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月が綺麗ですね  作者: オリンポス
第6章 群雄割拠の文芸甲子園
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59.小説は彫刻だ

 文芸甲子園の会場は、東京の国営ホテルが指定された。

 交通費や宿泊費は国が負担することになっていて、参加者は前日からの投宿が許されていた。


 ぴりり、と枕元に埋め込まれた電子タイマーが時間を告げる。才介は朝食バイキングに赴いてから制服に着替えた。

 袖に腕を通すと、期待と不安が脈を打つのを感じる。まずは初日を生き延びなければならない。


 テレビのニュースを眺めていると、文芸甲子園と全国オール学生将棋選手権戦が同時に開催されるとのことが紹介されていた。

 鈴木もどこかで頑張っているんだ。俺も頑張らないと。才介はそうふんどしを締め直した。


 今大会は午前の部と午後の部でわかれていた。才介は午後の部であるが、事前説明を聞くためにフロントに集合することになっていた。


「おはよう、作者諸君。文芸甲子園は高校生ならではの、柔軟性や発想力、文章力が問われる大会だ。審査項目はストーリー評価と文章評価だけ。これらは5段階で評価するものとし、成績上位者だけが次のステージに進めることになっている。公平を期すためにインターネット通信は禁止する。これは四階の通信管制室で厳正に管理しているから、違反が認められた者は即退場となる。なお、外部との通信も禁止だ。そして本日のお題は『広義によるミステリー小説』だ。推理小説でなくとも、その要素を含んでいれば可とする。説明は以上だ。では解散」


 人々は三々五々に散った。午前の部の人間は四階のコンピュータルームへ、午後の部の人間はそれぞれまごついたり、部屋に戻ったり様々な動きをした。


「こんなところで消えるなよ」

 瓜生は白い歯を見せて笑い、才介を勇気づけた。

 彼は午前の部であった。


「文芸甲子園において友情ごっことは、笑止千万!」


 突然、人垣の間から声がした。そこには長身痩躯でフチなしの眼鏡をかけた青年がいた。学ランの詰襟までピシッとしている優等生風の男だ。


「小説は彫刻だ。贅肉となる文章はすべて削ぎ落とす。そして、小説を書く上で必要な存在は読者だけだ。仲間など必要ない、贅肉だ。削ぎ落とせ。さもなくば、そなたが削ぎ落とされるぞ」


「ふん、くだらねえ。俺は二階の資料室に行くけど、あんたもいっしょに来るか?」

「同行しよう。そなたが不正などを働かぬよう監督せねばならぬ」


「なんだかな。あんた、そんな軽口叩いていいのか? 午後からミステリー小説を書くのに、下調べもなしかよ?」

「コンピュータルームにはメモや通信機器は持ち込み禁止であろう。必要ない」


「まあいいけどよ。ネタとか収集しなくていいのか」

「私はこれでも、世界の犯罪事情に通暁(つうぎょう)しているつもりだ。付け焼き刃になるようなことはせぬ」

 エレベータが到着した。自動で鉄の扉が開く。カゴ内には車椅子用の姿見があった。階数ボタンを押すと、重厚な扉はひとりでに閉まった。


「犯罪事情に詳しいってことは、警察にでもなるつもりか?」

「いいや、私が目指しているのは、検事だ」


 狭い箱がぐいんと急上昇して、止まった。扉が開く。目の前にあるのは全面ガラス張りの資料室だった。そこにはびっしりと本棚が鎮座していて、地震が起きたら間違いなくドミノ倒しになるだろう構図だった。本棚はかなり背が高く、脚立も用意されているほどだった。


「悪いけど俺は資料を漁らせてもらうぜ」「構わぬ、探せ」


 まずは東洋と西洋の犯罪史、日本の科学捜査の技術力、警察機構の階級制度、法医学、懲役刑と再犯率の相関関係などを調べた。

 前に学園祭に向けて推理小説を書いていたため、それなりの知識はあった。だから復習もかねての勉強である。

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