64話 カスピエルと解放
入ってきた女性は銀色の髪を腰の高さまで伸ばしていて鼻は高く目はくりくりしていて全体的に整っているもののまだどこか幼さを残している。
ミミをもう少し大人にしたような感じ。
「いかがなさいましたか?」
「いや、別に。」
俺は正直見惚れていた。
ミミが大人になったらこんな風になるのだろうか。
「私はエルディアを統治しています。エルディア・システィーナと申します。先日はヤンがお世話になりました。」
「俺はナイト。王国で女王の名誉騎をしている。」
「私は、アルベール・ギッシュが娘。アルベール・ララと申します。」
「というか、ヤンにも言ったがただの憂さ晴らしだから。あの豚貴族にイラついて勝手にやったことだし。」
「ヤンの言う通り謙虚な方ですね。」
「はー。もういいや。そういうことにしといてくれ。」
「それで?今回はどのようなご用件でいらしたのですか?」
「単刀直入に聞く。この国に捕らわれている魔物とかはいないか?伝承でも言い伝えでもなんでもいいだが。」
「なくはないのですが...。」
「なにか拙いことでもあるんですか?」
「つい最近、その者が捕らわれているという場所に行ったのですがとても入れる状況ではありませんでした。」
「と、言うと?」
「その者が捕らわれている場所は洞窟なのですが、入り口にはその者が放つ魔力に当てられたモンスター達が徘徊し洞窟の中も魔力が濃くて長時間はいられないんです。」
うーむ。やっぱそう簡単にはいかないか。
「いたのは、モンスターだけか?」
「恐らくそうだと思われます。」
けどまぁ、モンスターくらいなら駆除すればいけるか。
あとは、場所だな。
「実は、俺達はその洞窟にいる奴に用があるんだ。」
「ですので、洞窟まで案内していただけないでしょうか?」
「わかりました。案内いたしましょう。ヤンすぐに支度を。」
「は、はい!ただいま!」
「ヤンは私の近辺警護をしています。あんな性格ですが、剣の腕は一流ですし気遣いが出来るいい子ですよ。」
あーそういう関係だったのか。
しかし、アレが身辺警護ねー。人は見かけによらないものだ。
そして、カスピエルが閉じ込められている洞窟に到着した。
システィーナの言う通り、周りにはモンスターが徘徊しとても素通り出来る数ではない。
「ララはヤンと一緒に女王を守ってくれ。この数だ、俺一人で十分だ。」
「はい。わかりました。」
「だ、大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。ナイトさんはこの程度のモンスターに負ける程弱くはないです。」
俺が五歩程度前に進むと今まで無関心だったモンスター達が一斉に俺に敵意を向けた。
「なるほど、ここがお前たちのテリトリーか。」
テリトリーギリギリで剣を構える。
構えた直後、モンスター達が一斉に襲い掛かってきた。
俺は一本の剣を両手で持ち上半身を横にひねって威力を溜めた。
モンスター達の牙、爪、針が目の前まで迫った時、俺は勢いよく抜刀した。
東方の刀によく使われる技だ。
『抜刀術』
全神経を武器に集めて最高の瞬間で刀を抜き放つ。
カトレアが実践で使っていたので見様見真似でやってみたが意外と難しい。
しかし、『抜刀術』はタイミングを誤れば死ぬことだってあり得る一撃高火力の諸刃の剣。
何度も同じ場面では使えないし、瀕死の時に使うものだからホントはもっと威力が落ちるのかもしれない。
抜刀した剣の衝撃は奥のモンスターにまで届き50体以上いたモンスターは残り10体ほどまで減った。
「ララ!参戦してもいいぞ。」
「はい。では、ご一緒させていただきましょう。」
それからは、ララとヤンを中心とした前衛で俺は魔法で2人を回復する程度。
といっても、ヤンの剣筋が鋭すぎて二人とも血を浴びる程度、全然傷は負っていない。
2人がかりでやれば10体ぐらい数分で片付く。
「さて、3人ともここっちに来てくれ。」
『蝕むは同胞の魂。大人しく黄泉に帰るといい。』
「今のは?」
「どんな状況でも生活できるようになる魔法だ。」
「確かにさっきまで息苦しかったのが噓みたいですね。」
まぁ、本当は術者と同じ環境に住めるようになる魔法。
俺が神だからどんな状況でも生活できるようになっている。
(本当に生活できるかは、フェルテンで実践済み。)
前の世界で「人魚と一緒に生活したいからどうにかならないか。」と言われた時に作った魔法だ。
前の世界の魔法もなんだかんだ役に立つな。
「そんじゃ、行くか。」
「カスピエル...どんな方なんでしょうか。」
文献通りならアノ姿をしているはずだ。
俺達が洞窟内を進んでいると奥からジャラジャラという金属が擦れる音が聞こえてきた。
「なんですかこの音。」
やっぱり怖いのか。
ララは洞窟に入ってから俺の腕をつかんで離さない。
「多分カスピエルがもがいている音だろ。」
「ここに来る前にも言ったい通り『カスピエル』という名前には神に閉じ込められたという意味がある。」
「それに沿ってあるんだろ。」
「初めましてだな。カスピエル。」
「誰だてめえ。」
気だるげだが、しっかりと覇気はある。
油断すれば気を失ってしまうかもしれない。
「お前を解放しに来た。」
「オレを解放?はっ、笑わせるな!これは神共につけられた枷だ。お前みたいなヒョロヒョロな奴に外せるならとっくにオレが外してる!」
自分をオレと呼び相手に屈しない態度、言葉遣い。
「鬼神というのはホントだったようだな。」
「オレのことを知っているのか?」
「まぁな。」
「ところで、一つ取引をしないか?」
「取引だぁ?」
「ふん。どころ野郎かもしらない奴と誰が取引なんか。」
「俺と共闘するならお前を解放する。と言ったら?」
「どういうことだよ。」
「ベリアルの名は知っているか?」
「おー懐かしい名前だな!」
「ベリアルにお前を探すように言われてな。ここに来たという訳だ。」
「お前たちは何をしようとしてるんだ?」
「なに、神とのちょっとした戦いだ。」
「戦い...だと!」
「それを早く言えよ!そういうことならこのカスピエル、お前らと一緒に遊んでやってもいいぜ!」
「取引成立だな。」
俺はカスピエルの枷を外すためにそばに跪いて外そうとした。
むにゅ。
暗闇の中カスピエルに触れたせいでなにか柔らかいものに触れてしまった。
「き、きゃぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
今までのカスピエルからは想像もできないほどの高い悲鳴が聞こえた。
「お前!変なとこ触んな!」
「すまん。お前が女の子だとはわからなかった。」
こんなことなら[反響]スキルを使えばよかった。
俺でも驚きの事実。
カスピエルは女の子で男勝りな性格をしていた。
さっき触れた柔らかいものはカスピエルの胸だった。
そりゃ、あんなに怒る訳だ。
「んーーーー。久しぶりの外は気持ちな。」
「あんまり伸びはしないほうがいいぞ。」
「あんでだよ。」
「胸がすこし見えた。」
シャキーン。
気づけば俺の首筋に俺の胴回りより太い大剣の切っ先が突きつけられていた。
「次見たら殺すぞ!」
「いや、俺悪くないし。」
「あぁ!やんのかてめえ。」
「元気そうでよかったです。」
「元気すぎるのも問題だがな。」
「取り敢えず、これ着とけ。」
俺は、変装用に用意して置いたTシャツとかズボンをカスピエルに渡した。
今のカスピエルの服装は、ボロボロな布切れを腰や胸に巻いている程度。
靴はない、下着も多分はいてない。そんな奴をミミとかシェリーに見せるわけにはいかない。
「うむ。サイズもピッタリだ。けど、胸がキツイな。」
「まぁ、俺用に買ったものだからそれは我慢してくれ。」
カスピエルを解放した俺達は、システィーナとヤンをゲートで返したあとベリアルの屋敷に帰った。
(さて、これで神共がどう動くかだな。)
カスピエルを縛っていたのは、神の≪束縛≫能力。
それを俺は無理やり解いたから神側にもそれはもう知られているはずだ。
まぁ、俺の神名は神共にはわかる訳はない。




