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月が綺麗ですね  作者: オリンポス
第4章 瓜生安吾の独裁政権
40/87

40.吉川愛の評価

 うーん、と吉川が伸びをした。

 才介も推理小説の指南書を片手に、どうにかこうにか、骨組みだけは完成させることが出来た。

 借りてきた本をもとの書棚に戻す。出来栄えはまあまあいいはずだった。


「ねえ先輩。はかどりましたか?」

「まあ、そこそこ書けたかな」

「先輩の小説ってどんな感じなんですか? ちょっと読ませてほしいです」

 階段を下りていると、吉川はえくぼの顔でちらりと見た。


 才介の胸中では、読んでほしい衝動と非難される恐怖がせめぎ合ったが、これからは執筆アドバイザーとして頼っていく手前、見せないというわけにもいかなかった。


「いいけど、閲覧席で読めよ」

 そうスクールバッグからルーズリーフを取り出す。

 才介は手書き用の原稿と、パソコン用の原稿では、その内容を微妙に変えていた。

 手書きでは漢字表記が難儀になるためひらがなを多用しており、パソコン書きでは難読漢字もちらほら入れるようにしていた。


 今回はライトな文体だから、高校生でも読みやすいはずだった。

 どれどれと偉そうに席に着いた彼女は、たちまちに苦言を呈した。

「漢字表記が多すぎです。これは漢文ですか?」

 才介が唇の前で指を立てるしぐさをすると、吉川はぶるぶると震えた。

 寒さではなく、怒りが原因だろう。はあ、とため息を吐いている。


「とにかくです。これでは硬すぎます」

「おかしいな」

「対象年齢はいくつを意識されてますか?」

「若者の活字離れが深刻だから、読者層は()()()に絞っている」

「だからですよ。それならこうしましょう」

 彼女はひとつため息をこぼしてから、

「ブログを開設するんです」

「ブログかよ」

「短い言語で表現するSNSも大事ですが、どちらかといえばブログの方が長文に向いていますし、小説を載せることだって出来ます」

「なんだって?」

 才介の目が光を帯び始めた。小説という単語が心をつかんだのだ。


「ブログは毎日更新していればファンがつきます。共通の趣味を持った友達だって出来ますよ」

「でも、なにを書けばいいんだ?」

「基本的には日記を書いていればいいです。賛否ありますが、ブログをやっていれば筆力も向上するそうです」

「そうなのか」


「果たしてこの文章が若い世代に受けるのかどうか。あまり時間がないので早く試してみましょうよ」

 才介はこれまで、『読者』を意識してはいたが、『読者層』は想定の範囲外だった。

 読者は月の化身しかいなかったのだ。そこまで思慮を巡らせるのはいくらなんでも酷というものだろう。

 先程の中高年に狙いを絞ったという発言も、実は真っ赤な嘘だったのだが、これが評価されるかはまるで未知数だと才介は思っていた。

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