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月が綺麗ですね  作者: オリンポス
第5章 伊藤汐と刹那的な美学
51/87

51.三角関係

 不意に、人の気配がした。

 足音がした。

 参拝客だろうか。

「あれ、先輩」

 そのシルエットは背が低くて、ツインテールをしていた。

「なにしてるんですか? こんなところで」

 吉川愛だった。なんでこんなところにと思ったが、夏祭りの存在を教えてくれたのは彼女だった。

 まずいことになった。傍からすれば三角関係だ。


「ちょうど都合がついたから、息抜きにさ」

「待ってたんですよ。ずっと、ひとりで」

 スマートフォンを握りしめる吉川の右手は震えていた。

 彼女が今、何色の浴衣を着ているとか、そんなことは気にならない。

 才介はこの状況を打開することだけに脳の回転を費やしていた。

 この修羅場は小説のネタになりそうだが、実際に経験してみると胃がきりきりと痛むだけで、ちっとも面白くない。


「ごめん。書き上げたときには日が暮れていて、それから電話するのも忍びないかなって」

 月の化身には吉川愛のことは話していた。

 だからといって油断はならない。双方から口撃されないとも限らない。


「電話じゃなくても、連絡手段はあるじゃないですか?」

 吉川の怒りは収まらない。

「その女の子はだれですか? 私、聞いていませんよ」

 謎の彼女目線で、吉川は2房の髪を揺らした。

「私ですか?」

 そう月の化身、伊藤汐が応じる。

「私は妹です。だよね、お兄ちゃん」

「え?」

 才介が戸惑っていると、浴衣姿の伊藤汐はウインクをした。

 女の浮気はバレにくいというが、なるほど、女はみんな女優だ。


「ああ、その通りだ。すこし行き詰まって、息が詰まっていたから、水入らずの時間を過ごしていたんだ」

「そう、なんですね。なんだか釈然としませんが、まあ、いいです」

「お兄ちゃん、見てみて。すごく綺麗」

 才介の肩をバシバシ叩いて、月の化身は斜め上の夜空を指した。

 火薬弾が連続して打ち上がって、花を開かせるさまは壮観だった。


「本当に綺麗だ」

「そうですね。本当に綺麗です」

 なぞるように吉川は言って、

「今回のことは不問に付します。だから先輩、学園祭まで突っ走りましょうね」

 彼女は満開の笑顔を咲かせた。それは花火と同じくらい綺麗だった。

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