短編、第五の仲間 ララ
はじめまして、ナイトさんの婚約者、ララ・アルベールと申します。
普段はナイトさんの元で花嫁修業をしております。
それでいて冒険者でもあります。
父からは止められましたがナイトさんがいるから大丈夫と言ってなんとか納得して貰いました。
武器は、槍など長いものですね。
ココさんからいただいたトリシューラはすごく軽くて女の子に優しい設計でした。
しかも、槍先が二又に分かれていてその間から黄魔法がでる仕組みになっていたんです。
私には黄色属性の適性はありませんが武器に付与された[雷神]のスキルにより私にも黄魔法が使えるようになれたのです。
ココさんには感謝しかありません。
さて、私の自己紹介はこのくらいにして私もナイトさんとの思い出を話そうかと思います。
あれは、まだ出会って間もない頃。
暇をしていた私は兵士の訓練の様子を見に行くことにした。
屋敷の敷地内にある道場で行われている訓練。
女王陛下率いる騎士団にはかなわないが父の訓練もありそこそこの練度にはなっている。
いつもなら、道場に近づくにつれ大きくなる掛け声。
しかし、今日に限っては声が聞こえなかった。
一体何をしているのか中を覗いてみるといたのは数名の兵士と1人の男。
他にも数名周りに伸びていることから恐らくナイトさんが1人でやったんだろうと私は考えた。
私はあの時、無茶振りをナイトさんに要求した。
『街に迫るドラゴンを倒して欲しい。』
と。
普通の冒険者ならまず断る。
実際、アルベスタのギルドが出した答えは被害を最小限に抑えるための『防御』だった。
誰もドラゴンと戦おうとしなかったのだ。
しかし、彼だけは戦おうとした。
仲間から止められたりしていたが彼はやめなかった。
それどころか、勝つ自信しかないようだった。
モンスターフェスを止めた彼ならやってくれるのではないかと私も期待した。
そして、彼は見事ドラゴンを倒して五体満足で帰ってきた。
戦闘による怪我はなし。
魔力切れで疲弊している様子もなかった。
その日から私はナイトさんを好きになってしまった。
有言実行と言うのだろうか?
適当に物事を考えて適当に成功させてしまうナイトさんがかなり気に入った。
だから、結婚を申し出たし断られても諦めず婚約にまで持ち込むことが出来た。
そして、父の私兵と今現在訓練しているが話しかけようにも話題がない。
婚約を交わしたと言っても所詮は初対面。
話す話題は探せばあるのだろうがそれが思い浮かばない。
私は道場の入口でオロオロしていたと思う。
何を話せばいいのかそればかり考えていた。
「さっきからそこで何してんの?」
後から聞こえてきた声。
それがナイトさんの声であることはすぐに分かった。
「いえ、なんでもな…」
振り返った私が見たのは上半身裸で首からタオルを引っ掛けたナイトさんだった。
引き締まった体にある数えきれない程の傷。
大きさは色々あるがそれが戦いで付いた傷だというのは処置の仕方で分かった。
雑に繋がった傷。
処置の仕方は傷に酒をかけて感覚を麻痺させ焼き石などで傷を焼いて無理やり皮膚をくっつけるといってもの。
正直、丁寧とは言い難い。
しかし、彼がそれくらいの戦いをしていた証拠でもある。
「どうした?難しい顔して。」
「いえ、なんでもないです。道場から声がしたので立ち寄っただけです。」
彼の過去は気になるが詮索されたくないことだってあるだろうと私は浮かんだ疑問を飲み込んだ。
「丁度いいや。ちょっとだけ見てくれないか?主の娘が来てるとなれば兵の指揮だって上がるだろうよ。」
「そういうことなら見させていただきます。」
訓練の仕方はナイトさん1人に対し兵士5人で挑む組手方式だった。
組んだ5人はそれぞれの陣形、戦術、連携でナイトさんを息切れさせることが出来たら勝ちというものだった。
道場のため、攻撃系の魔法は禁止。
身体強化系の魔法のみ使用可となっていた。
私が見ていることにより兵の指揮は上がり勝った組には私の手料理を振る舞うと言うともっと指揮が上がる。
「さすがギッシュの娘。抜け目がない。」
「自分の兵を労ることも主君の役目です♪」
組手が始まるとそれは、物凄いものだった。
魔法使い1人、弓兵1人、盾役1人、剣士2人の組に対しナイトさんは先に剣士を倒すのではなく先に魔法使いを倒した。
その次に弓兵、盾役、剣士の順に昏倒させていった。
「おおおお!」
周りの兵から感嘆の声が上がる。
「ナイトさん?どうしてああいう倒し方をしたんですか?」
「それは、いくら剣士とやり合っても後ろで回復されちゃイタチごっこなんだよ。一撃で倒せるならいいが盾役がいたのでは厳しいんでな。だから、後衛から先に倒したんだ。」
あの一瞬でそれを考えたんだ。
ナイトさんは、相手の陣形を見るなり持ち前の経験と身体能力でどうやって陣形を崩すか考えたのだ。
さっきの傷から察するにこれを何十回、何百回と繰り返したのだろう。
それだけに、ナイトさんの過去が気になった。
それから訓練が進み、ナイトさんに勝てた組は1組もなかった。
当たり前と言えばそうなのでしょう。
彼はドラゴンを単騎で倒したアルベスタでの英雄。
それがたった5人に倒されたのではあまりにも呆気なさ過ぎる。
兵士からは、残念がる声が聞こえてきた。
「みなさーん!ぞろぞろお昼にしましょう。」
私はメイドさんと作ったおにぎりを出した。
近くにメイドさん達を控えさせ私の声を合図に持って来させた。
「うおぉぉぉよっしゃー!!」
兵士の皆さんは訓練で疲れた体をおにぎりで回復させようとおにぎりにかぶついている。
「まさかのサプライズとは策士だな。」
「ナイトさんもどうぞ。」
私が差し出したおにぎりをナイトさんは受け取らずに食べた。
私の顔が一気に紅くなったのが分かる。
「うん。うまい。」
しかし、彼は気づいていない様子。
「ナイトさん。こ、これは、少しは、恥ずかしいと思います。」
「ん?いや、手汚れてるから。」
兵士の皆さんからは、煽りの声が聞こえてきた。
という私が恥ずかし目に合った時の出来事でした。
この時からナイトさんは、鈍感でかっこよかったんですね。




