74.三次審査の結果…
スイッチボックスからルームキーを引き抜くと、部屋の照明がすべて切れた。ただのルームキーがブレーカーの役割も果たしているのだ。才介はドアを開けて退室する。オートロックで鍵が閉まった。
投宿当初は自然に繰り返していたその行為も、今になってみるとその一挙手一投足が懐かしかった。落選することが決定したわけではないが、ネガティブな思考のせいで感慨にふけってしまう。
エレベーターに乗って点灯ランプを見つめる。階数表示が下降するごとに胸の奥がぎゅっと締め付けられた。脇の下に汗がにじんだ。
箱の扉が開く。掲示物が目に入った。
近付く。いつもよりも足取りが重い。
まるで、落ちたとわかっている志望校の合格者発表を見に行く気分だった。絶望で目の前が暗くなる。
掲示物を一瞥する。
合格者の名前は記載されているが、不合格者の名前は書かれていない。才介は必死で自分の名前を探した。なかった。どこにも……。
「よう、残念だったな」
瓜生が自販機コーナーから出て来た。
彼の名前は掲示板にあった。
通過したのだ、三次試験を。
「まあコーヒーでも飲めよ」
瓜生は黒い缶コーヒーを投げ渡してから、丸テーブルの一席に座った。
じっくり腰を落ち着けて話すつもりなのだろう。
才介は人目を忍ぶように向かいの席に座った。何だか急に自分が場違いなところにいるように思えてきた。
人差し指をかけてプルタブを起こすと、カシュッと小気味のいい音が鳴った。すこしだけ飲んでテーブルに置く。
「これからどうするつもりだ?」
瓜生はブラックコーヒーを飲みながらそう訊いた。
彼の目の下にはクマが出来ている。顔も若干やつれていた。
「もう、帰るよ」
あの唯我独尊を貫く瓜生でも不安で眠れなかったんだろうと思うと、親近感が湧くと同時にすこしだけ安心した。才介は自分だけが不安で、自分だけが苦しいと思い込んでいたのだ。
「あんたは、頑張れよ」
嫉妬も嫌みもなく、応援の言葉が出た。
彼はここまで戦ってきた盟友だから、その仲間意識に引っ張られて応援してしまっただけかもしれないが、本心から他者を応援できたことに自己肯定感を覚えた。
「お前もな。このまま筆を折ったら承知しねえぞ」
フロントが騒がしくなってきた。
才介は瓜生にお礼を言って席を立つと、ルームキーを返却して国営ホテルを出ることに決めた。
他の参加者にもあいさつをするべきかもしれないが、優勝宣言をしてしまった手前、それは非常に気まずいものがあってやめた。
悔しさは、ある。
これから帰路に着く途中で泣いてしまうかもしれない。
だけど今は、せめて国営ホテルを出るまでは、胸を張っていようと表情を作った。
瓜生安吾は優勝するだろうか。
するかもしれない。
そのときはどんな気持ちで彼に接すればいいのだろう。
深呼吸をして喧騒に溶け込むと、いつもより肌寒い気がした。




