79話 思いと会談
俺が目を覚ますとそこにミミはいなかった。
一瞬焦ったが朝食を作る音とキッチンの方からミミとシェリーの声が聞こえてきたから俺は安心した。
「あ、起きてる。」
「あぁ、おはよう。」
「おはよう。」
朝食ができたのでシェリーが起こしに来た。
「もう傷は大丈夫なの?」
「完全とは言わないが大分よくなってるよ。」
あの時のキスで一応は傷が塞がった。
あの時のことは俺自身よくわかっていない。
「そう。無理はしないでね。あと、朝ご飯出来てるから。」
俺はシェリーに返事をした後にあの時の事を考えた。
ミミとキスをした瞬間、俺の体では明らかな変化があった。
しかし、その変化は表にでるようなものではなく、あくまで体の内部での変化らしい。
自分を[神眼]で視たが前からの魔力変化からなにも変わっていなかった。
あの時の感覚...体中を何かが駆け巡る感覚。
形容こそできないが確かにあった。
ま、ミミから感じた感覚だから悪いわけではないだろう。
ミミからデバフをもらうなら大歓迎だが。
そのあとは朝食を摂って部屋でゴロゴロした。
たまにゆっくりするのもいいもんだな。
帝国の一件があったから、俺はメアと共に帝王がいる帝都に訪れた。
帝国は王国と違って有志で兵を募っている他国からすればかなり自由な国だ。
その為、兵の数は揃えられないがその分、質は高い。
帝王に会うため俺達は城を訪れた。
案内人が馬車から降りる俺達を出迎え、帝王のいる部屋に俺達を案内した。
扉が開くとそこにはもう50は確実に過ぎているであろうご老人がそこにいた。
顏の皺が目立ち、杖をついている。
「今回の件は誠に申し訳ない。」
「以後このようなことがないようにしてください。」
メアの目線はかなり冷たかった。
声だって俺が聞いたことないほどの冷たさを放っていた。
「そちらの政治事情をとやかく言うつもりはありませんが、このようなことが頻発しますと王国、鳳国ともに黙っているわけにはいきません。下手をすると、二対一の戦争が起きてしまいますよ。」
「ホントに申し訳ない。あの事件に関与した名家は爵位を没収して牢屋に入れてある。」
ま、同然の処置か。
「俺からもいいか?」
「なんでしょう。」
「帝国の獣人嫌いはどうにかならないのか?」
ミミから聞いたが今回の事件は、「獣人が醜い生き物と証明するために起こした。」とミミの隣にいた男が言っていたそうだ。
帝国の獣人嫌いがなくならない限りまた起こると思うが。
「そもそもとして、先に仕掛けてきたのは向こうだ。」
「確かに歴史を紐解けばそうだろうが、そんなこと言ってたら戦争なんてなくならないぞ。」
「そうだが...。」
神と戦おうとしている今、こちら側の連携が崩れれば今回の作戦など簡単に崩れてしまう。
まぁ、それを知らないのだから無理もないか。
そのあとは順調?に会談は進んだ。
メアが常に相手を睨みつけていたこと以外は...。
「すいません。ナイト。」
「なんでメアが謝るんだよ。」
「いえ、かなりお恥ずかしいところを見せてしまいましたから。」
あ、気にしてたのね。
「メアが謝る必要はない。今回の事件は向こうの一方的な私怨だからな、きにすんな。」
「ありがとうございます。」
問題は、国同士のバラバラさだ。
さっきも言ったが、神と戦うには王国だけの戦力だけでは到底神には太刀打ちできない。
王国、帝国、鳳国、エルディア。
この四国が協力しないとおそらく負ける。
鳳国は戦争否定国だが、人類が終わるという狭間でそんなこと言ってられないだろ。
メアにもやることが多いらしく俺はメアを王城まで届けた後屋敷にもどった。
「おかえりなさいませ、ご主人様。」
「おう。」
「...いかがなさいましたか?疲れているようですが。」
「まぁな、この短い期間でかなり状況は変わったからな疲れもする。」
「...ご主人様は前に、「帰る必要はない。」とおっしゃっていました。その理由をもう一度聞かせていただけないでしょうか。」
「ちょっと、違うな。」
前はまだ、気持ちの整理とかついていなかった。
シェリーのこともまだ片付いていなかった。
「まぁ、いいや。理由は、前の世界の連中よりミミ達を守るべきと俺は感じているから。」
「その事なのですが…。まだ私は弱いでしょうか?ご主人様の右腕には程遠いでしょうか。」
そうか。あの時の言葉をカトレアは
『自分は主に守られなきゃ生きていけない弱者。』
と考えたらしい。
「いやいや!そうじゃなくてな。例えカトレアがどんなに強くても俺はカトレア達を守らなきゃいけないんだ。」
「それは、主としての責任もあるし男としての責任もある。だから、気にするな。カトレアは十分強い。」
少なくとも俺が今のカトレアの年齢の時よりは。
「そうですか。考えたのは杞憂だったようですね。」
「深く考えるなとは言わないが俺の言うことをあまり真に受け止めすぎるな。」
カトレアは物分かりはいいのだが俺の言うことを信じやすい。
まぁ。それくらいに信頼されているということなんだがな。
俺はソファーにぐでーと寝っ転がった。
この世界に来て半年位か?
その間、色んなことがあった。
ミミと出会ってノーツと決闘して今までにない感情に惑わされてと。
平和を望む俺からしてみれば波乱万丈すぎる人生だ。
過労でよく死ななかったと思う。
異世界の観光なんて普段はできないから今のうちに楽しもうという魂胆でやっていたがその内なんか凄い事に巻き込まれていた。
それは、婚約者のことだったり神々との戦いであったり。
「賑やかすぎるだろ。」
思わず笑いがでる程に可笑しな旅だった。
しかし、まだやる事は残っている。
さっき帝王と話している時に3国の会談を計画した。
その旨はもう3国に伝えてある。
「ご主人様。またお仕事なさるのですか?」
「まぁな。」
「お体には気をつけてくださいね。」
「分かってるって。」
いや、本当は酷使し過ぎている部分もあるのだがミミのそばにいれば回復するから大丈夫だろ。
この回復は決して、「可愛いから癒される。」という訳ではなく「謎の回復効果がある。」ということから来ている。
俺の[神眼]ですら不明な未知の力。
まぁ、回復するから酷使しても大丈夫というわけだ。
「んじゃ、俺は会談に行ってくる。」
「はい。お気をつけて。」
この会談は鳳国で行われる。
理由は、鳳王があまり体が動かないことが主な理由。
3国には、警備を付けてもいいとしている。
じゃなきゃ危ないからな。
帝王は5人ほど鳳王は3人ほど王女はなし。
メアのなしというのは俺がいるから大丈夫ということらしい。
俺が鳳国に行くともう3国のトップは集まっていた。
「ナイトが最後ですか。」
「悪いな。仲間への説明が長引いた。」
実際は、ゆっくりし過ぎただけだが。
俺は、メアの横、机の目の前に立って開始の合図をした。
「これより、王国、鳳国、帝国の3国の会談を始める。指揮は、王国護衛筆頭、ナイトが務める。」




