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84話 ナイトという男

『サーヤ。準備はいいか。』

『大丈夫。出来てる。』

『作戦は5日後決行する。』

『分かった。』


ザラキからの通信が切れる。

さて、私も準備しないと。


**************


「ナイト様。睡眠は取らないとだめですよ。」

「前の世界じゃ1週間寝ない...寝れないこともあったくらいだ。1日くらい寝なくても問題ない。」

「それでもです。夫の体調管理も嫁の立派な仕事です。」


そう言ってミミは手にぶら下げていたバスケットを風呂敷の上に置いた。


俺は昨日、作戦会議をしてからずっと起きて警戒にあたっていた。

カトレアも途中までは一緒にいたが眠気に襲われていたようだったから部屋に戻した。


俺が睡魔に負けて倒れた時に最戦力になるのはカトレアだ。

なら、常に万全にしておきたい。



「これは?」

「朝ごはんのサンドイッチです。ナイト様朝からなにも食べてないでしょう?」

「うんまぁ。」

「では、これ食べてしっかり寝てください。」


と言ってももう日が昇って数時間経っている。


それでもまぁ、ミミがここまでしてくれてるんだ。

厚意は素直に受け取るもんだ。


俺はバスケットの中のサンドイッチを食べた。


疲労を感じていなかった体が食べ物を入れたためようやく疲れを自覚し始めた。


葉野菜のシャキシャキとベーコンの塩加減、卵の甘さで腹が満たされていく。


「ごちそうさまでした。」

「お粗末さまでした。」


サンドイッチを全て平らげる頃には睡魔が押し寄せてきていた。


深夜ずっとカトレア達を起こさない程度に気配を出さなければならない。

そうでもしないと神々の眷属は屋敷の周りに張ってある結界など簡単に壊してしまう。


だから、眷属が来てもいいようにずっと起きていた。


「悪い。ちょっと寝る。」


腹が膨れたら眠くなっきてしまった。


「おやすみなさい。ナイト様。」


ミミの言葉を最後に俺は眠りについた。



「ミミ。ナイトは?」


私は人差し指を唇にあてシーっとやった。

シェリー様もそれに気づいて小声になった。


「こうして寝てると可愛いんだけどね。」

「そうですね、1度起きれば怖いもの知らずで」

「自分の欲には忠実で」


「「それがかっこいいんですが」だけど。」


私とシェリー様はクスクスと笑った。


「こんな小さい身体でどんだけ戦ってきたんだろうね。身体中傷だらけにしてさ。」

「数え切れない程だと思いますよ。けど、その戦いは全て誰かの為の戦いであったのだと思います。」

「私もそう思うわ。少なくともこの世界に来てから、『殺したいから殺す』てことはなかったもん。」


ナイト様は常に誰かの為に戦っている。

本人は全く不満を口にはしない。


たまにはそういうのも聞いてみたい。

ナイト様は冒険者ではない方からの依頼をよく受けている。

その依頼達成率は当然の如く100%


ナイト様にこなせない依頼はないと言っても過言ではないほど優秀な方です。


しかし、優秀が故に疲れに気づかないのです。

それがいつしか溜まり倒れる。


「ナイトは自分の疲れには真剣に向き合わないから。」

「前にも1回あったよね。急な依頼が5こくらいはいって徹夜で王国中を駆け回ってたの。」

「結局、その依頼を全てこなしたあと玄関で倒れてましたよね。」

「そうそう。髪はボサボサだし肌には土とか血とかついてるし。」


「本当に世話のかかるご主人様です。」


今までお仕えしてきたご主人様でもここまで手はかからなかった。


精々、自堕落過ぎて大変と思ったくらい。

それなのに、今のご主人様は心配で仕方ない。


いつ倒れてもおかしくないくらいまで身体を酷使して物事にあたる。

結果ハッピーエンドであれば酷使したことなど忘れてしまう。

バットエンドであれば自分の動きが足りなかったと自分を責める。


多分、ナイト様はそういう人なのだと思う。


「ミミは最初ナイトに会った時にどう思った?」


シェリー様から聞かれたのはナイト様と出会った時のこと。

お互いをまだ知らない頃の私とナイト様。


「そうですね、変な人と思いましたね。」

「ほんとに?」

「だって、この世界のことについて全く知らないのに他のことについては私より物知りなんですよ?」

「確かに、記憶喪失のふりをするには下手くそね。」


私がそう思うのも無理はないのです。


「けど、いい人だなとはその時思いましたよ。」

「人を殺してすぐなのに?」

「すぐ、だからです。追われていると言うことは面倒事になるかも知れません。それなのにナイト様は『好きにしろ』と言ってくれたんですよ?この人ならって思うじゃないですか。」

「窮地を助けてくれた白馬の王子様?」

「そうです。私にとってナイト様は王子様なのです。」


あの場でナイト様が助けに来てくれなければ私は今この場にいない。

あの男の斧によって縦に斬られていた。


「そういうシェリー様はどうなんですか?」


仕返し...コホン。お返しに聞いてみた。


「私はその...宣戦布告しちゃったから。」


そうでした。シェリー様はナイト様に『新入りが付け上がらないで』的なことをいっていたらしい。


「あの時の私を殴りに行きたい。もし、ナイトがカチンときてやり合ってたら死んでたもんね。」


見た目ではハッキリとは分からない強さ。

まだシアちゃんに会う前の時、ギルドで冒険者の方に絡まれているのを見たことがある。

1回殴って大人しくさせたみたいでしたが。


「私は最初、生意気な後輩って程度に思ってたわね。見た目はそれでも充分通ったから。」

「なるほど、ナイト様を下に見ていたと。」

「違うの!私も焦ってたのよ。同期は早々にユニオン組んじゃって、パーティで活動。それなのに、私はこの性格のせいで1人。」

「1人だといけるクエストも限られてくるからレベルも上がらないしお金も集まらない。1番良くて元々カップル用のクエスト。」

「このまま意味の無い人生を送るなら男に襲われてもいいから報酬がいいクエストを選んだ。その相手がたまたま、喧嘩を売ったばかりのナイトだったてわけ。」


何となく想像がつきます。

喧嘩を売った側と売られた側で二人きりで洞窟探索。

さぞ、きまずかったでしょう。


「ナイトに喧嘩を売ってはいけない。(戒め)」


ただの挑発ならナイト様もそこまで本気にはしないでしょうがもし、それで私達が巻き込まれるようなことがあればナイト様は怒ってその人を殺してしまうでしょう。


「ホント無頓着で無気力で人の為に動くのが好きなやつだよね。」

「そうですね。」


私はそっとナイト様の頭を撫でた。

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