺光には一歩及びませんでした。ですが、私の師事している伊藤四段が、彼の師匠である羽田良治先生と対局する予定もあるので、ぜひとも勝ってほしいです。うはは、私ごとだけになってしまいましたが、応援ありがとうございました」
ああ、もうダメだ。才介はそう肩を落とす。
どれだけ頑張ってみたところで結局のところは何物にもなれなかった。
最悪だ。みじめだ。
こんな思いをするくらいだったら夢なんか見ない方が幾分マシだったかもしれない。それなら楽だったはずだし、ほら、この体育館にいる有象無象みたいにバカな面をさらしてボケーっと、「うわー。すごーい!」と何も考えず、何も感じず、適当に受け流していれば充実した高校生活が送れていたかもしれないじゃないか。
今からでも遅くはない。
ほら、早く頭を切り替えるんだ。
世間は努力の経過を見てはくれない。結果だけがすべてなんだ。
どうせこの先も頑張ったって何物にもなれないだろうから、ほら、努力をやめて顔を上げてみれば素敵な世界が……。
そこまで思考してから壇上を見つめると、視界がにじんでいることに気が付いた。
「なんで止まらないんだよ」
ボソッとだれにも聞こえないように呟く。
体育座りをして抱えている膝に頭を突っ込む。
「言葉は、人を傷付けるためのものじゃないのに。うっ、なんで止まらないんだよ……」
もうこの世に月の化身はいない。
鈴木を経由してだが、伊藤四段から連絡があって、葬儀にも参列させてもらった。斎場では各界の著名人がお悔やみを述べていた。それからだった。小説を書けなってしまったのは。もう彼女と同じ感覚を共有出来ないと思ったら何もかもがどうでもよくなったのだ。息をするのもおっくうで時々死んでしまいたくなる。
「なあ教えてくれよ。汐ちゃん。俺は、小説家になれるのかな」
くしゃくしゃに顔をゆがめてひっそり泣くと、頭痛と腹痛が同時に襲ってきた。もうどうにかなってしまいたかった。




