75話 始動と理由
「これからどうするの?」
「ミミを助け出す。」
「そう簡単に言うけどね。場所すら分かってないのよ?」
場所ならもう分かっている。
俺のスキル[反響]は使う魔力量によって広さ、精度を高めることが出来る。
そして、半分の魔力を使った結果、帝国の北側。
ダリル領だと言うことが判明した。
おそらく、ララに化けた何者かがミミの気を失わせて攫ったのだろう。
「場所が分かれば助けようもあるけど今の状況だと何にも出来ないわね。」
「ご主人、その腕輪で場所は分からないの?」
「この腕輪は、装着者をパワーアップするための腕輪。場所を特定するというような機能はない。」
「俺は少し頭を冷やす。こんなんじゃミミは助けられない。」
俺は頭を冷やすため自室に篭った。
ミミがいるのはダリル領。
ダリル領は周りが平原でこっそり近づいて助け出すことは出来ない。
だとしたらやることは1つ。
正面突破のみ。
相手の戦力は多く見積もっても6万があの領地じゃ限界だ。
6万。
たかが6万だ。
かつて10万を相手した俺の相手ではない。
と、そこでドアを誰かがノックした。
「ナイト。大丈夫?」
「今のところは。」
俺は天井を向いたままだが声で誰か分かる。
それに俺をナイトと呼ぶのはシェリー。メア。ベリアルの3人。
この状況で来るのはシェリーしかいないだろう。
「ねぇ。ひとつ変な事聞いていい?」
「なんだよ。」
「ナイトはもうミミの居場所分かってるんじゃないの?」
「分かった上でこうしてベットに寝ている理由はなんだ。」
「私達を参戦させないように夜になったら出ていくつもりなんでしょ?ナイトのことだから、また自分を責めてるとおもった。そしたら、ナイトは自分一人で解決しようとするはず。」
俺のことよく分かってるじゃないか。
大正解だ。
「ミミやシェリーが攫われたら俺は平常心を保てない。それを今の保っていられるのはシェリーがいるからだ。ミミの場所が分かってるならもうとっくに行ってるさ。」
正解だが俺から出す答えは不正解の答えだ。
「そう。ありがとう。」
そう言うとシェリーは俺に抱きついてきた。
「絶対に自分だけを責めないで。ミミが攫われたのはナイトだけのせいじゃない。それだけは分かって。」
「................あぁ。」
それから時が経ち夜。
さて、ミミを助けに行きますか。
俺以外は全員寝ている。
今回のミミの誘拐事件は俺が引き起こしたと言ってもいい。
俺の不注意で起こったことだ。
あの時、[神眼]を使っていれば見破れたはずだ。
「んじゃ、行ってくるわ。」
俺は誰に言うでもなくそう言ってダリル領に走った。
**************
ここはどこ?
暗い。揺れている。
体が動かない。
違う、まずは落ち着かなきゃ。
私はここまでの経緯を思い出した。
ナイト様と分かれてララ様とお庭に出て...ダメ。
そこから思い出せない。
兎に角分かっているのはなにかの乗り物に乗っていること。目隠しと猿轡と手をなにかで縛られているということ。
そして、乗り物の衝撃で私はまた気を失ってしまった。
次に目を覚ますと、高いところにいた。
目隠しはと猿轡は外れているが手は後に回され手錠で後ろにある十字架に繋がれていた。
「おや。お目覚めかい?」
「!貴方は誰ですか?ここはどこですか?どうして私を攫ったんですか?」
私は横にいる、金髪で翡翠色の瞳が印象的な青年に詰め寄った。
目がぼやけてハッキリとは見えないが年齢は20代前半。
かなり若い。
「まぁまぁ、一個づつ答えよう。」
「僕はダリル・ラッシュ。」
「ここは僕の領地、正確には、父上の領地だね。」
「で、君を攫った理由は僕には分からない。全て父上の命だからね。」
「これから私はどうなるんですか?」
「多分、殺されるじゃないかな?」
ラッシュと名乗った男は淡々と告げた。
「どうやって入ったか知らないけどここは帝国だよ?獣人が嫌われているのは知ってるよね?正規の手続きを踏まえて入ってきてるなら知ってるはずだよ。」
「『帝国に入っても構わない。しかし、命を狙われる危険があるから常に警戒するように』てね。」
今までナイト様のゲートを使っていたから気が付かなかった。
けど、場所は分かった。
なら、ナイト様に知らせるのみ。
私がナイト様との同調を使おうとすると体中にビリビリとした痛みが走った。
「ああああぁぁぁぁ!」
「あはは。なにかしようとしたみたいだけど無駄だよ。君が繋がれている鎖には魔封じが使われているからね。少しでも魔法を使おうとすると痛いよ?」
ナイト様に知らせる唯一の方法を絶たれた私になにが出来るだろうか。
いや、何も出来ない。
魔法しか取り柄のない私から魔法を取ったらただの犬獣人になってしまう。
「やぁ、エレノア嬢。こんなところになんのようかな?」
「少しその子と話したいの。ラッシュはハイドが呼んでたよ。」
「伝達感謝するよ。話してもいいけど鎖を壊しちゃダメだよ。」
なにやら横では話が進んでいた。
ラッシュとかいう男が去って今度は悪魔の羽を生やした女の人がそばに座った。
「貴方名前は?」
「えっと、ミミです。」
突然の質問に正直に答えてしまった。
「ミミ、大事にされてるのね。」
「大事にですか?」
「えぇ、普通、ミミみたいな可愛い獣人は奴隷商に売られて買い手の性処理に使われるのがオチよ。なのにミミからはその匂いがしない。」
「あの、貴方は一体...。」
「私はエレノア。サキュバスよ。」
サキュバス。淫魔とも言われる。
人の精をエネルギーとする種族だったきがする。
「ミミのご主人はどんな人?」
「えっと、気分屋で強くてこんな私でも大切にしてくれる優しい方です。」
は!また正直に答えてしまった。
エレノアさんと話していると自然と答えてしまう。
「そう。羨ましいわね。私も今となってはいい主人を持ってるけどその前とかは私の体を必要以上に求める人でサキュバスである私が疲れちゃう程で大変だったのよ。」
「私も前は大変でした。気に入らないとか言って殺されそうになったことがありました。そんな時に今のご主人様が助けてくれたんです。」
「一目惚れだったでしよ。」
「...はい。」
それから私は捕まっていることも忘れてエレノアさんと話していた。
同じ奴隷出身としてかなり興味深いことも聞けた。
「ミミは殺されないよ。今の判断ではね。」
「そうですか。少し安心しました。」
「ミミの主人が助けに来るまではミミは死なない。むしろその主人がここに来てからが勝負よ。」
「ミミの腕輪。トラストリングでしょ?」
「はい。」
「ミミが助かりたいなら主人を全力で応援すること。そうすれば助かる。」
「あの。敵なのに教えちゃっていいんですか?」
「私はただのサキュバスだから。ここにいるのはただの気まぐれ。ラッシュ達は味方だと思ってると思うけど。」
「まぁ、もうすぐ夜があける。今のうちに寝れるなら眠っておくといいわ。それじゃ頑張ってね。」
そう言うとエレノアさんは、蝙蝠になって消えてしまった。
そっか。サキュバスの活動時間は、夜だ。
だから、朝は寝る時間だもんね。
ナイト様は来てくれるでしょうか。




