74話 協力と誘拐
「シェリー?」
俺達の前に現れたのはシェリーだった。
「だれよ。シェリーって。私はこの冥界の主エレシュキガルよ。」
「いや、シェリーっていうのは俺の嫁の名前だ。お前とそっくりというか同じ顔の。」
身長こそ違うが顔だけ見れば完全にシェリーだった。
瓜二つの2人が並んだら正直どっちかわからないかもしれない。
まぁ、[神眼]で視れば一発だから間違えることはないと思う。多分。
「で、私に用があったんじゃないの?」
「あぁ、俺達に力を貸してほしい。」
「無理ね。」
エレシュキガルは即答した。
「理由は聞くまでもないでしょう。私はこの冥界での権限が強い代わりに地上での活動が困難なの。だから、力を貸すことはできないわ。」
「じゃあ、イシュタルが動き出すっていったら?」
「...なんで、そんなことがわかるのよ。」
「今俺達がやろうとしていることは神への宣戦布告。それに応じない神どもではない。となると必然的にイシュタルも出てくることになる。」
「あなたたちは何者?」
「ただの一介の冒険者だ。」
「うそね。言ったでしょ?ここは私の能力圏内。嘘ついてもバレるわよ。」
「まぁ、訳あって真実は話せないがベリアルの仲間と思ってもらって問題ない。」
「あの、エレシュキガルさんはイシュタルさんと姉妹なんですよね?」
「えぇ、残念なことに姉妹なのよ。」
「なんで、そんなに仲がわるいんですか?」
「私は死をイシュタルは生を司っているの。だから、対立関係にあるのよ。」
「正確にはエレシュキガルは60の病を操り人を殺す。逆にイシュタルは多くの神性を持ちその神性で人々に希望を与えるっていう具合だったか。」
「そう聞くと、エレシュキガルさんは悪なんではないでしょうか?」
たしかにエレシュキガルは第三者から見れば悪だろう。ただし、聖を名乗っているものが常に正義の味方とは限らない。
実際、神共が企てていることは人類史の白紙化。
この段階でどっちが悪かと聞かれれば答えは決まっている。
「『善悪』に定義はない。どっちかが善ならもう片方が悪になる。その、善悪をきめるのはその人の匙加減だ。」
「へー。あんたも中々いいことを言うじゃない。」
「俺は知ってるんでね。イシュタルとエレシュキガルの関係を。」
イシュタルか神々にチヤホヤされていること。
エレシュキガルは邪険にされ忌み嫌われていたこと。
もう少し、前の世界での文献を読み漁れば数えきれない程でてくるだろ。
「しょうがない。そこまでいわれちゃ冥界の主の名が廃るってもんよ。いいわ。特別に手伝ってあげる。」
「本当ですか!」
「ただし、私は地上へは出れないからそのつもりで。でも、出来る限りの協力はする。」
「やけに協力的だな。」
「妹が迷惑をかけるんだから尻拭いくらいはするつもりよ。」
本当にそれだけだろうか。
「協力感謝する。」
「ありがとうございます。」
俺とミミはエレシュキガルに礼を言ってまた白いゲートをくぐった。
(善悪の価値観は人それぞれか。)
今まで妹と比べられ下に見られてきた。
正直言って嬉しかった。
彼はただ、善悪という言葉に意味はないといっただけだがそれでも、私は妹に劣らないと言ってくれているようだった。
は!
私はどうしてしまったのだろうか。
冥界暮らしが長いせいで感覚が狂ってしまったんだ。
いくら彼でも『美の女神イシュタル』を見ればそちらに行ってしまう。
きっとそうだ。
エレシュキガルは寂しい顔をしていた。
「ベリアル。今帰った。」
「うむ、意外と早かったな。」
「エレシュキガルが急に協力的になってな。なんとか協力してもらえそうだ。」
「急に協力的に...。「協力しないと卑猥なことをする」とでも言い寄ったのか?」
「流石変態の創造主考えが違う。あのな、正妻の目の前で口説くほど遊び人じゃないぞ。」
「しかし、仲間はナイト以外全員女ではないか。」
「そ、それは自然とそうなっただけだ。」
「弟子入りの志願もあっただろ?」
「俺の強さは俺の能力、スキル込みの強さだ。一般人には耐えられない。」
「ま、ナイトの女好きは今更か。」
「誰が女好きだ。」
「シロの初めてを奪ったのだろ?」
「..................は?」
「シロが言っていたぞ。『ナイトさまに初めてを捧げました』と。」
「ちょっとあのポンコツ壊してくるわ。」
俺が部屋を出ていこうとするとちょうど、シロが扉の目の前にいた。
「どうなさいましたか?ナイトさま。」
「お・ま・え!話を省略して伝えるな!なにかしらの誤解が生まれる。」
「その方が効率的で分かりやすいかと思いました。」
あぁ、確かに効率的で分かりやすいだろう。
ただしそれは、事の進捗状況を知っている者にしか使ってはいけないことだ。
いきなり省略された話を聞いた者は高い確率で勘違いがする。
結局シロが言ってたのは屋敷前でのキスの事だった。
いや、あれも俺が望んだことじゃ無くてシロがかってにしてきたから俺は全くの無罪なんだが。
これをベリアルに話したのだが...。
「酷いです。私にあんあことをしておきながら。」
「黙れ。ポンコツ。バラバラにするぞ。」
「シロ。ナイトに何をされたんだ。」
「いきなり抱きしめられました。」
「あれはお前がいきなり飛びついてきたからだろ!」
廊下を歩いていると後ろからシロがそのまま飛びついてきた。
意味が分からず抱き留めてしまった。
「ナイトは獣だったな。」
「はい。」
「神と戦う前にお前らと戦うことになりそうだな。」
「そう本気にするな。ただのお遊びじゃないか。」
「そのお遊びで俺が怒られるから勘弁してくれ。」
いくらでさえ男が俺とジルの2人だけなんだ。
肩身が狭いことこの上ない。
フレイアのところに行って男の神と手合わせしてくるか。
「さて、そろそろ神に宣戦布告するとしようではないか。」
「カスピエルとかはもう準備できてるのか?」
「あぁ、彼女曰く充電で来たと言っていたな。」
充電の言葉が引っかかるがまいっか。
「クザフォンは?」
「彼女も問題ないそうだ。」
「問題があるとすれば帝国のことだ。」
「具体的には?」
「なにか動いているようだ。まぁ、こちらとは別の用みたいだがな。」
「なら。無視していいんじゃないか。」
「近々神共に宣戦布告をするということは覚えておいてくれ。」
「わかった」
俺がベリアルと話していると廊下から誰かが走ってくる音がした。
「ナイト!大変だよ!」
扉を開けて入ってきたのはシェリーだ。
「どうした?」
「ミミが攫われた!」
「は?ミミならララといっしょにいたぞ?」
「私はミミさんと今日話していませんよ。」
「え...。」
俺が帰ってきたのは今から20分ほどまえ。
帰ってくるとララがミミと話したいというから俺だけでベリアルに報告にきた。
いや、そもそも、この屋敷の中に敵がいたということが俺としてはわからなかった。
ここはべりベリアル含めカスピエルやクザフォンだっている。
敵意があるやつが入ってきたらすぐにわかるはずだ。
しかし、そんな話は入ってきていない。
「サーヤ殿ではないか彼女は元敵なのだからミミ殿を攫う理由はあるとは思うが。」
いや違うサーヤではない。
サーヤは今もこのこの屋敷にいる。
サーヤがミミを攫ったのならこの屋敷に帰ってくることはない。
この屋敷には俺の顔見知りしかいない。
だとしたら誰が。
なんのために。
どうやって。
「考えるのは辞めた。情報が少ない。」
「ナイト。大丈夫?」
「今のところは落ち着いてる。」
今ある情報は
・ミミは攫われた。
・外部犯であることは確実。
・ララに化けてミミを攫った。
・ミミの行方は不明。
「この時期に攫われたとなるとキツイ。ミミが神共の手に渡ってしまえばナイトは動けなくなりいいなりになるしかないかなな。」
「わるいな。ベリアル。」
「構わん。今はミミを連れ戻すことが先だ。」
どこの誰だか知らないが
俺のミミに手を出した代償は高くつくぞ。




