82話 目的と不安
シェリーに尋問された後俺はベリアルの部屋に来ていた。
「会談ご苦労だったなナイト。」
「お蔭さまで疲れたよ。」
「まぁまぁこれで神とも戦いやすくなったのだ勝率を上げるためには致し方ないことだ。」
なら、ベリアル自身が動けばいいと思うのは俺だけだろうか?
「で、ナイトが連れているその者はなんだ?新しい嫁か?」
「ハハハ。こいつが嫁?冗談じゃない。」
「うむ。何があったかは聞かん。さっきまで聞こえてたからな。」
あれだけ大声で怒られればそりゃそうか。
シェリー以外がクエストに行っていただけまだましだったと考えよう、そうしよう。
「こいつはヒスイ。アンドロイドだ。」
「お初にお目にかかります。ご紹介に与りましたヒスイと申します。正式名は、試作品αー256機体名ヒスイとなっております。」
「名前はまだないとか言ってなかったっけ?」
「機体名は、あくまで管理番号です。名前ではありません。」
あー。
在庫がなんこあるか確認しやすくしたような感じか?
アンドロイドのことはさっぱりだ。
「戦争に参加する理由は?」
「ありません。」
「ない?」
「あー。これは、俺から説明しよう。」
俺はヒスイ達は単にロボットでなにか目的があって動くものでは無いと説明した。
「そうか。シロの簡略式と言うわけか。」
さすがアレを作っただけはあるな。
理解が早い。
「シロとは誰のことですか?」
「変態」
「酷い言い草だな。」
いや、アイツが俺にしたことよりかは遥かにマシだ。
「シロは私が創り出したアンドロイドだ。さしずめヒスイ達と同じということだ。」
「私達より高性能なのですか?」
「頭以外はな。」
アイツの頭は煩悩の塊だ。
生殖期真っ只中の獣ですらもう少しマシだ。
「アイツの頭は煩悩まみれだ...あー。お前もそうだったな。」
そうだったわ。こいつも同じことしたんだっけ。
今さっき。
「私を呼びましたか?」
「うお!」
いつの間にか俺の背後にはシロが立っていた。
「気配を消すな。ちゃんと入ってこい。」
「では、焦点ブレブレでヨダレ垂らしながら入ってきますね。」
「そのまま精神病院か監獄にぶち込んでやるよ。」
「『俺のモノ』をぶち込んでやるなんて卑猥です。」
「卑猥なのはお前の頭だ!」
もうヤダ。
なんで毎回こいつと漫才しなきゃならんのだ。
「通りかかったら私の名前が聞こえて来たのですがなにか用だったのでしょうか?」
「いや、なに、そこのヒスイに紹介していただけだ。」
「そうですか...。」
「.........」
「.........」
「ナイトさまは?」
「ケダモノです。」
ガシッ。
シロとヒスイは固く握手した。
なんだこれ。
なんの合図だよ。
「仲が良くていいではないか。」
「確認する度に俺の名誉がガリガリ削られてるんだが。」
「男だろ。」
限度がある。
男でも精神的な攻撃は防ぎきれない。
友情を確かめた変態達は満足そうだった。
ベリアルの部屋をあとにした俺は自室に戻ってベットへ飛び込んだ。
ほんとに変態共の相手は疲れる。
あのフェルテンでさえ睨めば黙ったのに、あの2人は恐怖という感情がないため睨んでも黙らない。
そこが厄介で初めてのことだった。
俺が睨めば大体の人間は黙る。
心臓が弱いやつなら殺せるとまで言われた俺の睨みがまったく効いていない。
それどころか、「その目で見られるとゾクゾクします。」とか「私的にはご褒美です。」などと変態発言を繰り返す。
アンドロイドのくせに学習能力が皆無な2人。
非常に疲れる。
しかし、それを楽しんでいる自分もいる。
心のどこかで良いと思っている。
「そこでなにしてんだよ。」
扉付近で[反響]スキルに反応があった。
「夜這いの練習です。」
「今は真昼間だぞ。」
「だから、練習です。」
「なぁ、お前はこの世界に生まれて良かったか?」
「いきなりですね。」
「昔に戦ったアンドロイドはただ人を殺すためだけに作られた存在だった。それなのに、お前は人を傷つけるどころか守ろうとしている。」
「先程の答えは、良かったです。そして、2つ目の答えは、そもそもの目的の違いです。」
「目的の違い?」
「はい。ナイトさまが交戦したアンドロイド達は『殺すこと』を目的に作られたのだと思います。しかし、私は違います。」
「私はあくまでベリアル様の『サポート』のために作られました。私も殺すために作られれば先のアンドロイド達と同じ末路を辿るでしょう。けど、私はこうしてナイトさまと話している。これが答えではないでしょうか。」
少し考えれば分かる答えだった。
目的の違い。
前の世界だって、数えきれない程あったじゃないか。
利害が一致したから共闘、なんてこともあったり、少しの目的の違いで仲間がバラバラになったりとそんなこと日常茶飯事だったはずなのに…。
「ナイトさまは不安なのですね。」
「不安?」
「私には感情を感じ取る機能が実装されています。それで分かったことです。」
「恐らく、ナイトさまは神との戦いに不安を感じています。その不安の種は、ミミさん達を守りきれるかということと、自分が死なないかということです。」
「俺は常に自身たっぷりだぞ?不安になったところで結果は変わらない。なら、常に楽しまなきゃ損だろ?」
「.............」
「はぁ。不安になってるのは事実だ。」
感情が見えるなら嘘は通じないか。
「そりゃ。不安にもなるさ。全盛期真っ只中というなら話は別だが今は違う。衰えて神の権能すら使えない始末。頼りになるのは元の...人間としての俺の強さ。いくら、仲間がいると言ってもこればかりは心配でな。」
「私はナイトさまをそこまで知りません。変態というところくらいです。」
今すぐお前をモンスターの巣に放り込みたい。
「しかし、本来の力が出ないというのはなにかしらの鍵がかかっていると思われます。解錠の仕方はわかりませんがなにかしらあるはずです」。
鍵がかかっている、解錠する。
まったく心当たりがない。
俺の能力を封じる魔法をかけられた覚えはないしそもそも俺の能力でそんなことは不可能だ。
「その鍵は単なる封印とはわけが違います。ナイトさま自身の自己暗示です。力を使わないように深層意識で封じているのです。」
それなら、納得。
それでも、心当たりはないが深層意識なら今悩んだところでどうしようもない。
俺が本当に使うと思った時に使えるようになるか。
「なんか、シロに弱い所を見せるのは癪だな。」
「弱気なナイトさまも中々良かったですよ。おっとヨダレが。」
「黙れ変態。あとヨダレを拭け」
「けど、まぁ、ありがとうな。」
「ナイトさまがツンデレに.....。」
「お前....。」
ほんとこいつってどこでそんな言葉覚えて来るんだろうね。




