68話 クザフォン
「サキさんと何を話していたのですか?」
「この世界のことについてだ。神に喧嘩を売るんだ言って置かないと勝ちようがない。」
「ほんとに~。怪しいわね。」
「最初の方に夜這いという言葉が聞こえました。」
「カトレア!余計なことは言わんでいい。」
「いえ、シェリー様から言えと。」
シェリー本人は背後から黒いオーラを出しながらこちらに近づく。
「やめろ。なんにもなかったって。カトレア、部分的に言わないで全部言ってくれ。」
「ご主人様とサキ様はただ、話していただけでした。ご主人様とサキ様の間は常に20m離れていましたから。」
「ふーん。カトレアが言うなら信じるわ。」
危なく、俺が先にやられるとこだった。
ベリアルと話してから5日後。
俺はエルディアと王国との国境付近に来ている。
隣にはミミ。
俺が夜遅くに出かけるのを不審に思って呼び止められてしまった。
仕方がないから連れてきた。
「ナイト様と二人っきりになるのは何だか久しぶりですね。」
「こうやって外で張り込むのは、ナナの時以来か。」
あの時は見事ミミに論破されたな。
「ナイト様。今日の夜這い相手はだれですか?」
「だから、夜這いじゃないって。」
ミミに見つかってからずっと聞かれている。
「大体、男か女かもわからないのに夜這いなんてできるか。」
「では、女の方だったら夜這いするんですか?」
「そうじゃないけど。」
と、俺達が話していると何かの足音が聞こえた。
[反響]スキルでわかったが人だ。
しかも、かなり身長は小さい。性別はわからない。
「あの方がナイト様が探していた人ですか?」
「多分。けど、ただの人型モンスターかもしれないから油断するなよ。」
『我が呼びしは漆黒の羽。クロウよ我の呼び声に答えよ。』
「ナイト様。今のは召喚呪文です。」
「てことは、こいつが戦力の一人、クザフォンだ。」
俺達が草むらから見ていると一羽の黒い烏が魔方陣から出てきた。
「クロウ。今日もあの方は来なかったです。またの5日後に来ましょう。さすがに2回もやっていれば予測を立てて来てくれると思いましたが来ませんでした。」
声からして少女だろうか。
少女は呼び出した烏に話しかけている。
「いたし方ありません。姫様が派手に動けば彼だけじゃなくほかの連中も集まってしまいます。今宵を期に周期を変えてみては?なにか変わればどんなことにも対応できる彼が出てくる可能性は広がるでしょう。」
「うん。そうしようか。」
烏が喋った。
いや、確かにモンスターの中には人の言葉を話す奴もいる。
しかし、あんなにも流暢に話すのはなかなかいない。
あんなのが神獣とでもいうのか。
「ナイト様?」
「取り敢えず話かけてみよう。危険を感じたらミミを家にとばすからそのつもりで。」
「はい。」
「お前ら。こんなところで何してる。」
「だれ!」
少女と思しき人影がこちらを向き腕に止まっていた烏は飛び立ち敵意を露わにしている。
「王国の騎士だ。検問所が近くでこの森に入っていくのを見てな。後をつけてきたんだ。」
「姫様!お逃げ下され。」
『我が呼びしは気高き羽。シルフィードよ我の呼び声に答えよ。』
少女が再び召喚獣を出そうとする。
「『散れ』」
俺のその一言で魔方陣は弾けた。
「きゃ!」
「姫様!」
「冗談だ。俺は騎士なんかじゃない。服装を見ればわかるだろ。」
「確かに、鎧を着ていない?」
「いや、油断させるためにわざと丸腰で来たとも取れます。お気をつけて。」
「まぁ、こっちが勝手に話すから聞いててくれ。」
「お前ら。ベリアルの名はしているか?」
「ベリアル様をご存知で?」
「実はそのベリアルからの直々の依頼でな。カスピエル・クザフォン・ワーヤック。この3人を集めてくれっていうな。」
「ベリアルお姉ちゃんをしってるの?」
「さっきからそう言ってる。俺はただの冒険者。ベリアルから依頼されてクザフォン、お前を探しに来た。」
「なるほど、そういうことでしたか。」
「烏さんはクザフォンさんの執事なんですか?」
「えぇ、まぁ、そのようなものです。あと、烏さんはおやめください。クロウとお呼びください。」
クロウはクザフォンの方に留まってミミと話している。
「ははは。同じ従者同士お互いに気苦労が絶えませんな。」
「そうですね。」
従者同士詰まるところがあるんだろう。
「ナイトお兄ちゃんはどうしてベリアルお姉ちゃんに協力しようと思ったの?」
「気分。」
「え?気分?」
「そう。面白そうだから。...というのは冗談で。守りたいから。」
「何をですか?」
「俺の居場所、ミミ達となんも変哲もない日常を送る場所を守るため。というと少し大げさだな。」
「私はいいと思いますよ?平和な日常。私も大好きです。」
帰り道、2人の気配を感じた。
「ゼクスとカナだな。まぁいい。ここは出よう。」
「しかし、クザフォンさんが連れていかれてしまうのでは?」
「そこは俺が何とかする。」
「おや?後輩君じゃないか。」
「なにしているんだ?こんなところで。」
「暴れてた犯人捜し。」
そこで、2人の視線がクザフォンに向く。
クザフォンは俺の後ろに隠れてしまった。
そりゃいきなり筋肉の塊がこちらを覗いてきたらびっくりするわな。
「この子が犯人なのかい?」
「あぁ、今は俺の肩に止まっている烏も召喚獣だ。」
「初めまして、姫様のお世話をしております。クロウと申します。」
「うわ!喋った!なにこれ面白い。」
クロウがカナの方に飛ぶとカナはそれを追いかけて走り回る。
子供かよ。652歳。
「では、俺の仮説は正しかったと?」
「そうだ。こいつが俺を呼ぶために暴れさせたそうだ。」
人がいないところに呼び出すように指示したのはクロウのようだが。
「で、ナイトと一緒にいるということは後は任せても大丈夫ということか。」
「あぁ、問題ない。任せてくれ。」
「隊長命令じゃ仕方ない。」
あ、俺隊長なんだ。
すっかり忘れてた。
「カナ!帰るぞ。後はナイトに任せよう。」
「うん。この鳥さん面白い!楽しかった!」
やっぱり子供だな、652歳。
俺達はゼクス達と別れてゲートでベリアルの屋敷までとんだ。
シェリー達にバレないように扉をゆっくり開けたが無意味だった。
玄関前にはシェリー達が仁王立ちで待ち構えていた。
「こんな夜遅くにどこ行ってたの?しかも、2人っきりで。」
「いや、1人多い。」
2人の目が怖いです。誰か助けてください。
「説明するから2人とも殺気をしまえ。」
「じゃあ、この子がサキが言っていたクザフォンなの?」
「そうだ。こいつがクザフォンだ。」
「小さいね。」
それをシアが言うかね。
あまり身長は変わらないと思うぞ。
「お姉さんになったみたい。」
俺から見れば双子だがな。
まぁ、本人達がいいなら口出しはしないが。
俺とクザフォンはベリアルに報告するためにベリアルの部屋に向かった。
「ナイトさま。我が主は今丁度お休みになられたばかりなので報告はまた明日にしていただけないでしょうか?」
「そうか。なら、出直そう。あ、けど、クザフォンの部屋を用意しないと。」
「ナイトさまと一緒の部屋ではだめなのですか?」
「それだと色々まずいだろ。」
「色々ってなんですか?シロ、わからないので詳しく教えてください。さぁ。」
このポンコツロボットが。
俺は変態から逃げるようにして自分の部屋に戻った。
翌日、俺とクザフォンが一緒に寝ているのをシェリーに見られて殴られたのはまた別の話。




