1.最年少芥川賞作家
長編の青春エンタメ小説です!
夢を持って努力してる人、
夢を模索して頑張ってる人、
夢を持てずに悩んでる人には、
ぜひとも読んでほしい内容です!
テレビ中継では芥川賞・直木賞の贈呈式の様子が、繰り返し放送されていた。
金屏風の前に立って話す受賞者の表情はどこかぎこちなく、たどたどしいスピーチを披露していた。
カメラを向けられると、彼らは一様に笑顔を浮かべた。
「またこれかよ、くだらねえ」
鮭の切り身を箸でほぐしながら、村上才介はそうぼやいた。
誰もいない空間に、自分の声だけがむなしく響く。
父親は単身赴任で、兄は県外に就職していた。母親はいない。
「くだらねえよ、全く」
カメラが贈呈式会場からスタジオに切り替わる。
ニュースキャスターやコメンテーターは神妙な面持ちでこちらを見つめていた。
画面の右上には芥川賞最年少受賞者(16)がまさかの欠席! とある。
「そうですね。年齢から推測すると高校生ですよね。物事の思慮分別はついていると思いますよ。その上で、自分は芥川龍之介よりも大物なんだと誇示したかったのかもしれません」
心理学者がそのように語ると、
「それはまさしく噴飯物ですわ!」
芥川賞作家のN氏はでっぷりした腹をさすって失笑する。
「あのような稚拙な小説を純文学とは認めません。僕は選考委員会で最後まで反対しました」
ほほうと感心した声を上げる司会者。今度は文芸評論家へと水を向ける。
頭の禿げあがった中年男性は大げさに溜め息を吐いて、
「過去にも(芥川賞を)もらっといてやる発言で物議をかもした作家がいます。贈呈式はそのような場であってはならないと私は思います。作家としての個性をアピールするのは小説の中だけで十分です。こういったモラルの欠如、軽率な言動は、小説家としての品位を貶めるだけではなく、先達への冒とくでもあります。メディアへの露出を拒否する気持ちはわかりますが、納得のいく釈明を要求したいと、このように思っております」
白いご飯に塩味の鮭を乗せて食べる。ほどよい脂身が口の中で溶けた。
それと同時に、胸の奥でわだかまりのようなものがつかえている気がした。
ニュースの俎上に上がっている人物は、才介よりも年下だ。
若い芸術家が早くも世間に出て、孤軍奮闘している。
それに比べて俺は、これまでの人生で何かを残してこれただろうか。そう思うと情けなくなってしまうのだ。
「くだらねえな」
ただならぬ焦燥に身を焼かれる。なぜここまで焦っているのか、自分でもわからない。
ひたすらご飯を掻き込む。咀嚼もせずにそのまま飲み込む。
それでも溜飲は一向に下がらず、意識の表層に沈殿していたはずのもやが肥大化していくのを感じていた。