73話 冥界とエレシュキガル
俺は不死のドラゴンの住処に行くため風都に来ている。
ミミと。
俺とベリアル達の話を聞いていたようで俺が行こうとすると「私も!」と飛びついてきた。
「ナイト様?本当に不死のドラゴンに会いに行かれるのですか?」
「まぁ、正確には、冥界に行くんだ。不死のドラゴンの住処は冥界に1番近いとされている。生者のまま冥界に行くのはこの方法しか考えられなかった。」
ミミが心配しているのは分かる。
冥界は死者の国。
下手をすれば2人とも帰っては来れないかもしれないから。
「大丈夫だって。別にエレシュキガルに喧嘩を売りに行こうって訳じゃないんだ。もうちょっと肩の力抜いた方がいいぞ。」
「ナイト様はお気楽過ぎます。万が一のことがあったらどうするんですか。」
「その万が一は起こさせないってことだ。」
ま、実際はどうなるか分からないがな。
エレシュキガルは冥界の主人。
冥界での権限は最高だしどのくらい俺に干渉出来るか分からない。
もしかしたら、命令1つで俺を死者に出来るかもしれない。
それは、行ってからのお楽しみだな。
そして、俺とミミは不死山に登った。
「意外と険しいな。」
「ナイト様が言うと嘘っぽく聞こえます。」
俺に横抱きにされているミミが言った。
「失礼な。こんな断崖絶壁登るの大変なんだぞ。」
「そう言いますがさっきからひょいひょい登ってるじゃないですか。」
「いや、でもミミを抱いたまま登るのしんどいんだよ?」
「それは、私が重いってことですか?」
ミミの目がジト目に変わった。
「そうじゃないけど人を抱えて山登りは大変なのは俺も例外じゃないってこと。」
いや、まぁ、ある意味重いんだけどさ。
特に胸部が重さに拍車をかけていると思うんだ。
不死山の頂上は遥か雲の上。
その上酸素も薄い。
「ナイト様。息が苦しいです。」
「『生命が求めし不可欠のもの。ここに来たれり』」
俺が魔法を行使すると俺とミミを空気の膜が覆う。
本当は水中で使う魔法だけどこういう使い方もある。
さて、頂上についた。
しかし、ドラゴンの姿は見えない。
「うーん。やっぱり嘘だったか。」
「どうするんですか?」
さて、どうしたものか。
「ナイト様!ここに穴がありますよ。」
ミミが指した方向には丁度人が入れる位の穴があった。
[反響]スキルで探ってみる。
色まで分からないが中の構造くらいなら分かる。
しかし、広いな。
もしかして、この山はこの穴に入る入口でしかないのではないか?
山の中は空洞でその広さは山の麓より奥深く。
その証拠に今でも下にはたどり着いていない。
「かなり、広い空間だな、降りて見るか。」
俺は先に降りてゲートでミミを呼び出し、また抱えて一緒に降りる。
「『暗い!』」
俺の魔法で灯りを付ける。
すると、そこには幻想的な空間が広がっていた。
俺の魔法に照らされて淡く光る青い魔石。
それが山の裏側の壁にびっしり埋まっている。
それは、満天の星空のようだった。
「綺麗。」
「青属性の魔石か。てことは、下は水がある可能性が高いな。」
魔石はその名の通り、魔力が詰まった石のことを指す。
作り方は様々だがその中に自然生成されるものもある。
その条件としては、
一定以上の魔力に充てられていること、
近くに属性となるものがあること、
そして、暗闇であること。
この条件からこの下は、水がある可能性があるってことだ。
「深いな。全く底が見えない。」
「そうですね、ナイト様の魔法でもまだ見えません。」
それからしばらく落ちてやっと底についた。
下にはちゃんと地面があった。
水の代わりにあったのは1本の大木だった。
「なるほど、木からでる水蒸気か。それで上の方に青い魔石が生成されたんだ。」
「けど、ドラゴンの姿はありませんね。」
「いや、この木がドラゴンの体の一部だ。」
その時、目の前の木が動き出した。
『こんなところに客人とは珍しいの。』
聞こえた声はしゃがれていて弱々しい声だった。
「はしめましてだな。深緑のドラゴン。」
「おぉ、その名は懐かしいな。」
「不死のドラゴンではなかったのですか?」
「不死のドラゴンってのはこの不死山が由来で付けられた名前だ。この空洞に入る者は大体瀕死だろうからこいつの正体を知るものはほとんどいない。」
ただ、ドラゴンがいたという印象だけが最後に残って皆に伝わったんだろう。
『して、今宵はどんな用があったのかな?』
「冥界に行きたくてな。行けるか?」
『行けなくはないの。ソナタらの神性であれば行くのは簡単であろう。しかし...』
「分かってる。エレシュキガルがいるって言うんだろ。」
『』 エレシュキガル様のお許しがないと冥界へは通せないのだ。』
「んじゃ、俺に交渉させてくれよ。」
『構わんが慎重に頼むぞ。あの方が怒ると手をつけられないからの。』
「分かってる。」
俺とドラゴンの間に白いゲートみたいなものが現れた。
『どうしたの?深緑のドラゴン。』
『エレシュキガル様にお会いしたいと申している者達がいまして。ご連絡させて頂きました。』
『そいつらってすぐそばにいる?』
『居ます。』
『そう、私からも話したいことがあったから丁度いいわ。そういうことだから、そいつらを冥界に通しちゃって。』
「俺が交渉するまでもなかったな。」
「エレシュキガルさんってそんなに性格がアレなんですか?」
ミミが濁したのもわかる気がするが実際俺は会ったことがないから分からない。
ただ、女神イシュタルと同等の力を持つということは確かだ。
俺とエレシュキガルがここで戦ったらお互いの初撃でこの山が吹き飛ぶだろうな。
『エレシュキガル様のお許しが出ましたのでお通り下さい。』
「ありがとうな。」
「ありがとうございます。」
俺とミミは深緑のドラゴンが出した白いゲートを潜って冥界に向かった。
白いゲートを潜った先は暗く所々に淡く光るなにかがある程度だった。
お化けとかダメ系のミミは潜るなり俺にしがみついて離れない。
「ナイト様。コレは何でしょう。」
ミミはなにか檻みたいなものに入ったなにかが気になったようだ。
「これは怨念だよ。現世に迷い後悔があるものの末路だ。」
おそらく、暴れないようにこの檻で捕まえているんだろ。
「取り敢えず。エレシュキガルがいるであろう場所に行ってみるか」
冥界といっても地獄ではない。
静かで少し涼しい。
「お化けとか出ませんよね。」
「さぁ、エレシュキガルの管理が甘かったら出てくるかもな。」
言い忘れていたがここでは地上で使える魔法は使えない。
つまり、エレシュキガルが攻撃してきたら反撃のしようがない。ということ。
そして、俺達は門の前まできた。
「ここが女神イシュタルが負ける原因となる門だ。」
「どいうことでしょうか?」
「この門はただの門じゃない。門を潜るごとに神格を剥がされていく。イシュタルがエレシュキガルの元に着くころにはただの人間になってるんだ。だから、イシュタルは負けた。」
「ナイト様は大丈夫なんですか?」
「あぁ、俺にはその手の物を封じる能力があるから。神格が剥がされることはない。」
7つの門を潜るとそこには屋敷が立っていた。
「よく、ここまでこれたわね。」
屋敷から出てきたエレシュキガルを見た瞬間。
俺とミミは己の目を疑った。




