52.呉越同舟
学園祭が開催されるにさしあたって、将棋士の鈴木翔太の動向がひとつの分水嶺になった。
というのも、彼が水面下で動いてくれたおかげで、文芸同好会との戦力差が埋まりつつあるからだった。
まずは吉川愛の存在を知った鈴木は、会員の中から造反する意思のあるものを探し出して、才介側に付くように勧誘した。
初めは抵抗を見せていた彼らも、瓜生の圧政が厳しくなったのか、ちらほらと反体制派にくみするようになってきた。この背景には学園祭のみならず、文芸甲子園なるものの存在が大きく関わっていたのだが、それはともかくとして、文芸同好会の下っ端会員が仲間に加わってくれたのである。
それだけではない。不調の松岡千歳にも協力してもらうことが決定したのだ。これは才介の心の支えになるに違いなかった。鈴木の話を聞いた松岡はなにか策を練り始めたが、彼女にも腹案があるのかもしれない。
渡辺真理子の参入もこぎつけた。彼女は米寿の経営を手助けしてもらったと恩を感じているようだから、それを利用するかたちになった。
製本の作業にはおよそ一週間を要した。
放課後に印刷室を借りて、出来上がった校正刷りをチェックするのだが、思っていたよりも誤植が多くて、本のかたちにするだけでも大変であることを知った。本刷りを終えるころには学園祭は間近に迫っていた。
しかし、文章をいくら整えても表紙のデザイン画がなかなか決まらない。呉越同舟ではないが、そもそもがお互いの性格をよく知らない者同士だから、そこですこしもめた。意外にもまとめ役として機能してくれたのが吉川愛である。彼女が陣頭指揮を執ることによって分裂しかかった船をなんとか持ち直したのであった。
かくして学園祭は始まった。




