24.久闊を叙する
『お久しぶり。明日また会えるか?』
才介がそう全国の暇人とチャットが出来るアプリで、月の化身にメッセージを送ったのは、実家に到着してからだった。ベッドで横になりながらぼんやりと送信ボタンを押す。
彼女に出された宿題(ケータイのアプリと市販のゲームソフトでは、どちらが利益になると思うか。また、どのようにしてその商品をアプローチしていくか)については、明確な答えは出ていない。手軽さではアプリに軍配が上がるし、重厚さではゲームソフトに強みがあるということしか言えない。
おそらくこの問いに正解はないのだろう。自由な発想力を鍛えさせるために設問しているのだ。どのように考えたかという結果ではなく、どのように考えるかという過程が重視されているのならば、マーケティングに置き換えた思考実験なのかもしれない。
才介は、考える。
どちらが利益になるか。オンラインとオフラインの違い。インターネット回線の普及。Wi-Fiスポットの増加。課金と無課金。
既存のゲームソフトでもオンライン対戦は一般的だ。ポータブルゲーム機もあるから、ケータイアプリの利便性は必ずしも有利に働いているわけではないだろう。
思考が円の周辺をぐるぐる回っているだけで、いつまで経っても出口が見えてこない。
正解がないのだと仮定しても、この堂々巡りには意味があるのかと不安になってくる。
スマートフォンがバイブレーションするのを感じて、才介は我に返った。
『ごめんなさい。これから一週間くらい用事があるのです。また会える日を楽しみにしております』
才介は溜め息を吐いてから照明を落とした。
「経済の勉強をしろってことかな」
一週間後。それは『歌ってみた』のオーディション結果が発表される時期とほとんど一緒だ。そのときには笑っていられるだろうか。




