俺のフィアット返せ!
「なんだこれ・・・」
俺は蒼白で突っ立っていた。
バイト三昧で貯めた貯金で買ったフィアット。昨日納車だったのに、今朝になって、なんか全くべつの物体にすりかわっていた。
「俺のフィアット~」
「あれはフィアットという乗り物なんですか?」
「そうだよ。ていうかお前誰?」
「ワンダラー星の王子ワンダユー様の家来です」
「チャウチャウ?」
「チャウチャウじゃありません」
どう見ても犬のそいつは流暢な日本語を話していた。
「フィアットは?」
「ワンダユー様が運転中でございます」
「どろぼー!」
「なにをおっしゃいます!ただほんのちょっとお借りしているだけ」
「けーさつ!」
「やめてください」
どがしゃーん。
ガレージのシャッターを突き破って、黄色い車体が飛び込んできた。
ばたん。
ドアを乱暴にしめておりてきたのはパグに似た生物だった。
「いまいちうまく操れん。誰か運転手をさがせ」
「ははー」
チャウチャウは俺の背中を押した。
「なんで俺が?」
「いいからいいから」
あーあー、車体にキズが!
「これどうしてくれるんだよ」
ちょちょいのちょいっと。
なんか不思議な光線で車がキズ一つなくなってしまった。
「ほれ、はよう運転せんか」
パグが助手席に乗り込んでいる。
「運転して、気がすんだら俺のフィアット返してくれるんだろうな?」
「もちろんです」
チャウチャウが太鼓判を押した。
「おお、そうやって操るのか?」
パグがおおはしゃぎでろくに景色も見ずに俺の運転を観察していた。
「満足した。帰る」
小一時間近所を回ったらパグがそう言ったので、ガレージに戻った。
あのへんてこりんな機械に乗って、パグとチャウチャウが空中に浮かんだ。
「また来る」
「もう来んな!」
一瞬後にはワンダラー星の王子たちははるか彼方に飛び去っていた。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「犬飼ったよ」
「・・・」
「パグとチャウチャウ」
「なんでだー」
「あのねー、ビックリしたの。子犬売り場でテレパシー?で話しかけてきたの」
「なんて?」
「お宅に住みたいので飼ってくださいって」
犬共は俺の顔をべろんべろんなめ回した。
「お兄ちゃん、好かれてるね!」
「誰がじゃ」
「学校終わったから迎えに来て」
「うん」
ガレージに向かうと、忽然とフィアットが消えていた。
あいつら、俺のフィアット乗り回してやがる!
困るんだよ!俺のフィアット返せ!
今後も苦難は続きそうだ・・・。