63.一次審査の結果…
枕元に埋め込まれた電子タイマーがアラームを鳴らして、才介の睡眠を妨げた。
もう起きる時間かよ。そうぼやいてふとんをまくる。身体にはまだ倦怠感が残っていた。
一次審査の結果がどうしても頭から離れず、結局は夜更かしをしてしまったのだ。
熱いシャワーを浴びて気分をリセットさせるが、やはり不安は募るばかりで解消されることはなかった。
ガウン姿から制服に着替えて、フロントへと向かう。
おそらく選考結果が貼り出されているころだろう。
「なんだよ、これ……」
一次審査を通過した者の名前がホワイトボードに書かれていた。それを見て才介は絶句する。
参加者の9割以上の名前が、この苛烈な競争から排除されていたのだ。生き残ったのは一握りの作家だけである。
「いくらなんでも厳しすぎる」
「だから言っただろ。文芸甲子園の本選は想像よりも過酷だと」
瓜生安吾は顔色ひとつ変えずに、ホワイトボードを一瞥した。腕を組んでふんと鼻を鳴らしている。
「わかっているつもりだった。いや、わかってなんかいなかった」
そう脱落した参加者を見やる。
彼らは涙や鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、右往左往していた。
栄光と挫折。
文芸甲子園に限らず、大会とは人生の縮図である。
勝者は敗者の屍の上で成り立つ、ひどく不安定な存在だ。
もしかしたら相手の夢を壊してしまうことだってあるかもしれない。
俺にその覚悟はあるのか? 才介は自問してしまう。
ホワイトボードには自らの名前が明記されていた。
このまま勝ち進むことはだれかの夢を壊すことになるのではないか。
ならばいっそ、ここで辞退してしまえば気が楽なんじゃないのか。
そうだ。小説を書き始めて日が浅いのだから、ここは年長者に譲るべきだ。
「辛気くさい面をさらすんじゃねえ。敗退したやつらが報われねえだろ。お前は、悔しい敗者の想いも背負って戦うんだろうが」
瓜生に小突かれて、初めて自分がマイナス思考に陥っていることを知った。いつの間にか会場の雰囲気にのまれていたらしい。
「そうだな。ちょっと感傷的になってた」
ホワイトボードには、村上才介、瓜生安吾のほかにも、山本由紀夫、五十嵐幹久、鳥谷莉々七、竹沢弘也と役者がそろい踏みしていた。
今は悲観するときじゃない。むしろ本番はこれからではないか。




