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月が綺麗ですね  作者: オリンポス
第2章 松岡千歳のオーディション
19/87

19.甲乙丙丁の才能

「まじでだりーな。するめイカ食べよう」

 金髪の美女が、妙におっさんくさいセリフを吐きながら収録室から出てきた。

 メイド服を着ていて、頭には白のカチューシャ、足元は二―ソックスという格好だった。

 カラーコンタクトなのか国籍によるものなのか青い目をしていて、アニメのキャラクターが現実世界に出てきたような違和感が生じている。


 腕に抱えたするめイカの袋やその言葉遣いは、端麗な容姿と比べるとなんともミスマッチである。


「あんたが甲乙丙丁か。拝聴させてもらったが」

 才介は礼を言おうと彼女を呼び止めた。

「いい曲だったな。感動したぜ」

「おお、そうか……」

 メイドは豪快にするめイカを食いちぎりながら、鼻の穴をほじくった。

 そして才介に向き直って、

「悪い、食事中だったから淡白な反応になった」

 そう長々とゲップを吐き出す。すごい肺活量である。


 才介だけでなく松岡も、目の前のメイドに圧倒されていた。ここまで下品なメイドがいるとは予想外だった。


「うわ、きったねーな」

 翻弄されてばかりもいられない。才介はとりあえずののしってみた。

「ああ、失敬した」

 見た目だけでなく、声にいたるまでかわいい彼女は、爪楊枝で歯間をほじくり始めた。

 どこまでも不思議な少女だ。それもあまり関わりたくないタイプではあるが。


「あんた、『歌ってみた』では新人なんだよな」

「うむ。いかにもそうだが」

「声優とかやっているのか? 声のバリエーションといい、曲のクオリティーといい、新人とは思えない」

「身に余る褒め言葉だな。私は無職の専門学生だよ」


「声楽とかやっているんですか?」

 松岡が割って入ってきた。

 人間性はともかく、この競争相手は無視出来ないと判断したのだろう。


「声楽? 私はボイトレなんかしたことがないぞ。のどを痛めるかもしれないからな」

「本当に何もしてないんですか?」

 幽霊に出会ってもこんな顔はしないだろう。そう思える程に、松岡は驚愕の表情を浮かべていた。

「する必要がないと言うべきかな。練習せずとも大抵の曲は耳コピでなんとかなる。歌だけではなく、ピアノも得意だぞ」


 刹那とは正反対の人種。いわゆる天才というやつだ。

 練習する必要がないとは傲慢でも慢心でもなく真実なのであろう。

 才介と松岡は暴力的な才能を目の当たりにしてしまった。


「オーディションの末席を汚すことが出来て光栄だったよ。ではしばらく」

 相変わらずのおっさんくさい口調で、メイドの金髪美女はエレベータに乗り込んでしまった。

 二人はしばらくポカンとしていたが、ふっと我に返り待合室に入った。

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