旅行~ロンドン②
日本が舞台のときは「」が日本語、『』が英語、
イギリスが舞台のときは「」が英語、『』が日本語
と分けています。
夜はキャッツを観る為に出掛けた。早めに晩御飯をフィッシュ&チップスで済ませ、劇場へ行った。
全部歌やセリフは英語だが、こういう時は「好きこそものの上手なれ」で、所謂「根性」で「集中」して歌を聞いていく。およそ6~7割理解したとみのり自身は思うが、本来のみのりの英語力からすれば驚異的な理解力だった。
「もっと真面目に英語を勉強すればいいのに」と仲良しで英語科卒業の沙知絵に何度も言われたが、確かに本気出せば…と端から見ても思える。
さて…日本と同じような治安のロンドンだが、たまには良くない連中もいる。そこは日本も同じである。
「日本人形みたいだ」
20代後半から30歳位の酔っぱらいが、劇場を出てB&Bへ戻ろうとするみのりの腕を掴んだ。
「何するの?!」
みのりは恐怖を感じた。日本ならなんとかうまくスルー出来るが、いかんせんこの語学力では。
「付き合えよー。いいだろうー?」
「おいおい、お前だけのものにするのかよ」
「最初に目をつけたんだぜ、俺のだ」
185~190cmはあろうかという3人組の1人が腕を掴んで離さない。162cmのみのりは小さな女の子と同じである。離そうともがいても力ではかなわない。
「いや!離して」
「いいだろう~冷たくするなよ~」
「いや!」
ただでさえ英語が苦手なのに、来て2日目でこんな目に遇うとは。
腕を掴んだ茶色い髪の男がみのりの腕を引っ張り、抱き寄せようとした。両手でこんな男に抱かれるまいと必死で抵抗するみのり。
「何してるんだ!」
みのりの手を掴む男の手首の骨部分をギュッと挟むように握力を注ぐ手が現れた。
みのりは離れることが出来た。
手首を掴んだ40代の男は紳士然としていて、茶色の髪の腕を掴んだ男を睨み付けた。
「何するんだ、俺が先に目をつけたんだぜ!」
腕を掴んだ酔っぱらいは紳士を突いた。
「か弱い女性が嫌がっているのに無理矢理そういうことをするのはダメだろう!」
「なんだと!」
「なにカッコつけてんだ!」
3人と紳士が一触即発になったその時、警官がやって来た。
「何をしている!」
3人は慌てて向こうへ走るように逃げた。
「何をしてたんだ」
詰問口調で紳士に問う警官。
「あの男の人が私の腕を掴み…この方が助けてくれました」
みのりがきっぱりと警官へ言った。
「君は?」
「昨日日本から来ました。キャッツを観て帰ろうとしたら、突然『えっと…』あの男の人が私の腕を掴みました」
「観光客?」
「はい。ミュージカルを観に来ました」
真面目そうな日本人観光客のみのりを見て、警官はフム…と言った。
「貴方が助けたんですな。それは失礼した。お嬢さん、もう遅いから早くホテルに帰りなさい。気をつけてな」
「はい」
みのりは紳士にお礼を行って地下鉄の駅へと向かおうとした。すると紳士は「駅まで一緒に行こう」と声をかけて来た。
上質な服を着た薄い茶色で金髪に近い髪の男性は、優しい緑の瞳で親切心から言ってくれているようだった。みのりは素直にはいと言い、駅まで一緒に歩いた。
紳士はアーサーと名乗った。ウェールズに家があるが、仕事でロンドンに来ていると言う。みのりが一人でキングスクロスのB&Bに泊まっていると話したところ、食事が一人では大変じゃないか?とアーサーは言った。
「日本では1人で食べるのは大丈夫ですが、ロンドンでは少しハードです」
たどたどしいながらも、優しいアーサーの雰囲気に救われ、みのりは一生懸命話した。
「明日の晩御飯は一緒に食べないか?僕も一人だからなかなかレストランで居心地よく食べられなくてね。ついホテルのご飯になってしまう」
みのりは一瞬躊躇した。
アーサーはみのりの警戒心を見て微笑んだ。
「うん、いいね。それくらい警戒しないと女の子の一人旅はダメだよ」
みのりはビックリした。この人…いい人かも?と思った。
「明日は何を観るの?」
「明日はオペラ座の怪人を観ます」
「7時からかな?」
「はい」
「じゃあちょっと早いけど5時半に劇場近くのレストランへ入ってご飯を食べて別れたら丁度いいんじゃないかな。それなら安心だろう?」
「あなたはそれで大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。明日の仕事は3時に終わるんだ」
「『じゃあ…』オッケーです」
「よし、じゃあ…劇場前に5時半待ち合わせ…ということで!」
丁度駅の改札に着いたので、みのりはもう一度御礼を言い、アーサーと別れた。