表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月が綺麗ですね  作者: オリンポス
第5章 伊藤汐と刹那的な美学
54/87

54.敗北。その後…

 病気自体は大したことがなかった。

 点滴を受けてすこし寝たら治ったのだ。

 保護者にも一報を入れようかと担任の先生に訊かれたが、断った。

 見舞いに来た客は、鈴木翔太、松岡千歳、渡辺真理子、吉川愛、元文芸同好会会員だった。

 才介は、大切な学園祭を台無しにしてすまないとあやまったが、彼らはだれひとりとして怒らなかった。そのため余計に良心の呵責に苦しんだ。


 学校は数日間の休みをもらった。その間に新作の構想を練った。もはや小説を書くことは呼吸をするのと同義になっていた。

「悪いな、瓜生。勝負の行方をうやむやにしちまって。だけど言い訳をするつもりはねえ。不戦敗で俺の負けだ」

 昼休みの図書室で海外小説のハードカバーを読んでいる瓜生に、才介は叩頭(こうとう)した。

 この勝負に負けたらもう小説を書かない。そういう約束だった。

 その覚悟で挑んで負けたのだ。心中には部活動を引退するときの寂寥があったが、それも仕方のないことだろう。

 カチコチと秒針だけがときの流れを告げる。ふん、と瓜生は本から顔を上げた。


「その話は無効だ。勝負が成立しなかったんだからな」

「え」

「売り上げを競うことは間違いだった」

「いや、なにを言っている?」

「お前の小説、読ませてもらったよ」

「……そうか」

「まあ、悪い気はしなかった。バカなりにも必死に書いているのが伝わってきたしな」

「なんだと」


「そこで相談だ。文芸甲子園に興味はあるか?」

「文芸甲子園?」それはなんだと聞こうとして、遮られた。

「全国の高校生が文学で鎬を削る大会だ。小説だけじゃない。詩部門やエッセイ部門もある」

「興味、津々だ」

「そいつは重畳(ちょうじょう)。来年の一月初旬に本選がある。もしも俺と競い合うつもりなら、応募してみたらどうだ?」

「応募?」

「各都道府県ごとに地区予選があってな。そこで上位だった者が本選に招待される」

「あんたも、応募するのか?」

「俺の席は推薦枠ですでに決まっている。だから、勝負するもしないも、お前次第だ」

「もちろんやってやるよ」

「勇ましいな。締め切りまでもう時間がないぞ。せいぜいがっかりさせないでくれよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ