番外編、昔の話
グダグダ感に拍車がかかっています!
「うおぉぉん!」
魔獣の断末魔が聞こえた。
「コア君。お疲れ様!」
元気一杯に寄ってきたのは恋人のルージュだ。
「ルージュもお疲れ様。」
俺が頭を撫でるとルージュは気持ちよさそうに目を細める。
これは、まだ最大の不幸を知らない時の俺である。
俺が『最強』の座に就いてから2年。
世界は戦争真っ只中。
王国と帝国の争いは絶えない。
昔に停戦したが半年と持たずにまた再戦。
戦争に投入される身にもなって欲しい。
しかし、今はそんなことは忘れてこうして恋人と暮らしている。
戦況が悪化すれば駆り出される。
つかの間の休息。
俺とルージュはクエストを終えて家に帰った。
「あぁ、おかえり。」
俺の家に居座るこいつは、マーリン(後のフェルテン)。
防御や回復を得意とする魔術師。
一応こいつにも恋人がいるはずなのだが…。
「マナはどうした?」
「彼女ならいるよ?」
「?」
と、その時。
「マーリン。お待たせ〜。」
お茶を持って入ってきたのはブロンドの髪に青と緑のオッドアイ。
身長は、俺の胸辺りでかなり小さい。
「あ、コア帰ってたの?」
「お前らはなんで俺の家に当然のようにいる。」
「君が寂しいんじゃないかと思ってね。」
「ルージュがいるんだから大丈夫だって。」
こんなやり取りをするのも何度目だろうか。
「クエストに行くなら僕も呼んでくれればいいのに。連れないなー。」
「ルージュがいれば回復はいらないし防御だってそんなに必要ない相手だ。」
「けど、コア君。何度も攻撃当たってたよね。」
「自分が被弾したと思わなければそれは、被弾してないんだ。」
「暴論だー!」
「それにしても、王国の3騎士中2が揃ってるんだから凄いよね。」
「ほんとだね。そう考えるとなんか誇らしいかも。」
王国3騎士。
剣、盾、拳
この3つの要素からなる王国最強の戦闘集団の事だ。
ナイト・コア=剣
マーリン=盾
ジン・レイフォード=拳
「ジンとコアは昔から仲が悪いよね。」
「反りが合わないんだ。」
「その割には、戦闘中は、息ぴったりだけど?」
「たまたまだろ。」
俺とジンは昔からの犬猿の仲でまともに話したことすらない。
「マーリン。戦争に出ている時のコア君ってどんな感じ?」
「そうだね…例えるなら嵐かな。」
「嵐?」
「そう、嵐。一度戦場に姿を現せば敵陣は戦意喪失。逆に味方の士気は上がり戦況をひっくり返す。それが彼だね。」
「コアは、誰よりも先に敵陣に突っ込み活路を開く。例えそれが盾兵80人だろうと歴戦の名将だろうと問答無用で突貫する。」
「だから、彼に憧れて騎士団に入団する者も多いよ。」
「コア君って凄いんだね。」
マーリンの言っていることは間違いではないが俺からすれば戦略とかめんどくさいから突っ込んでいるだけそれを人は勇敢と言う。
「買い被り過ぎだ。俺はただ人を斬っている人斬りだ。」
「またそんなこと言って!マイナス思考はダメって言ってるでしょ!」
俺はほっぺを左右から潰されていた。
「ネガティブじゃなくて事実だ。」
「事実でもだよ!コア君は殺したくて殺すんじゃないでしょ!だから、そんなこと言わないの!」
「だから...」
「返事!」
「.....はい。」
毎度こうだ。
消極的な考えをルージュは嫌う。
常にポジティブでいればいいことがあると思っているらしい。
何とも幸せな考え方である。
そして、それに感化されたのが今の俺である。
傍若無人でただ暴れていただけの俺を人として生活出来るまでにしたのは単にルージュの頑張りだろう。
「あのナイト・コアが支配されているなんてね。」
「昔の君が知ったらルージュちゃんを殺しに来るんじゃないかな。元々君は誰かに縛られるのを嫌うわけだし。」
余計なお世話だ。
俺は好きでルージュと一緒にいるわけだし今俺がこうして平常を保っていられるのはルージュのおかげでもある。
次の日。
「今回は邪魔すんなよ。」
いきなり無粋な声をかけて来たのは『剛拳』のジン。
「あ?お前が邪魔してきてんだろ?」
「あぁ?やんのか?」
「帝国よりお前を殺さなければならないらしい。」
ここは既に戦場だと言うのに俺とジンはいがみ合う。
「はいはい。そういうのは戦争が終わってからにしてねー。」
マナが俺とジンのいがみ合いを終わらせる。
「君達は仲がいいなー。」
「「あ?何言ってんだ?殺すぞ?」」
「ほら、仲がいい。」
その時、マーリンに向かって剣と拳が向けられる。
ガギンッ!
ガン!
2つの武器はなにか硬いものに阻まれる。
「無駄に堅い守りだな。」
「戦争が終わったらいくらでも殺されてあげるからその為にも早く終戦させよう。」
「そうだな。戦争が終わればこの馬鹿と顔を合わせなくて済む。」
「って居ねぇ!」
「コアならもう行ったよ?」
「あの野郎!フライングだぞ!」
これももう恒例行事。
喧嘩してマナが辞めさせてマーリンがからかって俺が出撃する。
こうして、今日も敵を殲滅していく。
それは、昔の俺からすればただの作業。
動くものをただ切り伏せるだけの単純な作業。
しかし、ルージュと出会って人を斬る時に少し罪悪感を感じるようになった。
まったくルージュも物好きだと思う。
俺がルージュと出会ったのは1つの村を敵兵迎撃の拠点にした時のこと。
その村は、後には標高3000m級の山々が連なる山岳地帯、前は山上の雨で頻繁に洪水を起こす大河。
不安定な立地故に食糧難に襲われていた。
その時に俺達率いる王国騎士団が通りかかった。
しかし、今回俺達は、戦争に来ているのであって食糧配給に来ているのではない。
当然なことに余分な食糧は持ってきていない。
騎士団としても迎撃場所となる村に気を使う必要はない。
その時の俺はなにを思ったか自分の分の食糧を村人全員に分けたのだ。
多分食糧は後で自分で魔獣でも狩って食べればいいとでも考えていたんだろう。
自分の分のを配る時に初めに配ったのがルージュだった。
彼女は、歳の割にはやせ細って肌にも髪にも艶はなかった。
ルージュが食べ始めるとほかの村人も寄ってきたので俺は自分の分の食糧を全て村人に分け与えた。
その村を迎撃拠点にしている間村は大賑わいだった。
俺が食糧を分配しているのを見てほかの団員は、自分の食糧を村人に配り始めた。
敵隊と衝突するまで俺は周りの魔獣を狩って村の女性が調理して食べるということを繰り返した。
その時に動いていたのがルージュだ。
俺に恩を返そうとしていたらしい。
俺も狩りが出来て楽しい、村人も食べ物が出来て助かるのwin-winの状態だった。
それは、実に楽しい時間だった。
敵隊との交戦後、負傷者はいたものの死んだ団員はいなかったため早急に兵を返した。
返した。というのは俺はその村に残ったのだ。
理由は、敵が同じ場所を攻めてくるかもしれないから。
同じ村に陣取って敵の懐に一気に攻めるというのはよくある話。
それを防ぐために俺は残った。
というのはもはや、口実にしか聞こえなかったと思う。
その頃から、ルージュは俺に懐いて頻繁に俺の元に来るようになっていた。
俺が寝泊まりしているのは掘っ立て小屋もいいところなボロボロな家屋。
数日駐屯するだけなのでもう使っていない家屋を貸して貰った。
のだが、暇さえあればルージュは俺のところに来て「なにか話をして!」だの「武器を見せて!」と来るようになった。
ルージュ自身、両親はルージュが幼い時に亡くなっていてルージュは他の村人達が協力して育てたらしい。
その村にもルージュの他にそういう子がいたらしい。
数日、駐屯して女王から撤退令が出たので俺は帰ることになった。
その時だ、
「あの!私も連れて行ってください!私に出来ることなら何でもします!だから、お願いします!」
と、そう言った。
まさか連れて行ってくれと言うとは思ってなかった俺は少し面食らったが少し考えた。
ルージュを連れていくリスクと俺が暴走するリスクどちらが大きいかを。
けど、そんなもの考えるまでもないことは俺も分かっていた。
数分考えた結果、俺はルージュを連れていくことにした。
「来てもいいがお前が望んでいるほど幸せなものではないぞ。」
「それでも、構いません。」
ほかの村人を見る限り反対の顔をしている者は1人もいなかった。
俺は『ゲート』で王都に戻った。
俺は特定の家を持たなかった。
当時は、寝る時は大体戦場だったし休暇を貰っても戦場視察に出ることが多かったためやはり、寝るのは戦場となった。
女王に頼んでルージュを俺専属のメイドにしてもらった。
その後は、主と従者の恋物語である。
数年しても戦争は終わらなかった。
俺とルージュの関係は主従を超えた関係になっていた。
この頃には、「コア君」呼びが当たり前でお互いに主とメイドであることを忘れていた。
そして、また数ヶ月たったある日俺はルージュに告白された。
俺は即了承して今の恋人同士になった。
「なにか考え事かい?」
いつの間にか俺の隣には、マーリンがいた。
「ルージュと出会った時のことをな。」
「なにそれ!気になる。」
マナが食いついてきた。
って、マナは味方強化型の魔法使いなんだから前に出てきちゃダメだろ。
マーリンの盾があるからいいようなものの。
ほんとに女の子ってこういう人の色恋沙汰が好きだよな。
質問攻めにされる未来が見えた。
「これが片付いたら話してやるよ。」
俺は再び敵陣のど真ん中に突っ込んだ。
そして、最後にもう一度。
これは、まだ最大の不幸を知らない頃の話である。




